5.電車内でのこと~狩りの時間~
今回は燈華の視点です。
楽しんで頂けたら幸いです。
加筆と修正を行いました(2025/02/12)
目的地の一つ前の駅を出発してから数分後、冬城燈華は車両を移動していた。
何事かと視線を向けてくる学生達を無視し、ある席の前で立ち止まる。
そこには何故か顔を赤くしている男子生徒が二人座っていた。
目的を遂行する為に、この嫌らしい視線を向けてくる二人に話しかける事にした。
「ねえ、あなた達。ここに男の人がいなかった?」
「男って、なあ。沢山いるんだけど……」
「そういえば、さっき一人降りたぞ。あんな寂れたところになんの用があるのか知らないけど」
「そう、ありがとう」
燈華に話かけられただけで、同級生の男子二人は更に顔を赤らめている。
どんな感情を燈華に向けているのかは丸分かりだ。
そんな二人の反面、燈華の感情は冷めており、車窓から過ぎ去った駅を見つめ、考え込む。
もう、秋姫の羅針盤も頼りにならないわね。
反応があったから来てみればどこにも居ないし……どこに居るのよ、りゅうちゃん。
燈華は再び羅針盤を取り出し、反応を見る。
僅かに反応はするものの、針は彷徨うばかりでしっかりとした方向を示せないでいた。
奇妙なモノ、普通とは違うそれは必ず人目を引く。
普通と異なるというのは、見た者に違和感を抱かせ、記憶に残す。
本人が望もうと望まないとに関わらず。
燈華は考えをまとめようと思考の回転速度を上げているところに、声を掛けられ思考を止める。
「生徒会長。その変な方位磁石みたいなものって流行っているの?」
「流行とかじゃないわ、
これは私がお爺様から頂いた物で、昔からずっと使っているもの。
それにコレはただの懐中時計よ。
……何故、そんなことを聞くの?」
「さっきの駅で降りてった男の人が同じような物を持って眺めていたからさ」
ぱっと見は普通の懐中時計に見える燈華のは、中身は全く異なる物。
同じような物を持っているという謎の人物は燈華の目線上かなり怪しく見えている。
そもそも今のご時世、懐中時計なんて物を持っている人は珍しいはず。
燈華のように親親類から譲り受けたという場合を除けば、よほどのマニアでもなければまず持っていないような物。
「なんか奇妙って言葉がピッタリなものだったし、同じようなものを生徒会長が持っていたから、てっきり流行っているのかなって」
それに、同じ年頃の男子は少しでも歳が離れた同性を『オッサン』呼びして蔑んでいるのを燈華は聞いたことがある。
それなら、『男の人』なんて言うのは、それほど外見は年齢が離れていないように見えるということ。
「そう。その男の人、これと同じようなモノを持っていたのね。
ありがとう、一つ疑問が解決したわ」
燈華の『ありがとう』なんて有触れた言葉一つで舞い上がる同級生の男子二人を後目に、燈華はもう一度羅針盤を見つめる。
そう、流哉が普段通りの調子であったなら、起きるはずのなかったのであろう小さな失敗。
しかし、それがここにきて、燈華にとっての大きな意味を持つ。
先程までと異なり、相手もこちらと同じ道具でこちらの探査を妨害ないし誤魔化していたことを知った今、羅針盤に探査の方法を変えさせれば、自ずと結果は出る。
羅針盤の針は迷わず、今度はハッキリとした方向を示した。
「見ーつけた。もう逃がさないからね、流哉君」
自然と口角が上がり、燈華は電車から降りる。
ホームの外では既に西園寺紡や大津秋姫の二人が同居する二人の外国籍の友人と待っていた。
慌てて駆け寄る燈華に四人は不満そうな顔で待ち構えている。
それもそのはず、『魔法使いの家に行こう』と言い出した本人を迎えに来たら急な雨に合い、真夏だというのに肌寒い中、待たされ続けていたのだから。
「燈華、遅い。約束の時間、過ぎている……」
真っ先に声をかけてきたのはやはり紡だ。
待たされるという事が嫌いなくせに待たせる事に何の罪悪感を持たないやつ。
少しでも時間に遅れると機嫌が悪くなる。
「少し遅れただけじゃない。しかも私の責任じゃないし」
「貴方の主張はバスの中で聞いてあげるから、早く行きましょう。
行き方も行き先も知っているのは貴女だけなのだから」
紡が急かしてくる。
しかし、ここでバスに乗ってしまうわけにはいかない。
バスに乗ってしまっては流哉を捕まえる数少ないチャンスを……いや、最初で最後のチャンスを逃してしまう。
「紡、悪いんだけど、今から言う場所へ向かって流哉君の足止めをしてくれない?」
「彼の居る場所が分かったの?」
「ええ、偶然。
ホント偶然になんだけど、電車の中で僅かな魔力の反応を羅針盤が掴んだの。
ジャミングを慎重に取り除いて、ようやく針を合わせることが出来たわ」
自信満々に紡へ羅針盤を見せ付ける。
羅針盤にはしっかりと方向を指し示す針。
それを見た紡はすぐさま“魔法使い”としての表情に変わる。
紡は薄着だというのに、何処からともなく分厚く、豪華な装丁の本を取り出す。
残る三人はどうして良いのか分からず、ただただ、状況を見守る。
「……私に何処へ向かえといいの?」
「場所は……ここ。月衛山と町の境になっているこの森。
ここをあと少しで通る事になっている」
「分かったわ、貴女がノルンに愛されている事を信じる」
紡が取りだし、開いた本のページ。
見開きのページは地図になっており、『羅針盤』で予測した位置を示すと紡はコクンと頷く。
先ほどまでハッキリしていた存在感が曖昧になり、認識出来なくなる。
紡の存在はその場に居なかったことにされる。
世間は、世界は、それを異常と捉えない。
紡だけが持っている、本物の神秘。
「さてと、私も急がないと。
悪いんだけど、ヒメ、今から言う通りにバスを乗り継いで道なりに行けば“月読館”って場所にたどり着けるから。
そこに着いたら雪美さんに会って私の事を伝えて。
既に先方には話は通してあるから、頼んだわよ」
矢継ぎ早にバスの乗り継ぎを教え、秋姫に地図を押し付けると燈華は雨の中へと走りだす。
三人を雨の降る街に置き去りして。
燈華の視点、どうでしたか。
前回に引き続き不遇な男子高校生二人が出てきます。
たまに出してあげようかなと思っているくらいには、作者が気に入っているキャラだったりします。
次回の本編の更新は来週の水曜日になります。




