3.嫌な予感は外れない『その参』忘れられし王、黎明の覇王の物語
流哉の視点で基本進みます。
楽しんで頂けたら幸いです。
タイトルの変更、大幅な加筆と修正を行いました(2025/02/26)
よくよく考えてみれば、神代流哉は、レクスについて良く知らない。
レクスだけではない。
この部屋の住人の大半は、先代である祖母から受け継いだだけで、そこまで深く話し合うという事もしない。
何も言わずに付き従ってくれているにも関わらず……だ。
だからなのか、ふと思ってしまった。
コイツ等は何者で、どんな生涯を送ったのかを。
「図書館までのわずかの時間、主の暇つぶしに話してやるよ。
オレが駆け抜けた時代の話しを」
レクスはそう言い、先を歩き出した。その歩幅は変わらず……だが、ゆったりとした歩調に。
身体に漲らせていた力を抜いたのか、リラックスしてなのかは分からないが、肩が少し下がり、前だけを見つめていた男は、ふと、空を見上げた。
その瞳に映るは、どこまでも続く青いキャンバス。
やる気がないのはいつも通りのようだが、その横顔には、どこか物憂げな影が落ちていた。
レクス。
名をレクスウェルは、祖母である神代月夜に仕えていた戦士の一人だ。
「……まさか、主がオレの過去に興味を持つとはな」
レクスはそう呟き、少しだけ足を止めた。その瞳は、遠い記憶を辿るように、深く、静かに輝いていた。
人類の黎明期、未だ神々が地上の支配権を有していた頃の王。
国の境など未だ分からず、神々同士のいざこざに人類が巻き込まれているのに腹を立て、神々に対して覇を唱えた人間。
神々が滅ぼした後に分裂した国であり、神話という形ですら残されることなく、仕えていた臣下が口伝えに残した話しにだけ出て来る存在。
その話しを彫り込んだ石板を祖母が見つけ、召喚したという事だけは知っている。
死者と向き合うなんて変な話しだと思うが……
「……オレの出生には、複雑な事情があった」
出生には秘密があった。
レクスウェルの母は、先代の王と妖精が交わり生まれた姫だった。
母は当時の王国に居た聖女と呼ばれる、神の声を聴き人へ届ける役割を持ち、誰にも嫁ぐことは許されない立場。
そんな母が、ある日突然姿を消し、帰ってきた時には身籠っていたと言う。
神々の地へ招かれて、その際に黄金の神ザフィイルとの間に子をもうける。
これがレクスウェル―――竜を殺すために神々が地上へ贈った神々の子である。
レクスウェルの事は王国へ『脅威である竜を倒す最強の戦士になる者』として神託が下り、その運命に逆らうように人生を送る。
「……オレが最初に運命に抗ったのは、竜の卵に出会った時だった」
レクスはそう呟き、遠い日の記憶を辿るように目を細め、ポツリポツリと語り出す。
最初の反抗は竜に対して戦いを挑まなかったこと。
ある日、レクスウェルは竜の卵を発見する。
王国は砂漠の近くでありながらも森や水に恵まれていた為、卵等の貴重品も入手することが出来た。
病気がちな母の為に森へ狩りに行き、その際に森の力が集まる場所を見つけてしまったのが始まり。
そこには子供のレクスウェルと同じくらいの大きさの卵が、木々や蔓に守られるように鎮座していた。
一目で竜の卵と確信する。
万病に効く竜の卵ならば母の体にも効くはず、こんな機会は二度とない。
卵に手を伸ばした時、卵の中からの声を聴く。頭に直接響く声は『キミはダレ?』と幼く、レクスウェルの手は止まってしまう。
生れ出る前の幼子であるにも関わらず意思があり、それを殺すのを納得出来なかった。
「オレの名はレクスウェル。病気がちな母の為に卵が欲しいんだ」
通じるとは思わなかったが、名を名乗り欲するモノを尋ねた。
竜はその地の全てに通じていると聞く。未だ卵の中とは言え、知識と力を司る竜ならば、在り所を知っているはず。
『卵?それならこの木の上に鳥の巣があるよ』
「そうなのか、助かったよ」
『卵の在処を教えた代わりに少し話しを聞かせてよ』
「それくらいなら構わないぜ」
竜の卵との会話は数時間に及んだ。
色々な事を教えてもらう代わりに自分の事を話した。レクスウェルにとって後にも先にも、この時ほど充実した時間は無い。
「……卵の中の竜は、まだ生まれてもいないのに、確かに意思を持っていた。
オレは、その小さな命を奪うことはできなかった」
普段よりも遅く帰宅したレクスウェルは母に叱られたが、自身を案じて卵を取りに行ったと聞くと涙した。
王宮中の人間が集まって来てその行動を褒めたが、母を悲しませてしまった。
喜んで欲しくて行った行動が悲しませる結果に繋がってしまった己の浅慮を悔いる。
「母上、悲しませることになってすみません。次からはもっと考えて行動します」
反省する我が子が、『もうしない』のではなく、次はもっと考えて行動すると言っている。
母はたった一日で大きく成長した息子に誇らしさをもって言う。
『良いのです。母の身を案じてのこと、誇らしく思います。今度からはアナタ自身の身の安全も配慮に入れて行動しなさい』
母の言葉を胸に刻み、この日より母が死ぬまでの間は、レクスウェルは自身の身の安全も考慮に入れて行動するようになる。
「……母は、オレの行動を叱りながらも、オレの安全を心から願ってくれた」
レクスの話しを聞き、流哉は感心する。
自身の事しか考えていないような人間というのがレクスに持っていた印象だ。
言ってしまえばワガママな王様と思っていた。
「へぇー、お前が案じるほど母親は大切な存在だったわけか」
流哉はレクスの意外な一面に驚きを隠さなかった。
普段のレクスの様子からでは、母親を敬愛しているとは、とても思えないからだ。
「今だって尊敬しているし、あの人以上に大切な存在は数えるほどだ。それこそ、王になる前から仕えてくれた友人や、月夜と主くらいだ」
レクスはそう言いながら、視線を逸らした。
おそらく、気恥ずかしいのだろう。
正解かどうかは分からないが、流哉はそう思うことにした。
「そんな大事なものの括りに入れてくれてありがとよ」
レクスの言葉に、流哉は気恥ずかしさを感じつつも、照れ隠しのように笑いながら言う。
レクスは軽く肩を竦めていた。
「もう残っているのは主だけだしな」
レクスがそう呟いた時、その表情には、ほんの少しだけ悲しみが滲んでいるように感じた。
その言葉には、失われた過去への哀愁が滲む。
能天気な男が見せる悲しげな表情は……罪悪感がすごい。
何をしたって訳じゃないのにも関わらず、悪いことをしたという気持ちにさせる。話しを元に戻させよう。
まだ……いったい何歳の時の話しだったんだ?
「その時お前はいくつだったんだ?」
流哉は感じた疑問を単純にぶつけた。
レクスは少し考えるような仕草を見せる。
「確か……主が月夜に連れられてきた時と同じ位じゃなかったか?
戦士として認められる前の話しで、王宮の片隅で戦い方なんぞを習っている頃だった」
レクスは遠い過去を掘り起こすように言った。
「よくそんな子供が一人で森に行くのが許されたな」
流哉は、子供が一人で森へ行くことに疑問を感じた。
現代とは異なり、森とは総じて深く、鬱蒼としているもののはず。
現代よりも危険な動物は多くいたはずだ。
「森はオレたちにとっては遊び場だったんだ。
危険な生き物もいないし、最低限の戦い方っていうのを仕込まれた後でしか王宮の外へ出る許可なんて出なかった。
まあ、決められた範囲よりも奥に入り込んだっていうのは秘密だったんだが……遊ぶと同時に食料を取るのもオレの役割だった」
レクスは、子供時代の思い出を語るように、そう答えた。
危険な生き物という括りが、おそらく流哉の思うものとレクスの感覚とで、大きく差は開いている。
そもそも、戦い方を覚えないと入らないという部分で察するべきだろう。
「子供に食料を取りに行かせるのかよ」
流哉は、少し引き気味に言った。
「王宮に居るって言っても、オレは王子じゃない。
自分の食い扶持は自分で稼ぐっていうのが、オレたちにとっては当たり前だった。
決めごとを破ってまで森の奥に入り込んだのは……まぁ、勢いだったな」
レクスは、自嘲気味に笑いながら、そう答えた。
その言葉から、レクスの受けていた待遇が良いものでなかったことを察するには十分だった。
冗談交じりに言うが、恐らく十に満たないくらいの子供が森に入り食料を探す。
危険な生き物と言うのも、現代の範囲を大きく上回るだろう。
獅子やそこらでは脅威と言わないらしい。
「そんな日々を送っていた頃だった。
戦士未満の子供連中が王宮に訪れた一人の妖精の下に集まっていてな、『戦士として認められる条件を教えてくれ』って騒いでいたんだ。
オレの国では『妖精が出す試練を超えた者が最高の戦士になる』っていう言い伝えがあってよ、その妖精が現れたモンだから大騒ぎになってた。
普通の妖精なら大騒ぎすることはなかったんだが……まあ、なんだ、力のあるモノの系譜だと分かってよ、『そんな妖精が出した試練を超えたなら、国一番の戦士だ』って騒ぎが大きくなっちまって、最終的には既に戦士になった者まで集まってくる大騒動になったよ。
妖精も困り果てて、『竜を倒してきた者にだけ、妖精の試練を出す』って事になった」
「さぞ、面白い結果になったんだろう?」
「面白さの欠片もないショボイ幕切れだった。戦士未満の子供が次に妖精が来るのを待とうって思ったほどに」
「お前はどうしていたんだ?」
「いつも通り森へ行き、卵を取ってきていた」
「それだけじゃないだろう?」
レクスの誤魔化す時の仕草は良く知っている。
興味がないふりをして話しを逸らす。まさに今のような答え方をしている時だ。
「……ハァ、誤魔化されてはくれないか。その日にただ一人、オレは竜殺しを成し遂げた。
王である叔父は息子可愛さで、『我が子の為によくぞ竜を討伐した。さあ、その竜の死体をコチラへ寄越せ』とかなんとか功績を寄越せって言ってくる始末でな。
あまりにも煩くて頭に来たもんだから、城中の兵士の両の腕の筋と両足の腱を叩き切って、剣を突き付けて『今度はお前と王子の番だ』って脅迫した」
「……………」
言葉が出なかった。
王様を相手に脅迫する子供というのは驚いたが、それを止められなかった兵士っていうのも驚きだ。
それよりも甥の功績を横取りしようとする叔父っていうのは……いただけないな。
「それで戦士として独り立ちしたのか……それにしても、よく母親は許したな」
「母はカンカンに怒ってな、しばらく口をきいてくれなかった。
戦士と言っても、国から出ていく訳でもなく、『地方へ飛ばして王権を奪われてはたまらない』と城勤めって形の軟禁だ。
余程、怖かったんだろうな。それ以降会う時は常に我が母を同席させていたよ。
幸いなことに従弟は親と違って聡明でな、よく慕ってくれた」
どこか気恥ずかしそうに言うレクスの顔は笑っていた。
きっとレクスの中にある楽しい思い出ってヤツなんだろう。
「嬉しかったんだな」
「そうかもな」
穏やかな顔をしているレクスを見て、揶揄うではなく、ただ見ている事にした。
こんな珍しいものを見ることは二度とないかもしれないから。
今回の話し、どうでしたか。
この話しから、部屋の住人であるレクスに触れていきます。
流哉とレクスの話し、楽しんで頂けますよう。
お読み頂き、ありがとうございます。
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