Ex.神代流哉、大学での出来事 『その肆』 凡弱なる者よ、甘い考えは捨てることだ
今回も流哉の視点です。
楽しんで頂けたら幸いです。
加筆と修正を行いました(2025/02/10)
立花楓と約束を交わした一週間後、喧噪だった大学内も幾分か静かになったような気がする。
新入生は、これからどのように勉強をしていくのかを選択する者と、大学からオススメされたカリキュラム通りに組んで受けるだけの者に分かれたように感じる。
顔を見ればだいたい分かる。
自身が進みたい方向が見えている者とそうでない者の差は。
「だから新入生はそこまで居ないだろうと予測していたんだが、予想よりもこの講義を選択した者は多いみたいだな……」
民俗学のコマが割り振られたお昼過ぎ、一番目の時間。
指定された部屋の一番後ろ、壁よりの隅にある席に陣取り、室内を見渡す。
二年目以降の学生が選ぶ、『知る人ぞ知る名店』みたいなものだと思っていたが、どうやら流哉の予想はあまり当たらないらしい。
「さりとて満席になるほどの人気でもなし……」
講義開始の時間まであとニ、三分。
これ以上学生の数が増えることはないだろうと判断し、室内にいる者達の観察に入る。
ホワイトボードの近くの席に陣取っている五人くらいのグループは勉強ができるタイプだろう。
既に講義を受ける準備を終わらせている。
そのグループとは反対側に陣取っている四人くらいのグループはおそらく立花楓のゼミに所属する学生だろう。
立花に頼まれたのか、講義用に用意したであろうレジュメを配る用意をしている。
どうやらこの講義ではホワイトボードの真正面の席にレジュメを置き、受講生に取りに来させるスタイルのようだ。
「あの方法は良いな。オレもそうしよう」
流哉は自身が講義を執り行うことを考えて、有用そうだと感じたアイデアを手帳のメモ欄に書き留める。
本当に実行するのか、採用するのかは別として、アイデアやネタというものは思いついたら見つけた時に書き留めるものだ。
講義の担当教授である立花が入ってきたのを合図に、お喋りをしていた学生が静かになる。
まだ観察は終わっていないが、それはまたの機会で良いだろう。
どのように講義を進めていくのか、参考にする為にもしっかりと聞くようにしよう。
講義が始まって三十分程経った頃、流哉が座っている場所の近くにある扉が少しだけ開き、数人の学生が入ってきた。
それは流哉が頬杖をついて講義の内容に目を通している時だった。
コチラを睨むような目つきで見た後、斜め前当たりの座席に陣取っていたグループに合流した。
「なあ、なんであの席に知らない奴がいるわけ?
オレらがあの席使っているの、民俗学取っている奴らは分かっているだろ」
「さあ?
オレが来た時にはあの場所に居て本を読んでいたし、話しかけんなって雰囲気だったし」
「どうせ新入生だろ?
イキっているようだし、先輩に対する態度ってやつを教えてやるよ」
聞きたくもないが、聞えてくる戯言にウンザリする。
こんな馬鹿丸出しのような奴らが、この大学に通えているということ自体驚きだが、こんな連中が選択しているという事は、簡単に単位が取れる講義として落ちこぼれ組に知れ渡っているという事だろう。
立花は何をしているんだという気持ちと、一体コイツ等は何しに大学へ来ているんだという気持ちを抱く。
「簡単に単位をもらえると甘い考えなら、今回は落ちるだろうな」
誰にいう訳でもなくボソッと一言をこぼし、残り半分となった講義時間を物思いに耽ることにした。
ある程度は好きにしても構わないだろう。
物思いから引き戻したのは立花の声だった。
「さて、今日の講義はここまでにしよう。
少し早く切り上げたけど、まだ終わってないからね」
すぐさま帰る準備を始めた斜め前のグループを立花は指でさして注意をした。
グループの連中はバツの悪そうにしている。
「今日は君たちに紹介したい人が居るから早めに切り上げた訳だけど……あと十分程しかないから、紹介している間に質問用紙を回すから書いて、最後に提出してください。
それでは、神代君。前に来てください」
立花に呼ばれたので、席を立ち、ホワイトボードの前に向かう。
斜め前の席に着いた遅刻してきた者達はなんとも言えない表情を浮かべていた。
一瞬だけ視線を交わすが、興味はないのでそのまま合わせることなく過ぎ去る。
一番前まで行くと、講義の際に用いていたマイクを渡された。
「紹介に与りました神代です。
今年度より立花先生と共に民俗学を教える事になりました。
以後、よろしく」
短くまとめて立花にマイクを返す。
「彼には今週より木曜日の方の講義を主に担当してもらいます。
木曜日の方は彼の基準で評価付けを行いますので、そのつもりで居てください。
何か伝えておくことはありませんか?」
立花にマイクを渡されたので、もう少し話せという意思表示だと直ぐに察した。
流哉の基準で決めて良いと言っていたし、好きにして良いという言質を取ったということで……
「では、二、三伝えておきます。
まず、私が担当する分のコマでは出席を取らない。
質問用紙は配るが、出席点はないと思ってくれて構いません。
出たくない人は出なくても特に罰則はない」
まずは出席点でどうにかしようという甘い考えを切り捨てる。
「次に、出席することによるメリットを提示します。
テストの制作において、講義に出席し、聞いていた人だけが分かるような問題を設けます」
しっかりと講義を聞きにくる者へのメリットを提示し、出席における選択肢を与える。
「あと、講義への途中参加と途中退場を基本認めない。
開始してから数分が経過したら入り口を施錠します。
特別な事情がある場合は、事前に申請願います」
途中から入り、そして帰る。
その行為を別に咎めはしないが、そもそも参加しなくても罰はないのだから、予定があるのならわざわざ出席しなくても良いという事を提示する。
これでサボりたい者だけを篩にかける。
「私の担当分については以上で説明を終わりにします。
興味のある者だけ参加してくれれば良い。
遅刻してまで出席しなくていいし、早く帰りたいのならわざわざ出なくていい。
勿論、専用の席なんて制度は設けないので、自由に座ってくれて構わないし、教わる立場である君たちの間に上下の関係性はない、とだけ言っておこうか」
無論、ドコの誰とは言わないが、当人たちは気づいているのだろう。
遅刻者を含め後方に陣取っていた者たちは顔を俯かせている。
聞きたくて来ている者や、真面目に取り組んでいる者達、彼らの邪魔になるような者達への配慮は一切要らない。
「神代君、ありがとうございました。
最初の講義でも説明しましたが、この講義は試験での点数をそのまま評価にします。
出席はあくまでも救済措置ですので、あてにしないように。
それから今週の金曜日が受講取りやめの申請期間最終日です。
そのことを留意しておくように。
今日の講義は終わりにします」
立花が講義の終了を告げると、質問用紙を提出に学生が押し寄せる。
用紙の提出し終えた人から徐々に帰っていく。
最後に残ったのは立花のゼミ生と立花、そして流哉だけとなった。
「じゃあ神代君、木曜日の打ち合わせをこの後しようか。
そういう訳なので、君たちはこのまま帰って大丈夫です。
手伝ってくれてありがとう」
ゼミ生を帰すと、立花と共に研究室棟へ向かう。
この日は次の講義内用について話しをし、詰めて終了した。
肉付けする内容が難しすぎないように気を遣うという事を覚えた。
凡弱なる者よ、甘い考えは捨て真剣に取り組むことだ。
後に、講義の際に施錠することを決めておいて良かったと実感する出来事があるとは思いもしなかったが……
流哉の視点、どうでしたか。
今回の話しで流哉の大学内でのEXエピソードは一先ず終了です。
引き続き流哉たちの日常をよろしくお願いします。
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