19.生徒会秘匿ファイルVol.1の顛末『その漆』新山由紀子の仮住まい
今回は燈華の視点です。
楽しんで頂けたら幸いです。
タイトル付け、加筆と修正を行いました(2025/01/30)
海之輪市で一番大きな企業であるジンダイの本社を後にして、冬城燈華と大津秋姫の二人は新山由紀子の新居を見に来ていた……はずだった。
燈華の目の前に広がっている光景は、未だ基礎の建築の最中であり、大幅に工期は遅れていた。
「ゆきちゃん。まだ骨組みすら終わってないよね……」
「そうね。ここまで遅れていたとは想定外だったわ……」
「由紀子さんは燈華ちゃんとここで待っていてください。私が事情を……言い訳を聞いてきますから」
「ゴメンね。秋姫、お願いしてもいい?」
「任せてください、由紀子さん」
秋姫はそう言うと由紀子を燈華に任せ、建築現場の代表たちが居る場所へと向かって行った。
こういう時、燈華は完全に役立たずだ。
もともと、交渉事とかに向かない性格をしていることもあるけれど、それよりも交渉事や話しを聞くといったことは昔から大津家のお得意だ。
大津の家はもともと神代家と交流を持つとなった時に、外から町の代表が呼び込んだ交渉事のスペシャリストの一族だったらしい。
神代の先代が、初めて大津の人間と会った時にその特異性を見抜いて、コチラ側に引き込んだとお爺様から聞いたことがある。
「秋姫は、というよりかは大津家はと言った方が正しいのだろうけど、こういう時とても頼りになるわね」
「どうせ私は役立たずですよー」
「そういう意味で言ったんじゃないよ。
ゴメンって。機嫌直してよ、燈華」
「まあ、拗ねていた訳じゃないんだけどね……こういう時は冬城の家よりも大津の家の方が、顔が効くなって思っただけ。
与えられた役割がそもそも違うから、比べても意味がないんだけどね」
「前から聞いちゃいけないと思っていたから聞かないようにしていたんだけど、冬城や大津、神代ってこの町でとても大きな力を持っているよね?」
「まあ、詳しいことは喋ったりすることは禁じられているから言えないんだけど……この宇深之輪という地名が付いた時から始まる力関係としか教えられないかな」
「そんなに古くからの話しなの?」
「江戸よりも前の話しらしいからね。詳しいことは私も知らない」
月衛山にまつわる昔話は有名だけど、本当のところは少し違う。
現在に伝わり、大衆が知っているものは近代以降に子供向けへと編纂されたもの。
本当の噂話はもっと古く、物語に出てきていた人物も武士と呼ばれていた人たちだった。
最も、そんな昔話の原点を知る人はほぼいないのだけど。
由紀子にはかいつまんで話しをする。
全部を教える訳にはいかないから。
「そんなわけで、少なくとも神代の家は五百年、大津の家も四百年は遡れたはずだよ。
うちはせいぜい三百年くらいだったような気がするけど」
「それでも十分歴史のある家よ、燈華」
「まあ、家の人以外にはその資料は見せられないんだけどね。
そんな訳で、この話しはおしまい。これ以上は私じゃ教えてあげられない。
たぶん、私やヒメのお爺様やお婆様、神代のおじ様も教えてはくれないと思う。
教えても良いという判断を出来るのは亡くなった神代のお婆様だけですもの」
「それは、教えてとは言えないね……神代のお婆様は必要なことは何でも教えてくれる方だったから。
教えないというのは知る必要のない事という意味だから。好奇心で踏み込んでいい事じゃないという事は良く理解しているわ」
由紀子と神代の先代当主の話しをしていると、話し合いを終わらせた秋姫が歩いてきていた。
「どうだった?」
「ああ、燈華ちゃん。現場管理があまりにもずさんで話しにならないよ。
由紀子さん、大津の家の方から新しい業者を紹介します。他の何よりも優先させますので、あと一ヶ月時間を頂けますか?」
「それは構わないのだけど、どうしてそんなことに?」
秋姫の話しによると、現場監督の人が既に三回も変わっているということらしい。
最初の人が図面通りに材料を切り出すと欠陥があることが発覚し、図面の引き直しを請求。
その折に最初の現場監督は会社の意向に逆らったとしてクビを切られたらしい。
二番目の人が着任して、最初の作業で工期が大幅に遅れるという問題が発覚。原因は図面の直しに伴い材料の発注をし直さなければならなくなったらしい。
そのことを連絡すべきとした二番目の人も会社にクビを切られたらしい。
そして三番目の、今の現場監督は社長の息子で、事あるごとに作業を中断しているらしい。
秋姫の話しを聞くにつれて、呆れて何も言えなくなっていく。
ずさんを通り越して、既にこの会社はダメだと見切りをつける段階だ。
由紀子も何を言っていいのか分からないという表情になっていく。
これはあまりにも可哀そうだ。
「秋姫、この会社は放っておいちゃダメだね」
「そうだね、燈華ちゃん。既に私の家の方には連絡を入れてあるよ。
明日には町のゴミがめでたく一つ消える事になるそうよ」
「私は流我おじさまの方に連絡を入れておくね。
ゆきちゃん。そういう訳だから、少し電話してくるね」
秋姫と由紀子から離れてスマートフォンの電話帳アプリを開く。
カ行に登録されている『神代のおじ様』をタップして電話をかける。
数コールで電話に相手が出た。
「流我おじ様、すみません。今お電話よろしいですか?」
神代流我は『少しだけ待ってくれるかい。僕の方からかけなおすから』と言い、通話は切れた。
電話の向こうで声がしていたので、おそらく来客か、会議をしていたのだと思う。
仕事の邪魔をしてしまった。
迷惑をかけてしまったと思っていると、スマートフォンが振動する。
ディスプレイに表示される名前を確認してから画面をタップして、通話に出た。
「もしもし、燈華です。
すみません、仕事の邪魔をしてしまって」
『そんなこと、燈華ちゃんが心配しなくて大丈夫だよ。ダメなら電話にそもそも出たりはしないから。
燈華ちゃんたちはまだまだ頼って良いんだから、そんなことを心配しないで欲しい』
「じゃあ、甘えさせてもらいます。
今回は由紀子さんの家についてのお願いでして……」
秋姫から聞いた通りの事をまずは伝える。
流我は『そうか』と短く言うと、電話の向こうでペンを走らせる音、キーボードを叩く音が聞こえてくる。
由紀子の借家の契約期間が来ること、この前起きた職場の同僚が起こした事件とその報復に会うかもしれないこと、心配だからなんとか力になってあげて欲しいということを伝える。
『なるほど、概ねの事情は分かったよ。
何とかしてあげたいという気持ちも分かるし、何より変な事件に巻き込まれでもしたらそれこそ大変だ。
家が建て終わるまでの期間の住まいや身辺警護の方は僕に任せてもらって大丈夫だよ』
「よろしくお願いします」
『少しだけ由紀子ちゃんに変わってもらえるかな?』
「分かりました」
由紀子を呼び、電話を替わる。
その間に秋姫へ流我が取ってくれる行動を伝える。
「燈華、ありがとう」
由紀子から返されたスマートフォンの通話は切れていた。
「燈華、秋姫。流我おじ様が用意してくれる仮の住居なんだけど、目的地は二人のスマートフォンへ送るって言っていたよ」
「うん、連絡来ているよ。これから行ってみようか」
「そうだね、今から行ってみましょう、由紀子さん」
スマートフォンに入っていたメールに目的地の住所等必要な情報は記載されていた。
簡単な手書きの地図が写真で添付されていたし、西園寺紡が貸し出してくれた運転手に伝えれば間違いなくそこへ送り届けてくれる。
紡から借りている車に再び乗りこみ、運転手に目的地を伝え、地図を見せる。
少し見ただけで『コクリ』と首を動かし、車を発進させた。
この日は運転手に案内されるままに目的地へ行った。
着いた先はジンダイの社員へと貸し出される借家だけが集まっている地域の中の一軒家。
ジンダイの社長の許可がないと決して入ることが出来ない、ある意味あこがれの地とされている。
この地域を見回るためだけに雇われている警備専門の社員が居るほどに部外者が入り込むことができない場所。
これ以上の場所はないと言っても良いような場所だけど、外部の人間を住まわせて本当に大丈夫なのかと心配になる。
由紀子も驚きを隠せない様子だったが、家の鍵を受け取り、滞りなく手続きを済ませる。
明日からでも入居が可能と聞き、新しい住居が出来上がるまでの間は、由紀子の安全は保障されたと言っても良いのかもしれない。
引っ越し業者の手配もすぐに済ませて、晴れて由紀子はあのストーカーから解放されることになった。
この日はそのまま由紀子を借家に送り届けて別れ、そのまま紡の家に帰った。
翌日に学校へ行くと、早々に歴史担当の笹山が謹慎になったことを知らされた。
流我おじ様の手が早いのか、それとも脅され方が余程恐ろしかったのか、そこのところは燈華に分からない。
それでも、神代の家を敵に回してこの町では無事に済まないという事は良く分かった。
近い距離にいるからこそ見えていなかったことに気づけたのかもしれない。
いろいろな問題が一気に片付いた一日だったような気がする。
あとは、燈華自身の問題を優先できる。
魔法使いへの挑戦と、燈華自身の恋の行方を。
燈華の視点、どうでしたか。
今回が年内最後の更新となります。
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