9.嫌な予感は外れない『その玖』ドワーフの少女と職人の矜持
流哉の視点で進みます。
楽しんで頂けたら幸いです
タイトル付け、加筆と修正を行いました(2025/03/10)
頬を染める、幼い少女のような容姿、灰色の土気色の肌のドワーフの少女。
彼女の名はミスティ。
彼女の姿は、神代流哉が祖母・神代月夜から聞いた、ドワーフ族の伝承を思い出させた。
ドワーフ族には、特異な特徴がある。
男性のドワーフは、物語に出てくるような、髭を生やし、筋骨隆々《筋骨隆々》としたの姿をしている。
しかし、その肌の色は、太古の存在に近いほど灰色に近く、遠いほど褐色肌に近いという。
女性のドワーフは、男性とは異なり、幼い容姿をしている。
可愛らしい少女というのが、ドワーフの女性の特徴であり、他の種族の血が混じれば混じるほど、人間の姿に近づいていく。
しかし、肌の色だけは、男女共通である。
「手伝ってもらえるなら助かるが……何が目的だ」
流哉が尋ねると、ミスティは少しだけ頬を膨らませた。
「目的とは心外だな、言い出したのは主だろう」
「いや、それはそうなんだが……」
愛らしい仕草を見せるミスティだが、本来のドワーフ族の女性は、このような仕草をしない。
ドワーフの男性は、主に鍛冶や戦士の職に就く。
女性のドワーフは、男性よりも手先が器用なことを活かし、裁縫などの職に就くことが多い。
中には、男性に交じって鍛冶職をする変わり者もいる。
しかし、どちらにせよ、愛らしい仕草で媚びを売るような者はいない。
目の前にいるミスティは、それ以上の変わり者だった。
古代ドワーフに最も近い存在にして、最新のドワーフ。
男たちに交じり、鍛冶仕事をする変わり者だが、その腕は古代ドワーフとして恥じないものだ。
宝物庫の中でも、指折りの職人の一人である。
そんな彼女が、媚びを売るような仕草をするのは、何か裏があるに違いない。
「大体の算段は見当がついている。正直に言えば検討しても良いぞ?」
「それは本当だろうな?」
「ああ、オレは嘘をついたことはないはずだ」
「嘘をついたことはないが、誤魔化したことは多々あったはずだが?」
ミスティの言葉に、流哉は苦笑いを浮かべた。
「そこまで疑うなら妖精女王に誓いを立ててもいい、それなら納得できるだろう」
「女王に誓いを立てるとまで言うんなら信じるよ」
ようやく、ミスティは流哉の言葉に納得してくれたようだ。
あらゆる妖精と精霊を従える、大地の原初存在、『深き森と黒き荊棘の女王』。
彼女に誓いを立てるとまで言わなければ、信用されないとは……日頃の行いが悪いのか?
流哉は、そう自問自答した。
あれこれと考えているうちに、ミスティは一枚のパピルス紙を用意し、インク壺と羽ペン、短剣を差し出してきた。
「先に誓いを立ててもらうぞ」
「ミスティが納得するまで付き合うよ」
用意されたインク壺に、少量の水と煤を入れ、短剣で指先を傷つけ、出した血も数滴ほど壺の中へ。
インク壺の中身をミスティが混ぜている間に、指先の傷を魔術で癒す。
羽の先を確認するが、ペン先としては十分過ぎる状態だった。
「ペン先を削る必要はない。太古の鳥の尾羽を使ったペンで、一度形作ると形状が変わらないらしい」
「不正防止としてはこれ以上ないって訳か……それで、どう書けばいい?」
「今は私の願いに関して誤魔化しをしないことだけで良い」
「今はって……とりあえずは、『ミスティの願い出に関して誤魔化しや偽りをしない』で良いか?」
「それで良い」
ミスティの確認も取れたことで、パピルス紙にそのことを書き込み、最後に自身の名前を書き込む。
ペンとインク壺をミスティへ返すと、彼女もパピルス紙の流哉の名前の下に、ドワーフの言語で何かを書き込んでいる。
ミスティがパピルス紙の上と下の余白部分に妖精女王の印を書き込むと、紙そのものが崩れ去っていく。
書き込まれたパピルス紙が大地へ還ることで、女王への誓い立ては終わる。
「これで誓い立ては終わった訳だが」
「主に検討をしてほしいことは、私を主専属の技師にしてほしいってことだ」
「ミスティの頼みはそれか……以前、一度断っているのは覚えているか?」
「それでも、私は主の技師になりたい」
ミスティの意思は固い。
以前にも同じことを頼まれたことはあるが、その時は『必要ない』とキッパリと断った。
祖母に仕えており、そのまま今も忠義を尽くしてくれている技師がいる。
その技師とは、ミスティの父、バルザスだ。
彼女は、父を押しのけてでも、その立場が欲しいのだろうか。
そのことを知らない訳ではないと思うものの、ミスティの眼差しは真剣そのものだ。
「お前の父、バルザスは知っているのか?」
「父は主が良いと言うならそれにしたがうと言っている」
「一度、バルザスも含めて三人で話してからだ。
今は何も決めるつもりはない。
バルザスの意思と真意を確認するまでは何も決めるつもりはない」
「それが主の意思か?」
「ああ、今まで仕えてきてくれたバルザスの意思を直接確かめない内は何も決めない。
祖母にずっと尽くしてきてくれて、今はオレに仕えてくれている職人だ。
主として、私はバルザスの働きと忠誠に不満はない」
「主の気持ちは分かった。
父も交えて話をして、その結果では私の望みは有り得るのか?」
「不確定の事を言う気はないが、無いとも言わないし有るとも言わない」
「それだけ聞ければ今はいい」
ミスティは黙ってしまったが、これ以上は流哉だけで決めて良いとは思えなかった。
口は悪いが確かな腕を持つ職人であるバルザスに流哉は何も不満はない。
祖母が使用し、今は流哉が使う触媒の類は、ほぼ全てバルザスが手掛けている。
魔法使いとして神秘に関わることの多い身としては、バルザスの作る触媒は生命線と言ってもいい。
ミスティを信用していないという訳ではないが、バルザスへの信頼というのもまた確かなものだということだ。
「それで、オレの手伝いはしてもらえるのか?」
「見せられる魔導器を探すって言っていたヤツか?
私だけ願いを聞いて貰って何もしないって訳にはゆくまい」
「手伝ってくれるってことで良いんだな?」
「また私の為に時間を作ってくれるなら手伝うよ」
「そのくらいなら構わないよ。
バルザスが呼び出しのベルを持っているはずだから、借りるといい。
使用許可は出しておくし、ベルを鳴らしたその日の内には顔を出すようにはしているから」
「そういう事なら私も知恵を貸そう」
なんとかミスティの力を借りることに成功する。
当初の目的である魔導器探しは何とかなりそうだ。
今回の話し、どうでしたか。
ドワーフの少女、『ミスティ』についての話しになりました。
彼女のお願いを流哉が叶える日が来るのか、楽しみにして頂けたらと思います。
今回の話しでその存在にだけ触れた『深き森と黒き荊棘の女王』。
その内女王の話しを書く予定ですので、それまでお待ちいただければと思います。
※三上堂司からのお願い※
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