Ex.神代流哉、大学での出来事 『その弐』 立花楓の提案
今回も流哉の視点です。
楽しんで頂けたら幸いです。
大幅に加筆と修正を行いました。(2025/02/06)
今、目の前の人物に対して、神代流哉は言い表しようのない感情を抱いている。
パッと見は笑顔の男。
その内心は怒りで満ちているのか、それとも昨日のことをあざ笑っているのか。
精神を読み解くなどという芸当が、流哉にできるわけがなく、表情から感情を読み取れないのであればお手上げだ。
流哉は図りかねている。
目の前にいる者の内情というものを。
「流哉君。昨日ぶりだね」
「そう、だな。昨日のことはもういいのか?」
驚いたことに声をかけてきたのは立花楓の方からだった。
何を企み、何を考えているのか。警戒し過ぎるということはないだろう。
「昨日の事に落としどころを見付けるのは私自身のの問題だからね。
この感情を君にぶつけるつもりはないよ。
今日は君に提案があって来たんだ」
「提案?」
「そう、提案」
感情をぶつけられる覚悟で昨日の事をわざわざ聞いた。
それなのに既にある程度の決断をしていて、その上別件ときた。
いよいよもって怪しいことこの上なし。
踏み込んで後悔するのか、それとも……
判断はいつでも決まっている。
「まあ、良いか。
じゃあ聞こうか、その提案とやらを」
神代の名を継いだ者として、魔法使いとして、逃げるという選択肢だけは存在しない。
「君ならそう言うと思っていたよ。
提案というのは、僕の担当している講義を手伝ってみないかというものなんだ。
これは互いに利益がある提案だと思っているよ」
立花の持っている講義はたしか『民俗学』だったはずだ。
大学を卒業する為に必要な必修科目、いわゆる落としてはならない単位を得られる科目という訳ではなく、取りたいと思う人だけが取る、ありていに言えば人気のない講義。
わざわざ誘うほど人手が足りないとは思えない。
これは何か絶対裏があるはずだ。
何も確認せず、ただ話す内容を鵜呑みにするのは危険だと流哉の直感が囁いている。
「二つ、質問がある」
「何でも聞いてくれて構わないよ」
渋る様子もなく、何も隠すことはないとでも言いたげな態度だ。
「一つ、何故オレを誘う?」
「理由は二つ。
一つ目は君という新しい着眼点を入れる事によって僕の研究に新しい風を入れたい。
コレは僕の利益だ。
二つ目は君の利益になることだよ。
知っていると思うけど、君に対して良くない思惑を持っている人たちがいる。
私と共に講義を持つことで余計なちょっかいを僕のところで止めることが出来る。
コレは十分君に利益になる事だと思うよ」
一つ目の質問の答えには十分納得のいくものだ。
互いのメリットをしっかりと示している。
デメリットは交渉の際に明かす必要はない。
聞かれたときにしっかりと示せば良い。
ここに本心を隠していると確信した。
自身の直感が囁く時は必ず従うようにしている。
魔法、なんて冗談のような力を扱うのだ。己の勘こそが最後に従うべき行動の指針なのだ。
「二つ目は、こう聞こうか。
何が目的だ?」
「君を誤魔化すことはできないね」
自身の利益を示すことで目的を言っているようにも捉えられるが、実際のところは何も示してはいない。
誤魔化せないと分かっていながらも隠す辺りは昔と変わらない。
「目的は、君を監視下に置いておきたいから……というのは通用しなさそうだね」
「それが目的なら、わざわざメリットを示してから講義を手伝えなどと言わなくても良い。
学長の指示という事にして、オレを従わせればいいだけの話しだ。
下手な誤魔化しは、オレに通用しない」
「流石に誤魔化し切れないか。
魔法使いの直感に、というやつかい?
実に厄介な能力だ」
「これは能力なんかじゃない。
直感、シックスセンス、予感、虫の知らせなんていうのもあるが、コレは生来持ち合わせているものだ」
流哉は祖母のように完全なる予言と言えるほどの力は持ち合わせちゃいない。
ただ勘が鋭い、その程度でしかない。
「学長からの指示というのもあるんだけど、一番の目的は君を見極める事だ。
僕の中で、あの中東での出来事は未だに燻り続けている。
こういう結果であったと決着をつけられないでいる。
だから、君を見極めることで僕自身の問題に決着をつけたい」
立花の吐き出した本心。それは紛れもない事実なのだろう。
「ようやく本心を明かしたか。
まぁ……良いだろう、アンタの提案を飲むよ。
示されたメリットは十分オレにも利益があることだしな」
「じゃあ、成立という事でいいのかな?」
「ああ、欲だけが強い無能共に、仮初であっても従うくらいなら、アンタの策に乗る方が面白そうだ」
立花の提案に乗ることによって、流哉は強欲な無能共の横槍から解放される。
神代の名前という権威だけを目当てに来る者、取り込んで利用しようと考える者。
欲深い愚か者共の相手は疲れる以前に憎悪する。
先代の、祖母の積み上げたモノを横取りしようとしている奴らを流哉は許せない。
消してしまうことは簡単だ。
人間の一人や二人、集団失踪だと騒ぎにならない範囲であれば、どのようにでも処理できる。
それを成すだけの力もある。
だが、それはいつまで続ければいいのか分からない鼬ごっこだ。
自身の前に現れないのであれば、ある程度は我慢ができる。
道端で騒ぐだけの雑踏も、口煩い民衆も、求めるだけの魔術師も、所詮は路傍の石に過ぎない。
雑音程度である内は、目くじらを立てないでおいてやる。
わざわざストッパーになると言っているんだ、利用しない手はない。
「細かい説明はこのあと僕の研究室でどうかな?」
「それでいい。ここでしているよりかはマシだろう」
立花に案内される形で喫煙室を後にする。
目指すは研究室が固められている棟。
そこの一室で、『民俗学』のプレートが下げられている場所が目的地だった。
「まあ、説明と言ってもそこまで複雑な事じゃないんだ」
立花の説明を聞きながら、研究室の向かいあうように設置されたソファーへ別れて座る。
テーブルにはコーヒーの入った湯飲みが置かれ、口をつけるかどうかを迷っていると、先に立花がコーヒーを飲んだ。
「心配しなくても何も入っていないよ。
コレは僕の趣味なんだ」
「趣味にとやかく言う気はないけど、湯飲みでコーヒーが出てくるのは経験がない。
それから、心配していたんじゃなく、経験のないことに戸惑っただけだ。
そもそも、毒殺されたくても、この身体はとうの昔に毒なんか効きやしない」
コーヒーに何かが入っているのではないか。
その疑いを持たなかったかと言うと嘘になるが、警戒はそこまでしていない。
毒を仕込まれたことは今までに数えきれないほどある。
一口で死に至るような猛毒も、毒蛇に噛まれたことも、人の免疫系に異常をきたすような類のものまで、数えるのが馬鹿馬鹿しくなるほどに、世に存在するありとあらゆる毒は経験している。
だが、流哉の身体は毒物等を無効化する。
そもそも魔法使いは、魔法に至り、神々と契約を結ぶ際に、魔法を扱うに耐えられるよう身体の構造が人間からかけ離れる。
コレは魔法使いが最初に受ける祝福だと魔法連盟では定義している。
唯一、その契約した神に効く神話に由来する毒であれば効果が無いわけでもないが、そのような神秘が現代社会で入手できるわけがない。
レルネーのヒュドラも、始祖の巨人の血も、破壊神が飲み干した毒も、この世には存在しない。
試したことはないが、おそらくそれらを用いたとしても流哉は死ぬことはできないだろう。
あらゆる干渉を流哉の契約した神の加護が許さない。
望んで得た力ではなく、忌々しいとすら思うこともあるが……
流哉の視点、どうでしたか。
流哉の大学での生活、少しずつ小出ししていきます。
お読み頂き、ありがとうございます。
「面白かった」「続きが気になる」等、思って頂けましたら、ブクマ・評価頂けると大変励みになります。
評価は下の方にあります、『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』へと押して頂ければできますので、どうぞよろしくお願い致します。
今後ともよろしくお願いします。




