Ex.流哉の災難、ホワイトデーのお返し『その参』裏メニュー、それは常連のみが知る味
今回も流哉の視点です。
楽しんで頂けたら幸いです。
タイトル付け、加筆と修正を行いました(2025/03/20)
三月十三日 午後一時 喫茶店『シュテルンシュヌッペ』店内
檸檬果汁が適度に混ぜられたお冷を飲みながら、神代流哉と立花楓の二人は注文した料理が来るのを待っている。
特に何をするわけでもなく、ただ料理が来るまでの時間が過ぎゆくのを待つだけ。
二階で食事をしていた他の常連客たちも、徐々に帰っていく。
すれ違う知り合い達とは、二、三言葉を交わしながら、ただ過ぎゆく時を待つ。
「お待たせいたしました。ハンバーグの気まぐれセットです」
マスターの奥さんが鉄板に乗ったハンバーグと気まぐれサラダ、スープとパンを立花に持ってきた。
ドイツ出身の奥さんが作るハンバーグは、どこか懐かしい味だと常連たちにも評判だ。
本場のハンバーグを懐かしい味という情報だけを得て来る初めての客は、『これのどこが懐かしい味なのか』と言う。
しかし常連の言う懐かしいは、昔から変わらないマスターの味付けが懐かしいと言っているだけで、ハンバーグのソースはデミグラスと見た目は有り触れている。
その見た目も込みで『懐かしい』と、昔からの常連客である周辺企業の社長たちは言うのだ。
それは、郷愁を誘う、幼い頃に食べた母親の味への感想に近いものだ。
「おお、これは美味しそうなハンバーグですね」
立花は、鉄板の上でジュウジュウと音を立てるハンバーグを見つめ、目を輝かせた。その表情は、まるで好物を前にした時の子供のように、期待と『早く食べたい』という食欲に満ちていた。
「冷めないうちに食べると良い」
「では、お先に」
立花は丁寧に食前の礼をし、食べ始める。
その様は聖職者のようであった。
神に感謝を捧げるかのように、静かに目を閉じ、フォークを手に取った。
ハンバーグへナイフを入れ、一口大に切り分け、口に含む。
疲れ切ったおじさんの顔が、幸せに緩む。
「美味しい。どこか懐かしさを感じさせつつも、どこの味とも違う。
コレは通いたくなるのも頷ける味です」
立花は静かに感嘆の言葉を溢す。
ほっ、というため息は美味しさから溢れたものだろう。
その言葉には、料理を作ってくれた者への深い敬意と、至福のひとときへの感謝が込められていた。
「ありがとうございます。ソースはこの店が始まった時からの自慢なんですよ」
「なるほど、自慢になるのも頷けます。とても美味しいです」
「ありがとうございます。神代様のお料理もすぐにお持ちしますから」
奥さんが一礼して一階へ降りていく。正面の立花を見ると既にサラダを食べ終え、ハンバーグも残り半分ほどだ。
「もう少しゆっくりと、落ち着いて、味わって食べたらどうだ?」
「心配しなくてもちゃんと味わっていただいています。
こんなに美味しい物は早く食べないと取られてしまいます」
「ここでそんな事をするヤツは、この店には居ねえーよ」
「そうですか?
それなら奥さんが来た時にもう一つハンバーグを注文しましょう」
「もう何も言わん」
楽しそうに食事をする立花にこれ以上水を差してもと思い、何も言わないことにした。
先ほどまで疲れ切った顔をしていた奴が、今では満面の笑みを浮かべている。
美味しい物は人を幸せにすると言うが、その通りなのかもしれない。
「お待たせいたしました。神代様ご注文の『シェフのお任せ気まぐれ風』です。いつも贔屓にして頂いてありがとうございます」
流哉の頼んだ“いつもの”は、その日のオススメを少しずつ盛り合わせたお任せメニュー。
今日のお任せは、奇しくも立花の注文したハンバーグ。それにオムレツ、気まぐれサラダ、スープとパンという内容だった。
そして流哉のメニューを持ってきたのは店のマスターだ。
「あ、すみません。ハンバーグをもう一皿頂きたいのですが」
「畏まりました。ハンバーグをもう一皿ですね。
神代様、飲み物は決まりましたか?」
「いつも通りコーヒーでお願いします」
「畏まりました」
丁度いいとばかりに立花が追加の注文をしている。
流哉は何事もなくそのまま食事を開始することにした。
「流哉君のメニューもハンバーグなんですね」
「いや、今日はたまたまだ。
オレがいつも頼んでいるのは、お任せなんだよ。
マスターの自信があるモノを提供してもらえるメニューだ」
「そんなのあるんですね」
そう言って立花はメニュー表を眺めだす。
「いや、メニュー表には載ってないよ。
コレは常連にだけ提供されている、いわゆる所の裏メニューみたいなものだ」
「それはズルいのでは?」
「その分値段はソコソコするぞ?
コレの提供され始めた理由は知っているが、常連客からの紹介がなければ頼むことすらできない」
「常連の人は二階に固まりますし……知る事すら難しいメニューなんですね」
「そういうことだ」
「お待たせしました。追加のハンバーグと、神代様のお飲み物です」
流哉が半分ほど食べたところで、奥さんが追加のハンバーグを持ってきた。
一緒に持ってきたコーヒーは頼んだものに含まれているモノだ。
「ありがとうございます。流哉君は飲み物も頼んでいたんですか?」
「食べるのに夢中で聞いてなかったんだな……オレの頼んだものには含まれているんだよ」
「そうなんですか……飲み物は次の機会の楽しみにしておきます」
立花は再びハンバーグを味わうことへ集中し始めた。
この様子では流哉よりも早く食べ終わっても不思議ではない。
まあ、食べ終わってしまったのなら、待たせておけば良いだろう。
ゆっくりと自分の食事を楽しむことにした。
三月十三日 午後三時 立花楓の研究室
食事を終え、シュテルンシュヌッペを後にした二人は、研究室へ戻ってきて残りの作業を進めていた。
空腹が解消されたからなのか、立花の作業を進める速度が上がったような気がする。
「それにしても驚きました」
「何がだ?」
「流哉君の頼んだメニューの値段です」
「そうか?」
「そうですよ。ハンバーグを二皿頼んだ私よりも高いってどうゆう事ですか」
昼に立花が食べていたハンバーグ二皿と気まぐれセットの値段は、合わせて三千円ほど。
対して流哉の食べていた裏メニューの値段は五千円ちょうど。
「昔からあの値段だ。
昔にちょっとしたイザコザがあったんだが、その時に周りの企業の社長とかがお店を支えるために、その当時で一番高かったメニューと同じ値段で其々が好きなモノを頼んでいたらしい。
あの裏メニューはその名残なんだ」
「あれだけ美味しいお店ですが、そんなこともあったんですね」
「あの店に通う常連客のほとんどが、若い時や駆け出しの頃にマスターの世話になった人たちだ。
お世話になった店主への恩返しをしたいって相談されたのがオレの祖母さん。
みんなの意見をまとめて、支援する手を考えた後は丸投げにしていたが……」
パソコンのキーボードを叩く手を止めることなく無駄話をする。
ある程度の大筋は終わっている。
あとは地味な修正作業だけ。
世間話に付き合っても問題はない。
故に、流哉から話題を振ることもある。
「なあ、ちょっと良いか?」
打ち込みを終え、パソコンから視線を上げて立花へ話しかける。
流哉の視点、どうでしたか。
ホワイトデーの話しのハズが……おじさんと食事をしているだけで終わってしまいました。
喫茶店『シュテルンシュヌッペ』はこれからも出て来る予定ですので、名前だけでも憶えて頂けると嬉しいです。
案の定、完結までもう一話を要します。
残り一話、お付き合い頂けると幸いです。
※三上堂司からのお願い※
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