8.童話の魔法『その参』古代マケドニアの戦術
前回に引き続き、流哉の視点です。
楽しんで頂けたら幸いです。
更新が遅くなりました。
ブックマークありがとうございます。
タイトル付け、大幅な加筆と修正を行いました(2025/02/21)
西園寺紡との間に適度な距離を保ちつつ、自身の指輪に秘められた力をいつでも使用できるように神代流哉は準備を整える。
未だ紡の魔法は解除されず、彼女の魔法の産物である『赤枝のサイクル』が塗り替えた世界に捕らわれたまま。
紡の手に携えられた魔本を奪うべく行動を起こしたとしても……未だ出てきてはいない、『魔槍の英雄』が満を持して出て来る見え透いた罠だ。
そうなった時、ケルト神話群最強の大英雄の相手をするのは、心底骨が折れるし、その上で得られる結果は割に合うものではない。
使わなくて済む力ならその方が良いに決まっているが、いつでも発動できるように指輪の準備を完了させる。
以前、魔法連盟からの依頼で紡と敵対した際に『魔槍の大英雄』は撃退済みだ。
流哉にとっては決して倒せない相手ではないが、それ相応に疲弊もすれば浪費するモノもある。
倒すという同じ結果を得ることでも、『倒せる』のと『倒せないわけではない』とでは、決してイコールではない。
本物の英雄を相手にするのなら得られるものもあるだろうが、造り物の英雄を相手にするのは、得るものがなく負担を強いられるだけ。
ただ消耗させられるだけとは馬鹿らしい。
それなら時間がかかっても別の解決策を探る方が遥かにマシというものだ。
それに……負けず嫌いな紡の性格を考慮すると、倒された英雄がそのままであるはずがない。
どのような改良をされているのか想像もつかないが、流哉も奥の手である魔法を使わなければならない状況が出て来る可能性もある。
仮に、そのような状況に持ち込まれたとすれば流哉は試合に勝って勝負に負けたという結果を受け入れなければならない。
流哉の魔法は使用すれば確実な勝利を使用者にもたらす。
『その魔法は、決して敗北を許容しない。
いかなる敵であろうと、いかなる状況であろうと、必ず勝利を掴み取る。
それは、運命すら捻じ曲げてしまう絶対的な力。
使用者に、絶対の勝利と栄光を約束する』
『その魔法は、奇跡を操る。
不可能を可能にし、絶望を希望に変える。
それは、世界の法則すら凌駕する超越的な力だ。
使う者に、勝利の女神が微笑む、究極の魔法と言えるだろう」
『その魔法は、魂を加工する。
己の限界を超えることも、無限の力を引き出すことも可能でしょう。
それは、加工した魂を元に世界を作り出す、究極の奥義。
使う者に、確実な勝利を与える、理不尽の顕現そのもの』
『リュウヤってゲームを遊んだことある?
リュウヤの魔法、あんなものはゲームで例えるならチートだチート。
あれほどのバグを世界が許容していること自体がおかしな奇跡だ。
打ち破る可能性なんて、地球の歴史が過去へ向かうよりも不可能なことだ』
魔法連盟に所属し、流哉の魔法を知っている者たちに言わせるとこういうことらしい。
そんなものを使って勝利を得たところで、それは魔法が強力であるだけに過ぎない。
「そう、貴方の羅針盤は性能が良いのね。それにしても今の現象は何?」
紡が怪訝そうに表情を歪めつつ、世間話を振るかのように話しかけてくる。
流哉が魔法ではなく、魔導器を使って自身の魔法を打ち破ったことが余程気に入らないのだろう。
何も答えずにいると、紡の表情が嫌悪と取れるものに染まっていく。
「いつから魔術師や魔導器使いの真似事をするようになったの?」
「オレのあり方はいつだって変わらないさ。
そもそも、オレは自分の魔法を使うことの方が珍しいはずだが?」
冷静さを欠いた方が勝負における主導権を失う。
表情を変える程度には内心への影響があるということなら、このまま様子見に徹するのは有効そうだ。
「私の英雄と勝負でもする気になったのなら、そう言ってくれればいつでも相手になるわよ。
それにあんな魔導器を以前は持っていなかった気がするのだけれど?」
紡は物静かな少女である。
そんな紡が饒舌なことに驚くが、その少女の興味の矛先が自身の手に握っている槍に向いていることに気付く。
紡の興味の対象になった。
興味を持たれただけなら良いが、その結果として英雄と戦わされるのは避けたい。
これは……少しでも情報を開示して、この槍への興味を無くさせる方が良い結果をもたらしそうだ。
槍の、『ファランクス』の事を知られたところで、流哉には何の問題もないことを思考の回転速度を上げて確認する。
知られたところで問題ない。
どうせ、『流哉以外の誰にも作りだすことはできない』という事実を覆すことはない。
「ああ、この槍のことか。
これは古代マケドニアの時代に使われていた『ファランクス』って陣形を参考に作ったオレのオリジナル。
使い捨ての媒体を用いた広範囲殲滅魔術式だよ。
誰かの真似事じゃなくて、これはオレのオリジナル術式だ」
マケドニアの戦士たちが得意としたとされる陣形『ファランクス』。
この戦術は複数の戦士、それも歴戦の戦士達が使うものは鉄壁の布陣となる。
その技を流哉は攻めに転じさせた。
歴戦の勇士が放つ槍の技のみを切り取り、結果として広範囲を殲滅する術式。
魔術すら使う価値がないモノを一方的に蹂躙する為に編み出したモノだ。
「ふーん。私の英雄達程でもないけど、それなりに威力のあるモノを使い捨てにするの?」
「使い捨てにしているんじゃなくて、使い捨てにせざるをえないんだ。
本来であれば大多数の武人の手によっておこされる技、それをオレ一人の手で再現したもの。
膨大な魔力を込める事により、その過程の代わりとしている。
よって媒介に使ったものに掛かる負荷は計り知れない……って時間稼ぎをしているんじゃないか、紡?」
いつになく饒舌な紡の様子はやはりおかしい。
何か別の目的があって流哉をここに留めている、そのような気がしてならない。
時間稼ぎをしようとしていた流哉が思うのはおかしな話しだが、脳内で危機を知らせるサイレンが鳴り止まない。
こういう時の直感には従うべきだ。
逆らってろくな目にあった試しがない。
「何で私が時間稼ぎなんて事をしなきゃいけないの?
貴方を探し回っているトビキリの猟犬は“もう、此処にいる”というのに……」
紡の表情はそう変わらない。
そんな少女の口元に僅かではあるが、笑みが浮かんでいる。
ここまで露骨に表情に変化が現れるのは、自身の勝利を確信しているからに違いない。
まだ紡の魔法は発動したまま。
彼女のお気に入りの英雄を出現させる為の準備が整ったのか。
それにしては、猟犬なんて言い方をするのはおかしい。
流哉の脳内で思考は高速に巡り続ける。
そして、可能性は非常に低いが、一つの考えが浮上する。
「いるって……まさか」
「そう、そのまさか」
流哉の顔を見てクスリと妖艶な笑みを浮かべる紡の姿をみて確信した。
羅針盤は先程、紡の相手をする際に魔力の供給を断ったきり。
通常であれば熱を発して知らせてくれるが、今はただの懐中時計に成り下がっている。
新しく魔力を込めなければ、魔導器はただの鉄屑と同じだ。
蓋を開いて文字盤を確認するが、やはり起動させてはいなかった。
流哉の視点、どうでしたか。
互いに権勢し合う状態になっています。
果たして、流哉は英雄との戦いを回避する事に成功するのでしょうか。
魔法使い同士の戦いは、最後まで気を抜くことはできないのです。
遠足と同様に、家に帰るまでが戦いです。
この戦いの結末は次回となります。
楽しみに待って頂ければ幸です。
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