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魔法使いに平穏は訪れない  作者: 三上堂 司
魔法使いの戯れ事、見習い魔術師の勝負

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4.電車内での出来事~男子学生の失恋を添えて~

今回も流哉の視点です。

楽しんで頂けたら幸いです。


タイトルの変更、内容に大幅な変更を行いました(2025/02/12)

 自宅への帰路の最中、神代流哉は苛立(いらだ)ちを抱えたまま電車に揺られていた。


 起因する要因は三つ。


 一つ目は冬城翁との契約の最後の日。

 あの自動人形の持ち主……取り逃がした人形使いの足取りが掴めず、苛立っている。


 すぐにでも見つけられると踏んでいただけに、あの時に始末できず取り逃したのは流哉(オレ)のミスだ。


 二つ目は大学で教授連中から罠にかけられたこと。

 神代(かみしろ)という名前の持つ権力を得ようという馬鹿(バカ)な企みに巻き込まれた。

 実に(おろ)かで馬鹿げた行いだ。

 このような行為が通るわけがないと、普通であれば分かるようなものだが、権力によって腐るとまともな思考回路も失うらしい。


 そして三つ目、よりにもよって格下の連中に噛まれるとは()(がた)い。

 愚かな行いはするなと、無謀な欲を出すなと魔法連盟の本拠地では釘を刺したつもりだったが、『ガウルン』という家は、どうやら滅亡(めつぼう)を望むらしい。


 家名を潰さなかったこと、二度と魔術を扱えないように一族の魔力回避を破壊しなかったこと、命だけは見逃してやろうという温情を、全ては無駄だと思い知った。


 愚かな行いはするなと、無謀な欲を出すなと魔法連盟の本拠地では釘を刺したつもりだったが、『ガウルン』という家は、どうやら滅亡を望むらしい。

 

 ロンドンへ、魔法連盟へ必ず連絡を取り、『今回のロバートの越権行為に対する始末を絶対付けさせてやる』と、その事しか既に頭にはなかった。


 どうロバートの始末をつけてやろうかと考えている内、いくつか駅を通り過ぎた頃、教授連中のふざけた条件と人形使いの事を思い出す。


 もちろん教授達へ向けた怒りはまだ治まっていないが、夏季休暇が明ける前に狩り損ねた人形使いの生き残りにどう対策したものか、どう始末をつけるかと考えていた。


 ふと、気まぐれに車窓(しゃそう)から外を見る。

 空は鉛色を強め、雨が降り出していた。

 電車は停車する為に減速する。


 目前に迫る駅には多くの傘をさした学生が目に入る。


「ここは……そうか、この駅の近くには立花(たちばな)(かえで)の電話にあった高校があるのか」


 大学から最も近い駅に着いて早々にかかってきた立花(たちばな)(かえで)からの電話。


 電話内容は『昔の教え子が困っている。流哉君は教員免許を持っているから、その子の相談だけでも乗ってくれないか』という事だ。


 何故、赤の他人の相談に流哉が乗らなければならないのか?


 どうしてその相談とやらに乗ることに教員免許が必要なのか?


 考えれば考えるほど理解に苦しむ。


 少しの間考えて、考えてもしかない事に気づいて悩むのを止めた。

 考えても理解できることではないことに気づいたからだ。


 結局のところ、なるようにしかならないからだ。

 忌々しい教授達の嫌がらせに対する報復も考えなければならない。

 他にやるべきこと、優先させるべきことへ思考のリソースを割くべきだ。


 立花楓に恩義はあるし、『別にそのお願いとやらを聞いてやらんこともない』とは思う。


 しかし、それはそれ、これはこれ。

 立花への恩と、欲に目が眩んだ俗物共を許すというのは話しが別だ。

 何人たりとも、神代の名を利用することは許さない。


 神代の奇跡にすがるのは別に構わない。何かに縋らなければ人は立ち上がることができないのだから。

 独占欲や支配欲さえ持たなければ、流哉はある程度までは寛容だ。


 駅へ停車し、扉が開くと大勢の高校生が乗車してくる。


 雨に濡れ、タオルで拭く者。

 濡れた傘を広がらないように紐で結ぶ者。

 取る行動は様々だが、皆共通して話す内容は期末考査のことである。


 流哉の目の前のスペースに陣取り、吊革に捕まって立つと大声で話しだす男子高校生たち。


 その集団に対し、迷惑だなと感じつつも、苛立ちがまぎれている事に気付く。


 (しばら)く高校生の何げない日常会話に耳を傾けつつ電車の揺れに身を預けていると、嫌な気配を感じ取る。

 その気配の感じはロンドンでの母親からの電話を彷彿(ほうふつ)させるものだった。


 所謂(いわゆる)、虫の知らせや第六感といった部類のものだろう。

 危機察知に関する感受性の高さは魔法使いとして生きていく上で必然的に身に付いたスキルの一つが今も警告を発し続けている。


 確かあの時は冬城の二人からの依頼だったな。


 嫌な予感が急に現実味を増す。


 目の前で、大声で話す毬栗(いがぐり)頭の野球部員らしき少年と、茶髪にピアスの少年の話し声は耳をすませなくても聞えてくる。


「なあ、珍しいことに今日は冬城(とうじょう)が乗っているらしいぜ。

 駅で生徒会の連中と一緒にいるのを見たんだよ」


「マジで。生徒会長この電車に乗っているのか。

 どうしようかな、デートに誘ってみようかな?」


 そうか、燈華(とうか)の奴は学校では人気なんだな。

 デートに誘われるなんて、高校生活を楽しんでいるみたいで結構なことだ。

 しかし、何かが引っかかる……何か大切な事を忘れていないか?


「止めとけって、どうせ玉砕するって目に見えているんだから」


「分からないだろ、まだ誘ってないんだから。それで、どこの車両に乗っているんだよ」


「乗っているのは一番後ろの車両。

 お前が相手にされないのは分かり切ってるんだって。

 この前って言っても、四月に入って直ぐに隣の組みの佐東(さとう)が誘ったらしいんだけどさ―――」


「佐東かー。あのイケメンが彼氏かよ、それならオレに勝ち目はないや」


 どうやらイケメンの彼氏がいるらしい。

 なら、既に流哉(オレ)のことなど過去の人に成り下がっているはず。

 それでいい。過去の憧れなんていうのに囚われる必要はない。


「いや、佐東ですら歯牙(しが)にもかけてもらえなかったって。

 だからお前が相手にされる訳がないって事」


「佐東がダメってマジかよ……誰ならオーケーもらえるんだよ」


「女子達が噂していたけど、何でも小さい時からずっと好きな人がいるらしくて、『その人が海外から帰ってきた』とかで凄く喜んでいたって話しだよ」


「なんだよ、そんな昔から好きな人いんのかよ。

 ……って、ちょっと待てよ。そんな昔の記憶なら今のオレ達にもチャンスがあるんじゃね?」


「ないない。その人の今の写真を会長から見せてもらったって女子が『佐東なんて比べ物にならない』って言ってた」


「佐東が比べ物にならないなんて、オレ達に可能性は」


「ない」


「「はあ」」


 目の前で盛大に溜息をつく二人の男子高校生を見つつ冷や汗が滲み出てくる。


 落ち込む二人を囲むように部活仲間らしき男子生徒たちが二人を励ます姿は微笑ましくも気持ち悪い。

 目の前の暑苦しい光景に胸焼けを起こしかけるなんて、精神汚染の魔術も裸足で逃げ出す威力だ。

 自我を強く持つことで精神を守る。


 ちょっと待て、燈華の好きな人の話しなんて今はどうでもいい。


 いや、目の前で溜息(ためいき)をつく少年たちには同情するが、男同士の熱い抱擁(ほうよう)は精神衛生上よろしくない。

 いや、気持ち悪いがそれも今はどうでもいい。


 今、あいつが、燈華が乗っているって言わなかったか?

 もし、この電車に乗っているなら非常に不味い……

 いくら半人前とはいえ、道具の補助があれば流哉(オレ)を見つけるなんて容易いことだ。


 直ぐにロンドンへ帰る予定だったから、冬城燈華に『見つけろ、手を借りてもいい』なんて言ったが、これ以上の面倒事は正直避けたい。


 ズボンのポケットから方位磁石や懐中時計によく似たモノ、『羅針盤』を取り出す。

 針が一つではなくいくつもあり、その文字盤部分が奇妙としか言い表せない物である。


 神秘を追求し、求めるモノ達の必需品、『羅針盤』の針の一つは隣の車両へと続く扉を指し、別の針は奇妙な文字、青色の部分を指す。


 その中の文字を指す針だけが動いていた。


 不味いな、確実に流哉へと近づいて来ている。

 次の駅まで見つからずにいられるか?


 焦りが正常な思考と判断を鈍らせる。

 いつもの調子であったなら、人目につかないところで魔導器を使うが、今は流哉の心に余裕がない。


 平常心を装って席から立ち、車両のドア付近に向かう。

 幸いな事に次の駅はもう目の前だ。


 車掌がブレーキをかけ始めてもいる。

 多くの学生で混雑する車内に電車の停車する際特有の重力がかかり、扉に押し付けられる


 頼む。早く駅についてくれ。


 祈りが通じたのかどうかは分からないが、電車は停車した。


 最寄り駅の一つ手前の寂れた無人駅。

 発展した川沿いや町の中心街から少し外れた所、昔の影が残る駅で流哉は降りる。


 車掌に切符を渡し、電車が発車するのを見届けると、早々にその場を立ち去る。

 寂れた駅を、寂しい町並みを後目に駆け出す。

 背後へと感じる違和感を誤魔化すように。

流哉の視点、どうでしたか。

今回の話しを書いている最中に、『はて、書いたは良いが、この男子学生が不憫でならない』と思い、タイトルに少しだけ手を加えました。

告白する前から既に負けていたなんてことは良くある話しかもしれませんが、男子学生の青春の一ページとやらに触れてみました。


お読み頂き、ありがとうございます。

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今後ともよろしくお願いします。

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