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魔法使いに平穏は訪れない  作者: 三上堂 司
魔法使いの戯れ事、見習い魔術師の勝負

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Ex.神代流哉、大学での出来事 『その参』 条件の提示

今回も流哉の視点です。

楽しんで頂けたら幸いです。


大幅に加筆、修正を行いました(2025/02/10)

 湯飲みに入ったコーヒーが半分ほどになった頃。

 口火を切ったのは神代流哉の方からだった。


「それで?」


「うん?」


「説明はいつになったら始まるんだ?」


「ああ、そうだったね」


 立花楓たちばなかえではソファーを立つと自身のデスクへ向かう。

 用意してなかったのかと思い、湯飲みの中身を一気に飲み干し、息を吐く。


「大まかなことはこれにまとめてあるから、読んでもらえれば分かるよ。

 今から説明するのはそこに書いていないこと」


 ホチキスで閉じただけの簡素な冊子。

 中身に軽く目を通すが、これは講義を選択した学生向けのパンフレットだ。


「これは学生向けのパンフだぞ」


「それで良いんだよ。

 僕はそこに大まかな筋を書いてあるし、夏までにやる範囲はそこにある通りなんだ」


 春から夏までの、大学の前期課程における民俗学の講義内容に関する記述を確認し、日程を確認する。

 どう考えても、この内容であれば流哉の手伝いは不要なはずだ。


「この内容ならオレの手伝いなんていらないだろう?」


「先ほど言った通り、君の束縛と見極めが僕の目的だからね。

 それに大まかな流れというだけで、そこに肉付けしていくのが僕たちの仕事だよ」


 隠すことなく目的を話すのは、隠す必要がないという自信の現れだろう。

 立花の目的を聞いて、その通りに踊ってやるのは(しゃく)だが、目立たずにこの町で活動をするのに有効な選択肢であることに違いはない。


 それにしても、わざわざ学生向けに講義の内容をまとめ、それを講義に向けて肉付けしていくというのは……


「面倒なことをやっているんだな」


「これが日本でのやり方だよ」


 国が違えばやり方も異なる。それは当然のことだ。

 流哉が主に学生という時期を過ごしたイギリスの、連盟が運営する学舎とではやり方が異なるのは至極当たり前のことだろう。


 そもそも流哉(オレ)がまともな教育を受けた期間は極めて少ない。

 小学校と中学の義務教育期間とされる九年間、ろくに学校へ通って授業を受けたという記憶はないのだ。


 初等教育の六年間の内、学校へ通えない時期が多くあった。

 幼少期の流哉にとって、先生とは祖母であり、勉強をのは祖母の部屋だった。

 祖母の付き添いで祖母の友人の家へ行くことが多く、外出が無く、来客も無いという日は祖母から基本的なことを教わるというのが、極々当たり前の日常だった。

 小学校へ通ったのは、祖母が流哉を連れずに外出する日だけだ。

 そして、四年の夏。祖母から『魔法を正式に継ぐのはお前』だと言われて以降、小学校へ登校した日は一度もない。


 中等教育の三年間、流哉が中学校の校舎に足を踏み入れたのは、入学式と卒業式の二回だけだ。

 基本的に連盟の学舎の方へ家庭の都合による留学という形式をとっていた。

 既に魔法という稀有な力に目覚めていた流哉にとって、優先すべきは人として生活では無く、魔法使いとしての立場の確立と、祖母から受け継いだ役割と役目を果たすことだった。


 記憶をいくらさかのぼっても、学校という場所へ通った思い出も、記憶も、何も無い。


 よくよく考えてみると、立花の申し出を受けるということは、流哉にとって実はとてつもなく難しい事をやらされそうになっているんじゃないか?


「なあ、それはオレにできることなのか?」


「どういう意味だい?」


「自慢じゃないが、オレはまともに学校へ行き、教育を受けたことはない。

 それもろくに登校した記憶すらない」


 我ながら、本当に何の自慢にもならない。


「勉強なんぞはテキストに書かれている事を覚えるだけで事足りたし、必要なことは祖母から教わった。

 オレはまともな教育というモノを受けた期間が少ない」


「そこまでとは思っていなかったけど、だいたい予想の範囲内だよ」


「まともな教育を受けていないというのは予想していたのか?」


「まあ、二十歳にも届いていないような若者が戦場に居て、それも武器を使って戦うゲリラではなく、魔術なんていう超常のモノを使っていたんだ。

 普通の若者じゃないというのは分かるさ」


 普通じゃないと分かっていて、よく使う気が起きたモノだと呆れるが、当の本人も戦場を渡り歩くような常識ハズレだ。


 そんな人間が教壇に立っているというのなら、流哉のようなのが居ても違和感はないのかもしれない。


「そろそろ説明に入ってもいいかい?」


「ああ、スマン。続けてくれ」


 話しの腰を折ったままだったことを忘れていた。

 先ほど渡されたパンフレットに視線を落とす。


「大まかな流れはそこにある通り。

 肉付けする内容は……今までは僕一人で決めていたけど、これからは相談して決める方針を取りたい」


 立花は『良いかい?』と確認をとってくるが、流哉に異論はない。

 そもそも、流哉が口を挟むようなことではない。


「週二日ある講義の日の内、片方を主に担当してほしい。

 もちろん僕もその場にいるし、逆に僕が担当の日は君にも来てもらう予定」


「ちょっと待て。お前のサポートをするのでは無く、オレにも教壇に立てと言うのか?」


 そもそも流哉は人に教えるという経験は少ない。

 大学の講義ともなれば専門性が極めて高いものになる。付け焼き刃の知識でどうこうできるものではないはずだ。


「君が連盟で講師をしていたということは、連盟側からの通知でこの大学の経営陣は皆知っている。

 そして、君が教えていたとされるのが、民間伝承に関連する学問ということになっている」


 その知らせの内容は間違っている。表向きへ偽装したもので、流哉オレが教えていたのは、魔導に関する理論。

 その前に一度だけ古代魔術に関する授業を開いたが……誰一人として理解することはできなかった。


「その知らせの内容が、本当でないことくらい分かっているだろう。

 古代からの伝承などを教えたこともあったが……」


「それは勿論。あの組織が本当のことを教えるはずがないということは。

 だけど、伝承を教えるというのは、僕が教える民俗学に通じるものがあると思う。

 それなら何も問題はないと、僕は判断するよ。

 あとは学生のテストの範囲決めと、出題内容の選定、その答案の評価付け。

 仕事としてこんなところだけど、どうだろうか?」


 それなりにやることは多そうだ。

 講義のコマの内、片一方を持つのも面倒そうだというのは今の説明で十分理解した。


 パンフレットで紹介されている講義のコマ数は週に二日、それぞれ九十分、一時間半程。

 講義のコマ以外にも拘束される時間があるようだが、週に二日くらいの拘束で済むのなら文句はない。


「概ね、その内容に文句はないよ」


「じゃあ、これで進めても?」


「構わない……と言いたいところだが、いくつか条件がある」


 先に釘を刺しておかないと、後からアレもコレもと追加されるのは困る。


「条件?」


「ああ、まずは拘束するのは講義のコマがある日だけにして欲しい」


「それは構わないよ。

 僕も担当する講義とゼミがない日は大学に居ないこともあるから。

 ただ、条件にも飲めないものはあるからね」


 釘を刺すはずが刺し返されてしまった。

 最も通したかった要求である拘束時間を限ることはできたのはまずまずといったところか。


 あとはいくつか提示し、その都度妥協することになれば、その分多く条件を付けてやればいい。


「飲めないモノはその都度言ってくれ。

 次は、講義のある日でも個人の予定を優先させてもらう時があるということだ」


「具体的な事を聞いても?」


「もちろん説明する。

 神代の家としての仕事、そして魔法使いとしての仕事があるときはソレを優先させてもらうということだ。

 コレはこの大学に来る前に条件を出し、ここの学長は承諾している。

 事後承諾という形にはなるが、コレは承諾してもらう」


 学長に対して承諾を得ているのは神代家の仕事を優先する、といった部分だけだ。

 魔法使いとしての仕事のことなど、一般人に説明などできないし、説明するだけ時間の無駄だ。


「既に許可が下りているというのなら、僕が口出しすることじゃないね。

 その条件、ボク個人としても承諾するよ。

 そもそも、魔法使いとして動く時の君を、僕が抑制することも、制御することもできるわけがないからね」


 魔法連盟の本拠地を離れた今も魔法使いとしての依頼は来る。


 そもそも、別に大学という組織に所属する必要はなかった。


 裏の仕事にのみ専念していれば、わざわざ表の仕事をしなくても収入はある。

 むしろ裏の仕事での収入の方が高い。

 正確に言えば裏の仕事一回分で、表の年収など簡単に超える。

 

 それでも表の仕事をする理由は、主にカモフラージュの面が強い。


 平日の昼間に外を出歩いていても、肩書があれば面倒に巻き込まれることは減る。

 その為だけに偽りの職に就く魔術師は多い。


 もちろん、魔法使いの流哉(オレ)も例に漏れず。


「まあ、今まで提示したものは必要最低限なんだが……次に提示するのは、あの欲にまみれた俗物どもを関わらせるなということだ」


 大学という研究機関を隠れ(みの)に選んで最も後悔してことは、流哉個人というよりもその生家である神代家の持つ権力を得ようという救いようのない欲望だ。


 流哉オレはそういう俗物(ぞくぶつ)共は、皆殺しにしたいという衝動(しょうどう)()られるほどに嫌いだ。


「ああ、そのことは安心してくれていいよ。

 僕が大学に居る日に限っては、余計なちょっかいはないはずだよ。

 僕に許可を得ることなく、君を呼び出すことはできないから」


「アンタが条件を守っている限りってことだろう?」


「僕が居ない日に大学へ来なければまず大丈夫だよ」


「そうだと良いんだがな……」


 嫌な予感というモノは今まで一度も外れたことはない。


 予感という形で来る警告に従う以外の選択肢はないのだが、それでも未来視とかある程度状況が分かるモノであればと思ったことは……言うまでもあるまい。


「条件は以上かい?」


「今のところは。

 後は状況により追加も有り得るってところだな。

 まだ講義の様子を見たわけでもないし、判断がつかないところもある」


「来週にある講義が受講者を締め切ったあとのモノだから、そこで一度講義の様子を見てみてよ。

 その後に条件を追加でも大丈夫だから。

 もちろん飲めないモノのあるってことは念頭に置いて貰ってだけど」


「分かった、とりあえずそれで様子を見てみよう」


 来週の講義に顔を出すことを約束し、この日は解散となった。


流哉の視点、どうでしたか。

徐々に流哉が大学でどう過ごしているのかを明かしていきたいと思います。

このExエピソードは、次の話しで終わりの予定です。

もう少し流哉のExエピソードにお付き合いください。


お読み頂き、ありがとうございます。

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今後ともよろしくお願いします。

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