9.童話の魔法『その肆』そして、演目は閉じられる
流哉の視点です。
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タイトル付け、加筆と修正を行いました(2025/02/22)
今更、本当に今更な事だが、羅針盤を起動させても遅いと承知の上で、神代流哉はそれでもと、僅かな可能性に縋るように一応魔力を込める事にした。
「さて、それじゃあそろそろ元の場所に帰りましょうか。
貴方にその指輪を使われるのも面倒だし……」
西園寺紡が本をパタンと閉じると、屋敷も霧も何もかもが消え、景色は見覚えのある元の山道に戻った。
毎度思うことだが、この魔法の本当に恐ろしい点はこの空間転移能力だと思う。
生き残らない限り、生きて生還らない限り、本の世界に捕らわれたまま。
彼女の持つ本の呪縛から逃れる術は他にない。
その事実は肉体のみならず、その魂すらも永遠に本の牢獄へ捕らえられ、未来永劫本の中へ幽閉されることを意味する。
『童話の魔法使い』の気まぐれな指先一つで、魂は人形と化し、物語の舞台装置へと組み込まれる。
それは永遠に物語の舞台を踊り続ける奴隷へとなり果て、その様はまるで、血の通わない操り人形のよう。
そこには死という救いも、終わりもない。
「本の中へ入るのはこれで二度目だ」
流哉は以前に本の中へ入った時のことを思い出し、過去の悪夢を思い出すように顔を顰める。
「あら? 入りたいなら声をかけてくれれば良いのに。
もし、お望みでしたら、いつでも私は扉を開いて招待するわ」
紡は悪戯っぽい笑みを浮かべながら言った。
「それは遠慮しておこう。
誰が好き好んで片道切符を求めたりはするものか。
二度とここから出られなくなる、そんな事態はご免だ。
紡が英雄を使うと言うのなら、オレはこの指輪の力を使う」
流哉は自身の指にはまる指輪の内、もっとも古めかしいものを撫でる。
「あら、残念。
だけど、貴方の飼いならしている怪物に、私の大切な英雄たちをぶつけるわけにはいかないわ。
わざわざ自分の首を絞めにいくような真似はしない」
紡は、肩をすくめながらも余裕の表情を見せる。
互いに、他に打つ手立てがないとなった時、目の前の少女はどのような選択をするのだろうか。
それはクソッタレな神のみぞ知るということだろう。
流哉が“ロンドンで終わらせた紡と魔術師の間で執り行われていたゲーム”ーーー。
その敗者たちは、今も彼女が所有する本の奥底に囚われているのだろう。
流哉は過去の出来事を思い出すように……いや、むしろ、面倒ごとを押し付けられる原因を思い出していた。
あの忌まわしい記憶しかないゲーム。
魔法連盟からの、フォンからの依頼の一つだったから引き受けたものの、本来であれば、あのゲームに関して口出しをすることはなかっただろう。
今になって思い返せば、あれは、あまりにも個人的な感情が入り過ぎていたと思う。
個人的な、面倒ごとを押し付けられたという、拭いきれない怒りが、判断を鈍らせた。
目の前に吊り下げられたエサに、何も考えずに飛びついた愚か者が何人犠牲になろうと、流哉の心は微塵も痛まない。
過ぎた欲望に手を出して代償を支払わされている奴らのことなど、知ったことではない。
フォンも、きっと周囲の魔術師に泣きつかれたのだろう。
大方、自身の子息子女が無謀にも挑み、そして敗北した魔術師達からの、哀れな嘆願だと容易に想像がつく。
何度か流哉の元へ、依頼を懇願する手紙が魔術師から届いた。
一通足りとも目を通さず、全てゴミ箱に叩き捨てたが……
魔法連盟からの、形式ばった依頼状でなければ、確実に無視を決め込んでいただろう。
「あのゲームのおかげで余計な仕事が増えた」
流哉は吐き捨てるように言った。
増えた仕事そのもの、というよりも、増えてしまった"後始末"への苛立ちだ。
「それは私の責任ではないわ」
紡は、涼しげな、冷ややかな表情で答えた。
彼女の言葉には、何の感情も込められていない。
ただ、事実を述べているに過ぎない。
「確かに、紡の責任じゃない。
これはただの八つ当たりだ、許してくれ」
流哉は自身の言葉が的外れであることを自覚している。
苛立ちをぶつける先は紡ではなく、面倒ごとを押し付けてきた魔法連盟と、無謀な魔術師どもだ。
「別に気にしていないわよ」
紡は軽く肩をすくめた。
彼女にとって流哉に苛立ちをぶつけられることなどどうでもいいことのようだった。
あるいは……いや、これ以上考えるのはやめよう。
静まり返った山道に、紡と流哉だけのはずだった。
紡が魔法を使う前までは、確かに二人しかいなかった。
それが今では、この静謐な森林に、別の気配が蠢いている。
流哉は覚悟を決め、紡とは反対方向、木々の影に声をかけた。
「そこにいるのは分かっている。出て来いよ、燈華」
自身の背後にある木からは、隠れているのがバレバレと言わんばかりに、隠しきれていない気配が漏れ出ている。
むしろ、見つけてくれと言わんばかりの、不自然なまでの気配。
一ヶ月前まで、依頼を受けてからずっと見守っていた相手の気配だ、間違えるはずがない。
流哉はじっとその木を見つめる。
その気分は、獲物を見定める猟犬のよう。
木の影から燈華がゆっくりと姿を現した。
その動きは、どこかぎこちなく、人形のようにも見えた。
「ばれちゃったか。久しぶり、流哉君」
人懐っこそうな笑みを浮べ、冬城燈華は近づいて来る。
その笑顔は、かつての流哉が見たものと、どこか違うように感じた。
幼い頃の面影は残しつつも、成熟したというか、目の前の少女は流哉が考えていたよりも大人に近づいていた。
しかし、その笑顔は、どこか貼り付けられた笑顔のようにも感じる。
まるで、完璧な演技をこなす女優のようだ。
流哉は逃げようともせず、ただ、燈華を見つめていた。
警戒することは忘れずに。
「捕まえたよ、流哉君。あの夜の約束、果たして貰うからね」
燈華は、甘えるような口調で言った。
その声には、隠しきれない喜びと期待が入り混じっている。
しかし、その瞳の奥には、何かを企んでいるような光が宿っている。
「ああ、捕まってしまったな。心配しなくても、約束は守るよ」
流哉は観念して答える。
燈華に抱きしめられ、無駄な抵抗はしないと態度で示す。
燈華に気を取られている間に、背後へ紡が近づいていた。
燈華には抱きしめられ、紡にも服の裾を引っ張られ、完全に身動きが取れない。
まるで、両手両足を同時に拘束されたようだ。
「それにしても、よく二人だけで見つけ出せたな」
流哉を探し出すのに、『誰の手を借りても良い』と言ったのは他の誰でもなく自分自身だ。
それだけに不思議でならなかった。
あの孫思いの二人が必ず手を貸すと踏んでいたからだ。
「紡の他にも手を借りたよ。
お爺様たちにも協力をお願いしたんだけど、『ズルになっちゃうから』って言って、最初の手がかりだけをくれたの」
燈華は、少し残念そうに言う。
しかし、その表情はすぐに明るい笑顔に戻った。
まるで、計算通りの結果に満足しているようだ。
ルール違反だとは言わないが、確かにあの二人の魔法使いが親身になって協力するのはズルになる。
孫というだけで、求める対価を大いに下げる可能性があるからだ。
魔法使いへの頼み事は、対価が無くてはあり得ない。
違反した魔法使いと依頼者は代償を支払うことになる。
それを承知してなのか、協力とまではいかない程度の手助けに留めたのだろう。
「確かに、あの二人が最後まで協力するのはズルになってしまうな。
オレたちの『魔法使いは対価なしには動かない』という取り決めに違反するスレスレだ」
流哉は納得しつつも、あの二人がここまで協力的だったとは、少し驚きだ。
「今回の二人の行動はルール違反になるの?」
不安という感情が広がった顔で燈華は流哉を見つめてくる。
自分のお願いのせいで大切な祖父母が罰せられるのを恐れているのだろう。
しかし、その表情はどこか演技がかっているようにも見える。
悲しませたくないだとか、そんなセンチメンタリズムは流哉の中にはないが、自分の言葉が原因で不安を与えているのであれば、訂正をする。
「今回の件、判定する権利を持つのはオレだけだ。
そのオレ自身が誰の手を借りても良いと最初に言った。
最後まで手を貸すようならルール違反にもなっただろうが、最初に少し手を貸したくらいの事をとやかく言う気はないから安心しろ」
流哉は、燈華の不安を打ち消すように言った。
燈華の為に言った言葉に嘘偽りはないが、その奥には、燈華の演技を見抜こうという冷めた感情を隠している。
「そっか……良かった」
不安だと言いたげな表情が安堵に変わっていく。
随分と甘いものだと自分自身も思うが、流哉はそれでいいと思ってしまった。
燈華の演技に、まんまと騙されてしまったのかもしれない。
「さてと、リュウちゃんを無事捕まえることもできたし、早くみんなと合流しないと」
燈華は、満足そうに言った。
そして、流哉に抱きついたまま、次の行動を促す。
その声には、勝利の余韻が漂っている。
「みんな? ここにいるのはお前等二人だけだよな?」
流哉は、燈華の言葉に疑問を抱く。
みんなとは、一体誰のことを言っているのだろうか。
「ここにいるのは私達二人だけど、燈華は他にも貴方を探すのに協力をお願いしたと言ったわよね?」
紡は、燈華へ確認するように聞く。
この様子を信じて良いのなら、紡も燈華がどの程度の人数に協力を求めたのかは知らないのだろう。
「協力を頼んだのは同居している人だけだよ。
先に貴方の家に向かってもらったの。
そろそろ着いている頃よ」
燈華は、悪戯が成功した時のような笑みを浮かべながら言った。
どうやら、今回の鬼ごっこというか、かくれんぼのようなものには、流哉が思っていたよりも多くの参加者がいたようだ。
まるで包囲網のような、巨大な捕獲網はこの町全体に張り巡らされていたようだ。
「そうか……じゃあ、はやく家に帰らないといけないな」
流哉は、観念したように言った。
何事も諦めが肝心と悟った。
ズボンに取り付けてあるいくつかの鎖を手繰り、『時の旅人』へ繋がっている鎖を探り出す。
腰のケースに収まっている懐中時計へと繋がる鎖を手繰り寄せると、時計はケースから滑り落ちるように抜け出し、流哉の手元へ収まる。
懐中時計の形をした時間旅行さえも可能にする魔導器、『時の旅人』。
流哉は手にした『時の旅人』に魔力を込め、起動させる。
自身を含め、燈華と紡の二人が入るように時計を模した魔法陣を広げる。
「じゃあ、行くぞ。
しっかりと掴まっていろよ、時空の中で逸れるとドコへ飛ばされるか分からないからな」
燈華と紡に声をかけ、『時の旅人』を発動する。
魔法陣の中に刻まれた時計の針が動き出し、転移を始める。
静まり返った森に『カチッ』と時を刻む音が響くと流哉と燈華、紡の三人は彼の家に向かって転移する。
瞬間、そこには誰もいなくなった。
残るのは、静寂さを取り戻した、何時もの寂れた町並みを見下ろす時代に取り残された山道。
流哉の視点、どうでしたか。
予告通り、今回で『童話の魔法』は終わりです。
結果としては、足止めに成功した紡の勝利って形になりました。
最後の部分だけ、流哉の視点ではありません。
分かり難い等、声がありましたら修正します。
ついに燈華と流哉が合流です。
燈華からすればやっと捕まえた、流哉からすればとうとう捕まってしまった。
今後の進行を楽しみにして頂ければと思います。
お読み頂き、ありがとうございます。
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今後ともよろしくお願いします。




