7.嫌な予感は外れない『その漆』追憶の欠片、星屑の工房
流哉の視点で進みます。
楽しんで頂けたら幸いです。
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タイトル付け、大幅に加筆と修正を行いました(2025/03/08)
宝物庫。
異なる時間、過去が未来と混在し、あらゆる可能性が蠢く、それは万華鏡が見せる幻影のような場所。
それは、神代流哉にとって、言葉以上の意味と価値を持つ。
冬城燈華に頼まれた、『流哉の魔導器を見せて欲しい』という願いを叶えるために、魔導器を探すという目的。
しかし、流哉の意識は、別の何かを見ていた。
図書館での邂逅。
それは、偶然という名の必然だったのかもしれない。
扉の外と内とでは、時間の流れが異なる。
それは、この宝物庫が扉を挟んで外側とは異なる領域に存在することを証明している。
流哉が自室へ戻った時、扉の向こうから、燈華と母の話し声が聞こえてきた。
まだ、呼び声がかかるまでには、時間はあるのだろう。
その間に、何か見繕えばいい。
流哉は、そう考えた。
「ドワーフの誰かを捕まえれば、手っ取り早いんだが……付き合ってくれる奴は、いるのか?」
宝物庫の中は、ドワーフ族や、腕に覚えのある職人たちが住み着いている。
貴重品や魔導器を、ただひたすらに貯め込む。
それは、先代の祖母と、流哉に共通する悪癖だった。
ありていに言ってしまえば、散らかし放題の子供部屋。
そんな状態を、財宝を愛するドワーフ族が見れば、どうなるか。
想像に難くない。
祖母が最初に呼び出したドワーフは、太古の存在だった。
世界の理に最も近い、ドワーフの上位種。
面白いモノを召喚した、そう思った祖母は、呼び出した存在に、開口一番、雷を落とされたという。
しかも、その雷は、ただの怒りではなかった。
それは、ドワーフ自慢の、不壊不変のハンマーを投げつけられる。
不死であるはずの祖母が死を覚悟したという話しだった。
流哉が引き継いだ後も、宝物庫に放り込むだけで、片付けをしない主に、ドワーフたちが抗議することがあった。
しかし、彼らは、ただ抗議するだけではなかった。
彼らは、流哉に、宝物庫の真の価値を教えようとしていた。
宝物庫の中身を大切に扱えば、彼らは、何も言わず、整備や清掃まで行ってくれる。
しかし、粗末に扱えば、相手が主であろうとも、ハンマーが飛んでくる。
それは、彼らの優しさであり、彼らの厳しさであり、そして、彼らの愛情だった。
魔導器を作成し、調整する職人たちも、概ね、ドワーフたちと同じだった。
彼らは、ただ技術を追求するだけでなく、そこに、自分たちの魂を込めていた。
彼らが作り出す魔導器は、ただの道具ではなく、彼らの生きた証であり、彼らの芸術だった。
「さっき来た時は、話しかけられるような雰囲気じゃなかったからなぁ。
そろそろ、機嫌が良くなっていると良いんだが……何も言わずに、所有権の変更をしたことを、怒っているのか?」
本日一度目に訪れた時、文句を言っていたドワーフや職人たちが、素直に手伝ってくれるとは、到底思えなかった。
彼らが、流哉に不満を持っているらしい、ということしか、分かっていない。
おそらく、先日行った『所有権の完全移行の儀式』が、原因だろう。
しかし、考えていても、答えが出るわけではない。
分かる時が来るまで、待てばいい。
今、分からなくても、分かる時は、必ず訪れる。
それを待つ時間は、互いに、有り余るほどあるのだから。
それは、流哉が祖母と同じく不滅の存在であるからこその判断だ。
悠久に等しい時の中で、対話を重ねる時間など、いくらでもあるのだから。
「日に二度もこの場所を訪れるとは……珍しいこともあるものだ」
「用事を済ませるまでは、何度でも来るさ」
「まぁ、立ち話をしに来たわけではあるまい」
小柄で、荒れ地の土色をした肌の女性が、顎をしゃくって、ついて来いと合図する。
話を聞いてくれるというなら、願ってもない。
流哉は、後ろを振り返らずに、先を行く女性に、置いて行かれないように、後を急いだ。
神代流哉が保有する宝物庫。
祖母・神代月夜から受け継いだ場所の一つだが、ここは、他の場所より、少しばかり特別だった。
祖母が最初に作り上げたのは、宝物庫ではなく、自分の魔術に使用する触媒を制作するための工房が始まりだった。
材料や、作り上げた触媒を保管するための保管庫が必要になり、増改築を繰り返す。
古代のドワーフを召喚してからは、規模そのものが拡大していく。
召喚されたドワーフの数が増え、無念を抱えて死んだ職人を集めて、気が付けば、ちょっとした町という規模にまで広がっていた。
それは、祖母の才能であるものの、彼女が何を思い、何を考えての行動だったのか。
今となっては何も分からない。
ドワーフや職人たちの希望を聞くうちに、整備された工房と素材庫、制作された触媒を収める蔵が完成した。
祖母の収集癖と、ドワーフたちの趣味が合わさった結果、博物館のように飾り付ける場所までできた。
祖母は集めるだけ集めた物を、蔵の中へ放り込むだけ。
それを、埃を被らせておくのは忍びないという、ドワーフたちの意思によって整理整頓されていった。
流哉が初めて訪れたのは、魔法を継ぐと決まってから、祖母に連れられて来た時だったが……博物館まで込みの町を、『ここは私の自慢の宝箱』と言っていた。
それは、祖母の自慢であり、彼女の誇りであり、そして、ドワーフたちをどう思っていたのかの答えだ。
工房の町と、砂漠の図書館と、薬草が生い茂る夜の草原。
三ヶ所をつなぐ祖母の扉の先は、まだ『宝箱』だった。
ここが宝物庫へと変わったのは、祖母から部屋を流哉が受け取った後だ。
流哉が、ダンジョンと呼ばれる未発見の古代遺跡を探索することが多かった時期に、友人に連れられて行った先で、偶然発見した古代の遺物。
一見するだけでは、一枚の普通の岩で出来た板だった。
与えられていた役割は、内側と外側を隔絶すること。
簡単に言えば、内側から外へ、外から内側への相互の干渉を拒絶するだけ。
それは、古代の技術であり、古代の叡智の結晶であった。
友人は、その板によって遮られていた先のモノにしか、関心はなかったが、流哉は、その板が使えると確信していた。
その判断は直感だったが、流哉は己の直感を信頼している。
ダンジョンの中で得た物は山分けという約定だったが、友人は、『そんな板切れはいらない』と言い、『価値があるかもしれないが良いのか』と聞き返す。
少しだけ考えていた様子だったが、すぐに『その時はその時。どうせオレにはどう使っていいのか分からんし』と答えて、板切れは流哉が獲得した。
友人の好意だったのか、それとも何かの打算か。
どちらにせよ、流哉にとってありがたい申し出であった。
成功するか分からない実験だったが、ドワーフや職人たちは、流哉以上に乗り気だった。
彼らの好奇心、そして彼らの探求心。
そこにリスクを恐れて尻込みをするような弱さは存在しない。
古代の町で宝物庫を守っていた壁の一部は、ドワーフたちの手によって、生まれ変わる。
ダンジョンから持ち帰った板切れは、頑丈な城壁へと姿を変え、城壁は、そのまま『祖母の宝箱』を包み込む。
祖母の部屋と宝箱をつなぐ扉そのものと、宝箱を包む城壁の扉を繋げることで、この『祖母の宝箱』は、『流哉の宝物庫』へと変わった。
ドワーフたちの技術、街に集まる全ての創造力と知識の成果。
それが、流哉の宝物庫を誕生させた。
今では、流哉にとって、何よりも大切なモノの一つ。
宝物庫の中身は、祖母から受け継いだ大切なものが詰まっている。
中に住み着いているモノたち、その全員も、大切な存在だ。
一切後ろを振り返ることなく先を歩き、主に顎で指示をするドワーフの少女も含めて。
今回の話し、どうでしたか。
宝物庫の入り口で出くわした少女。
次回からはこのドワーフの少女にスポットを当てる予定です。
流哉の人材探しや訪れた目的等、楽しんで頂けたらと思います。
※三上堂司からのお願い※
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