Ex.神代流哉、大学での出来事 『その壱』 神代流哉の後悔
今回は流哉の視点です。
楽しんで頂けたら幸いです。
内容に大幅な加筆と修正を行いました。(2025/02/05)
私立宇深之輪大学。
地方都市である海之輪市にある私立大学。
宇深之輪町がまだ海ヶ崎市や兎見村と合併する以前からある大学で、地域の名前が海之輪に変わってからもその名前を変えることはなかった。
その立ち上げに祖母の神代月夜が協力していたらしく、未だにこの大学は神代の名前に逆らわない。
神代流哉にとって都合の良い隠れ蓑……になるはずだった。
「なんでこうなったかなぁ」
昼下がりの大学構内、研究員や教授たちにのみ許された喫煙所で煙草の煙を吐き出す。
外の喫煙所で紫煙をくゆらしても良いのだが、初日の内に女学生に囲まれて以来、近寄ってすらいない。
息抜きをする為に煙草をくわえているというのに、それで疲れるようじゃ本末転倒だ。
その結果、逃げ込む先に選んだのが学生の立ち入れない場所にある喫煙所だった。
「失礼。火を貸してはもらえないだろうか」
火を貸してくれと声をかけられたので、上着のポケットに入れていた百円ライターを取りだし、相手の顔を見ずに渡す。
「ありがとう」
礼を言われたので、「どうも」と言い、そのまま窓の外を眺めている。
視界の端に貸したライターが見えたので、貸した相手を見る為に顔を動かす。
返してもらうためではなく、「そのライターは差し上げますよ」という為に。
「誰かと思えば……これはまた懐かしい顔を見たものだ」
ライターを貸したのは、旧知の間柄である立花楓。
旧知の間柄と言っても友人関係にあるわけではない。
敵対したり協力関係にあったりすることがある、その程度の付き合い。
魔法使いとしての仕事の中で、戦地に赴いた際に協力したり敵対したりする傭兵の一人。
親しい友人でなければ、憎み合い殺し合うほどの間柄でもない。
「やっぱり見間違いではなかったようだね。
世界に百人といない魔法使いの一人、『星の魔法使い』。
それとも、『魔導王』と呼んだ方がいいのかな?」
「そんなふざけた呼び方をしたらハッ倒すぞ」
「冗談だよ。
それにしてもこんなところで会うとは……運命というやつなのかな」
軽く笑い声を上げて言う立場に若干の怒りがわく。
しかも運命とは、皮肉にしては効き過ぎている。
「偶然だ、偶然。
オレがここへ来たのも偶然だし、お前が働いているのも偶然。
全ては気まぐれな運命の女神さまのイタズラだよ」
偶然も重なれば必然となる、とは芥川か誰かの言葉だったか。
この世界に偶然などないことくらい、少なくとも普通に生きている人間よりは理解している。
運命を司り、運行を担う神がいる以上、起きる出来事は全て神によって回された歯車が導き出す結果に過ぎない。
この喫煙所での再会も、必然であるということくらい誰かに指摘されなくても分かっている。
それ故に、このような再会に流哉は警戒をしている。
「君も冗談を言うようになったとは驚いた。
月日が経つのは早いものだね」
偶然ということにしておきたい再開に、少しばかり口が軽くなってしまったようだ。
世間話は早々に切り上げ、探りを入れることにする。
「最後に会ったのは中東だったか?」
「そうだね。
僕が宗教ゲリラ側で、君が新政府側だったね」
中東で起きたゲリラによる紛争。それを端に発する新政府とゲリラ間の宗教戦争。
それが立花と最後に合った場所での出来事だ。
倒れた政府に変わりゲリラが統治を始め、ゲリラによる宗教の弾圧と強制に反旗を翻した者たちが立ち上がり設立した新政府軍。
血で血を洗う泥沼の紛争は、魔術師にとっては格好の実験場となり、ゲリラと新政府のそれぞれに付け入り、神秘の流出に繋がりかねない状況になって、ようやく魔法連盟と協会はその鎮圧に動いた。
流哉は魔法連盟からの依頼を受けて、その鎮圧に乗り出した。
神秘の秘匿を守る為という名目は、魔法使いを動かすのに十分な理由であったし、衆人環視の中で魔術など使われたらそれを隠蔽する方が面倒だった。
「そんなこともあったな。
結果としてはオレが手を貸した新政府側がゲリラを鎮圧して終わったが、互いに要らぬ犠牲が多かったと記憶している」
「宗教に殉じて散っていった戦士たち、その中には私の友人もいた。
まあ、友人の死を見届けた時にあの場所を離れたから、結果的には粛清されずに故郷へと帰ってこられたわけだけど」
魔法の前ではあらゆる魔術が通用せず、ゲリラ側に寝返った元協会に所属していた者の神聖術も力及ばず。
信仰する神の力でも借りられれば、少しは話しも変わったかもしれないが、神の奇跡とやらは、そう易々と地上への介入はできない。
魔法に及ばない神秘では、魔法を止めることも防ぐこともできない。
流哉が参戦して以降、ゲリラ側についた魔術師と協会の者たちは逃げに徹することになった。
「オレたちは秘密裏に魔術師や協会の連中を相手にしていたからな……粛清だの殲滅だのと、新政府のお偉方が言っていた頃には依頼が完了してあの地を離れていた。
それでも残る魔術師崩れや信仰に殉じた元協会の人間は多くいたが、そいつらもきっと一緒に掃除されちまったんだろうな」
さっさと逃げ帰れば良いものを、異端に手を出した魔術師は連盟から追われ続ける日々に変わりはなく、己の全てを信仰に捧げた者たちはその地で潰えることを望んだ。
それもまた、定めらた運命の輪というやつだろう。
流哉にはどうすることもできないし、どうにかしようとも思わない。
「随分と他人事のように言うんだね」
「所詮、どこまで行っても他人事だからな。
オレたちは新政府内に潜り込んだ連盟の人間からの依頼を完遂しただけに過ぎない。
秘密を漏らすような連中の掃除をするのも、誰かがしなきゃならないことだからな」
「その結果、多くの罪がない人が死んでも?」
「罪のない人間なんてこの世に居やしねーよ。
仮に居るとするならば、そいつはこの世のあらゆる生の苦しみから解脱し、生命の真意に辿り着いたもの。釈迦のように全ての者を救おうと悟りを開いたものくらいだろう。
何かしらの罪を重ねて生きて行くのが人間って生き物だからな」
立花と禅問答をする気などさらさら無い。
流哉を相手に問うのは間違いであり、そこまでしたいのであれば、仏像や神像、十字架の前ですべきだろう。
立花は黙ってしまった。
仮に、罪のない人間がいるという仮説を立てたとしても、ソレは一体誰が証明するというのだろうか。
世界を創造した神か。
崇拝される神仏か。
唯一神か。
それとも天使なのか。
誰も観測できない以上、そんな事象は起きえない。
立花の言う罪のない人間とやらは、結果として敵対していた新政府側にも居た。
公平な裁きを協会の天使に求めるには、立花の手は汚れ切ってしまっていた。
だから、今、こんな問答をしているのだろう。
「君は強いね。
僕は未だに後悔と自責の気持ちに襲われる時がある」
「さっさと忘れるのが一番だよ」
立花の声に対し、切り捨てるように言い放つ。
結局、納得できる時なんてものは来やしない。
過去に干渉するなり、過去へ戻れるというのなら、その後悔を取り除けるかもしれないが。
そう都合よく奇跡とやらは舞い降りてこないものだ。
見切りをつけられるのか、折り合いをつけられるのかどうかは、どこまでもいっても立花自身の問題だから。
そこまで面倒を見ることなんてできないし、したく無い。
そこまでする権利も権限も、流哉は持ち合わせていない。
この日はそのまま立花とは別れた。
この広い大学構内で、頻繁に顔を合わせることはそう多くないだろうと高をくくって。
これは、現実はそう甘くはないと実感する一日前の出来事だ。
流哉の視点、どうでしたか。
今章より流哉の大学での描写が多くなりました。
それに伴いEx.エピソードで少しづつですが、流哉の日常に触れて行こうと思います。
お付き合い頂けれ幸いです。
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