Ex.流哉の災難、ホワイトデーのお返し『その壱』三月十三日、神代の受難
今回は流哉の視点になります。
ホワイトデーの話し、楽しんで頂けたら幸いです。
ブックマーク、ありがとうございます。
投稿時間が安定せず、すみません。
クリスの表記をクリスティアナに変更いたしました(2023/6/27)
引き続き、クリスの表記を『クリスティアナ』へ変更作業中です。
まだ終わってない箇所がありましたら、筆者の方へお気軽にお知らせください。
タイトル付け、大幅な加筆と修正を行いました(2025/03/19)
まさか……バレンタインのお返しに選んだものでこんな状況を招くとは。
こんな事になるくらいなら、全員に同じ物を贈れば良かった。
神代流哉は正座を崩さず、内心で後悔の念を抱く。
しかしながら、既に起きてしまった事を後悔しても仕方がない。
時を巻き戻したとしても、修正が効かないのであれば、無駄な労力を使うべきではないからだ。
目の前に揃っている五人の少女たちを見上げながら、流哉は何とも言えない気持ちになっている。
ことの発端、それは思い返せばそれは昨日の朝から始まった。
三月十三日 午前七時 西園寺邸のリビング
流哉は起床してすぐにリビングへと来たが、同居している五人の少女たちは既に朝食を取り終えていた。
流哉の分はテーブルに用意されており、冬城燈華と大津秋姫の二人は、制服に着替えて降りて来た。
「今日は登校日だったか?」
「あ、リュウちゃん、おはよう。
私とヒメは生徒会の用事なんだ……そろそろ春休みに入るってこともあるし」
燈華は、少しばかり気まずそうな笑みを浮かべ、流哉に挨拶をした。
その表情は、まるで何かを言い訳するかのように、どこか落ち着かない。
「例年であれば登校しなくても良いんですが……今年度は不祥事が重なりましたので。
生徒は登校日が少し増えて、教師はそれに伴い業務が増えるって形です。
私と燈華ちゃんは生徒会の仕事が山積みになっていますので、生徒会室に缶詰になりそうですけどね」
秋姫は、燈華の言葉を引き継ぎ、少しばかりうんざりした口調で説明した。
その瞳は、まるで終わりの見えない仕事に絶望した労働者のように、生気を失っているように見えた。
燈華と秋姫が少し落ち込んでいるように見えた原因は分かった。
気の毒だがソレはソレ、コレはコレ。
見送ろうとしたところで、ズボンのポケットの中でスマートフォンが振動する。
「もしもし」
「ようやく出た。神代先生、今どこですか?」
ディスプレイに表示されていたのは私立宇深之輪高等学校の文字。電話をかけて来たのは、学年主任を任された人だった。
しかし、何の用事があって電話をかけて来たのか、流哉に思い当たる節はなかった。
「朝早くにどうかしたんですか?」
「何を呑気に……『どうかしたんですか?』ではないですよ!
今日は登校日だというのに、神代先生がまだ学校に到着していないと報告を受けましたので、確認の連絡です」
何故か朝から血圧の上がりそうな勢いで喋っているので、少しスマートフォンを耳から離す。
離すのが少し遅かったらしく、耳がキンキンとしている。
「少し落ち着かれては?
何を言っているか、まだ私には分からないのですが?」
「早く学校へ来なさいと言っているんです!」
「ああ、通りで話しが噛み合わないかと思えば……私の予定を把握していないようですね」
「神代先生の予定?」
「以前より連絡事項として書いてあったと思いますが、今日は大学の方です」
「あっ……すみません」
「いえ、それでは」
連絡事項を書いてある黒板を見て気づいただろうか、声が小さくなっていく。
これ以上話す事もないので一言で通話を切る。
そのままの流れでスマートフォンの電源を落とす。
燈華達の視線を無視して、キッチンへ向かおうとするが、横を抜ける際に、燈華に呼び止められる。
「リュウちゃん……」
「どうした?」
「今日は学校へ来ないの?」
「行く用事はないからな―――何かオレに用でもあるのか?」
「私とヒメは生徒会室に缶詰になることは確定しているから、この機会に後回しにしていた案件もついでに片付けようって話しをヒメとしていたんだけど……」
「やれば良いんじゃないか?」
「人手が足りないから手伝って?」
自身が可愛いというか、優れた容姿をしていることを自覚しているのか。
燈華は首を少しかしげて見上げてくる。
おそらく大抵の男だったら陥落するのだろう。
惜しむらくは、この仕草を見せる対象が流哉か、秋姫や西園寺紡等といった、極めて親しい友人関係にある者に限られることだ。
「残念だが、それはできない。
午前も午後も大学で拘束されているだろうから、物理的に時間がない」
「それじゃあ無理か……」
「今日は無理だな……まあ、頑張ってこい」
落ち込む燈華の頭を撫でて、元気づける。
燈華と秋姫を玄関まで見送り、送り出すと、クリスティアナとアレクサンドラに挟まれて紡が連れられて来た。
ここまで来たら行くことにしたのか、紡は大人しく靴を履いている。
「二人とも毎朝大変だな……」
「いえ、いつもの事ですから。
それに朝の点呼にさえ出て頂ければいいんです。出席にさえ間に合ってくれれば大丈夫なんです」
アレクサンドラは、いつものように穏やかな笑みを浮かべ、流哉に答えた。
その表情は、まるで献身的なメイドのようか、はたまたダメな娘を見守る母親か、慈愛に満ちている。
「そうだねー。どうせ点呼の時間以外はサボっていてもツムギなら大丈夫だろうし」
クリスティアナは、いつものように茶化すような口調で言った。
その瞳は、まるで悪戯っ子のように、楽しげな光を宿している。
「二人ともお喋りが過ぎるわよ」
紡は、いつものように不機嫌そうな表情で、二人を睨みつけた。
その瞳は、まるで冷たい氷のように、感情を拒絶している。
紡に睨まれてクリスティアナとアレクサンドラは口を閉じる。
そのまま出て行こうとする紡を追いかけ、二人は慌てて出ていく。
燈華たちを見送って静かになった西園寺邸。
流哉はキッチンへと引き返し、コーヒーを淹れるべくコンロの火を着ける。
湯が沸騰するまでの間、流哉はリビングのテーブルに置かれた朝食に目をやる。
トースト、サラダ、スクランブルエッグ、ベーコン、ソーセージ、フルーツ、ヨーグルト。
彩り豊かで栄養バランスも考えられたメニューは、アレクサンドラとクリスティアナの二人が腕によりをかけて作ったものだ。
「……感謝、だな」
小さく呟き、流哉はコーヒーを淹れ始めた。
豆を挽き、丁寧にドリップしていく。
立ち上る芳醇な香りが、まだ眠気の残る頭をゆっくりと覚醒させていく。
「さて、今日は……」
手帳を取り出し、今日の予定を確認する。
午前は大学で講義、午後は研究室で実験、夕方からは燈燈華たちの家庭教師。
夜は……特に予定はない。
「……少し、時間があるな」
流哉は、淹れたてのコーヒーを一口飲み、窓の外に目をやった。
春の陽光が、庭の木々を優しく照らしている。
「……少し、散歩でもするか」
そう呟き、流哉は席を立った。
玄関で靴を履き、コートを羽織る。鍵を閉め、流哉は西園寺邸を後にした。
春の柔らかな日差しが、流哉の頬を撫でる。
流哉の視点、どうでしたか。
流哉がどのようなモノをお返しに選ぶのか、楽しみにして頂ければと思います。
※三上堂司からのお願い※
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