7.童話の魔法『その弐』魔犬狩り
前回に引き続き、流哉の視点になります。
楽しんで頂けたら幸いです。
タイトル付け、加筆と修正を行いました(2025/02/20)
神代流哉は凡その検討をつけたが、それ以上の事は、本人に会って確認するまで分からない。
ただ、魔法を使っている少女の好みはよく理解しているつもりだ。
ある程度の絞り込みはできる。
童話の魔法使い、西園寺紡の魔法はモチーフとなる御伽噺の類いを現実の世界へ侵食させ、本の内容を再演するものだ。
ロマンチストな少女は、その題材に英雄と呼ばれる人物が活躍するものを選ぶ傾向にある。
それに……予想が外れていたとしても、問題なく対処は可能だ。
最悪の形として考えられるのが魔法を使っての衝突だが、そうなったとして万に一つの可能性としても、流哉に敗北はありえない。
故に、今は自身の感を信じて、見当をつけたモノを当たりと信じ、突き抜ける。
未だに奇襲を仕掛けて来る獣を相手にしつつ、より確信へと近づく。
「これのモチーフはケルト神話群の『アルスターサイクル』と見るのがベストかな」
この奇妙な空間を作り出している紡の魔法。今回モチーフとして選んだ本はケルト神話辺りだと狙いをしぼる。
その中でも『アルスターサイクル』はケルト神話群最強の英雄であるクー・フーリンが活躍する話し。
あの少女の好みとも合致する。
「さしずめ『クランの番犬』辺りが今回のお題って所か。
またマイナーのモノを選んだものだと言いたいが……童話の魔法使いもホントに英雄譚が好きなようだ。
さて、見当もつけたし、自分の感を信じるなら打って出る他ないが……」
首にかけていた槍の形をしたペンダントを外し、魔力をそのペンダントに込める。
込めた魔力に反応し、ペンダントその物は砕け散り、本来の姿を現す。
影を実体化させたような黒く、鈍い鉛の色をした一本の槍。
この世界に顕現したそれは異質なまでに死の気配を纏っている。
流哉はその槍を手に取って構え、敵を見据える。
ここに居るのは狩る者と狩られるモノ。
犬畜生共は自らの身を案じてか、飛び掛るのを躊躇していた。
「なんだ、来ないのか?
先手は譲ってやろうと思ったのに、チャンスをものにできなかったな」
何も考えずに突進してきてくれれば、早くことが片付いたのにと流哉は内心で呟く。
距離を取る、もしくは逃げるという判断ができる程度には、番犬も精巧に作られ、再現されているのだろう。
魔法という神秘に、魔法を使わずに挑むのだ、早々思い通りにはならない。
そもそも、魔法を相手に魔法を使わずに挑むのは無謀であり、蛮勇の類いである。
勿論、それを成すのが流哉でなければ、と前置きが付く。
「ならばこちらから仕掛けさせてもらう。
こんなところでいつまでも足止めを喰らっている訳にはいかないからな。
先達者に習って、ここは槍の一撃で決めさせて貰おうか」
流哉は構えた槍を投げるのではなく、力の限り、思い切り地面へと突き刺す。
地面に突き立てられた槍の柄を、石突から先端へ向かって血管のような線が脈打ち走る。
紡の魔法で作られた犬畜生共は僅かでも理解する知性があるのか、ほんの少しの時間で諦めを付けている。
この槍は正しい方法で使用され、『もう我々は助からない』という事実を。
地面から流哉を中心に黒い槍が無数に突き出す。
「ファランクス起動、殲滅しろ」
槍は地面より敵へ向かって射出された。
一本の槍が十、二十と分散し、槍は増殖を続ける。
飛翔した槍は犬共を串刺し、地面へ貼り付け、突き刺さる。
一匹の魔犬へ突き刺さる槍は無数であり、確実にその息の根を止めた。
数分も経たずして、魔犬の殲滅を完了する。
槍の耐久的に、あと一回、発動に耐えられるかどうかだ。
槍へ供給する魔力は負荷をかけない程度に抑え、即座に発動できるよう待機させる。
本格的に、魔法を解き明かし、紡を誘い出した方が良さそうだ。
完全に解体される前に、魔法の所有者は姿を現すものだ。
「試練『クランの猛犬』の攻略方法は、決められた条件で呼び出されたモノを殺すこと。
しかし、こいつらを殺す為の条件、正解を知っているのは使い手の魔法使いだけ」
どこかに隠れ潜んでいる魔法の主へ聞こえるように、少し大きめの声で、魔法の解体を始める。
「決められた条件以外の方法で殺そうとすると無数の魔犬によって噛み殺される。
仮に、成功したとしても、それは物語の筋書きをなぞっていくだけ。
最後に待ち受ける魔槍の英雄に刺殺される、そんなオチだろう?
まさに成功しても失敗しても同じ結果が待っている試練だ」
流哉の立てた仮説は、成功させるにはそれ相応の実力が必要になる方法。
普通の魔術師であれば、抵抗するまもなく魔犬によって噛み殺される運命にある。
用意されている道を辿った先に待ち構えているのは、紡の本命である大英雄。
正しい方法を見つけたとしても、その先には確実な死という結果のみが待っている。
英雄を相手にしないで済むのであれば、それに越したことはないが、それは用意された道から反れることだ。
無数の魔犬と魔槍の英雄。
どちらを相手にする方が楽なのかは、比べるまでもなく前者だ。
「待ち受ける結果を回避するには、製作者が予想の出来ない方法で殲滅すればいい。
英雄と戦わされるくらいなら、殲滅する手段を用意した方が楽だ、
決められた条件“以外”で試練を突破すれば、英雄を相手にすることなく終わらせることが出来る。
紡、オレの立てた仮説は合っているか?」
屋敷の敷地内にある木の影、そこから感じ取った気配へ向かって問かけた。
木の影に隠れていた紡は大人しくその姿を現した。
その手に携えている本のタイトルは『赤枝のサイクル』。
流哉の推測は正しかったようだ。
「私がいるってよく分かったものね。
あと、悪かったわね、英雄譚が好きで」
「オレの羅針盤が熱を発したのはお前が魔法を使う前だ。
近くに魔法使いが潜んでいることを察し、熱を発してオレに知らせてくれた。
ここら辺で魔法使いはお前だけだろう?
それから、別に悪いとは言ってない」
紡が姿を表した今も流哉は警戒を緩めない。
飄々としている紡の手に携えている本からは、未だに魔力が漏れ出しているからだ。
いつまた魔法を発動させるのか分からない。
そんな状況で気を抜くほど傲慢になった気もないし、紡は油断していい魔法使いじゃない。
流哉の視点、どうでしたか。
魔法使い同士の戦いですが……あまり大きく書きませんでした。
それぞれの魔法や、戦いはまたの機会にしっかりと書きたいと思います。
楽しみに待って頂ければ幸です。
お読み頂き、ありがとうございます。
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