1.ある大学での一日『その壱』 神代流哉の借り
今回は流哉の視点です。
楽しんで頂けたら幸いです。
加筆と修正、内容の変更を行いました(2025/02/01)
冬城燈華と西園寺紡の二人へ探し出してみろと告げてから一ヶ月、外気の温度は三十度を超える真夏の某日。
神代流哉は大学内の図書館にいる。
この大学、私立宇深之輪大学の第二号館、図書館としての役割を与えられた建物はその番号通り二番目に建てられたものだ。
最後に建てられた第九号館よりも、第二号館の建物は新しい。
最新の建物、そこに集められた蔵書の量、種類は、海之輪市内でも一番と言って過言ではないだろう。
温暖化がどうとか、エコだ、なんだとうるさい世間でも、図書館の中だけは冷房を寒いくらいにかけている。
書物の保存の点から、『室内の気温は一定に保たなくてはならない』と、いう免罪符はエコマニアも、口うるさい政治家も、そして自然科学の学者でさえ黙らせるのに効果は十分だった。
「外は暑くてとても居られたものじゃないってのに、外に居る連中は元気だな。
ここは冷房が効いていて快適だし、オレは外に出るより引きこもる方を選ぶね」
大学へ来て直接図書館へ向かう道中、第二号館へ入る直前に見た大学へ通う学生達を見かけた。
夏という季節は、人を活発にさせる効果でもあるのか、やれ『海へ行こう』だの、『新しい水着を買う』だの、『ナンパをしに行こう』だの、期末の試験も近いというのに呑気なものだ。
「しかし……ここに来るのも今日が最後かな?
魔術絡みの本はそこまで多くないと予想していたが、まさか一冊も無いなんてな。
こんな所に長く留まる必要はない」
図書館の最奥、立ち入り禁止区域の中。
貴重な蔵書を山のように積み重ね、その中央で流哉は最後の一冊に目を通し終えると、独り言をこぼし、本を閉じる。
「ここに居たんだね、神代君。探したよ」
くたびれた白衣に身を包んだ立花楓が入り口付近から呼びかけて来た。
積み上げた本の山に最後の一冊を積み重ね、さて、どう片付けると思い悩んだ時、丁度都合良く雑用を押し付けるのに良い人物が現れた。
しかし、この場に居るのは些かおかしい人物の登場に流哉は警戒心を強める。
「立花か。こんな所まで何の用事かは知らないが、ここまで入ってきて良かったのか?
ここ最下層の区画は、教授とはいえ立ち入りには許可が必要だったと記憶している」
図書館の最奥に置かれている蔵書庫は立ち入り禁止区域に指定されている。
立ち入り禁止区域は大学の各所にある。
主に生徒や職員に見られては困るものを封じ込めるのが目的だ。
立ち入りは学長を除き、全ての者に制限を当てはめられており、それは学生を教える立場の教授達も例外ではない。
本来であれば研究員である流哉に許可が降りる事はないが、流哉は学長に対して神代の名前を持ち出すことで無理やり許可を出させ、ここ数日入り浸っている。
立花楓がここ、蔵書庫に居るのはイレギュラーである。
「ここに来たのは学長から君を連れて来るよう頼まれたからだよ。もちろん学長から立ち入りの許可は得ている。君が後期どうしたいかを前もって聞きたいと仰ってね」
「どうしたいも何もない。
やれと言われたアンタの手伝いをし、前期を通して一コマ担当もし、テストの作成もした。
あとはアンタの手伝いだけをすると伝えてもらえば事足りる」
「まあ、私では判断できませんから、学長が待つ会議室まで来てもらえないかい?
それとも、今ここで屋上のパスワードを教えた借りを返してもらっても僕はかまわないよ」
「―――わかった。
ただし、これで貸し借りなしだ」
わざわざ会うのも面倒だと思ったが、また使いをよこされるのは更に面倒だと感じた。
それに、ここで借りを返せと言われては、会議室へ行くことを了承せざるを得なかった。
嫌々だが、冷房の効いた図書館から真夏の外へと向かう。
流哉の視点、どうでしたか。
今回は新章の導入部分につき、短いです。
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