18.生徒会秘匿ファイルVol.1の顛末『その陸』協会の執行者
今回も流哉の視点です。
楽しんで頂けたら幸いです。
残虐な表現もあります。
タイトル付け、加筆と修正を行いました(2025/01/30)
立ち止まったターゲットは急に言葉を荒くし、叫び出す。
耳ざわりな声を聴くのは神代流哉にとって耐えがたいことだが、今回の頼まれごとは見届ける事。
ここで手を出しては、元も子もない。
「何故だ!
何故、この私が処罰されなければならないんだ!」
ターゲットが吼える。
誰に向かって叫んでいるのかは分からないが、正面に何者かが居るのは間違いない。
気配だけでは誰なのかというところまでは分からないが、魔術師の魔力とは異なる、独特の力の波動を感じ取る。
この波動は覚えがある。
この嫌悪を覚える力は協会に所属するモノだけが持つ、たしか魔法連盟では―――聖力と呼称していたような気がする。
「何故、ですか……そんなこと私は知りませんよ。
私のように外から派遣されてきているだけの者が知っている訳がないと、少しでも考えれば分かるでしょうに。
私にそれを問うのは間違いです。
貴方が確かめる相手は、貴方自身の上司でしょう?
丁度連絡が来ましたし、ご自身で確かめてはいかがですか?」
声の感じから、まだ姿を直接確認した訳ではないが、年若い女性のもののようだと判断する。
聞き覚えのない声から察するに、流哉は会ったことはないだろう。
『―――君。君には期待していただけに残念でならない。
何故と問うていたようだが……先に伝えてあったはずだ、『相手にどのような失礼も許さない』と。
君の処分はそこに居る者達に一任してある。
これ以上、私も迷惑をかける訳にはいかないのでね』
「だ、そうですよ」
ターゲットの名前を通話の相手が言っていた。しかし、それを上手く聞き取ることはできなかった。
まあ、興味もないからどうでもいいことだが。
それよりも今は協会に属するモノが警察組織の内部に居ることの方が問題だ。
表には出せるはずもないが、内部に裏に関わる者を呼び寄せている。
何に対する目的で雇い入れたのか、確認しないという選択肢は存在しない。
周り巡って、流哉の首を狙わないという保証はないのだから。
「それでは、貴方に対する罰を執行します」
影から顔だけ出して覗き、ようやく姿を確認できた女性は、驚くことに日本人であった。
日本人の女性が協会に所属し、ましてやコチラ側に居ること自体が驚嘆すべきことだ。
そもそも、日本人で信仰心などというものを抱えている者がどの程度いることか。
まして協会に拾われるほどの、狂信者となれば、天文学的数値になるだろう。
魔術師であるならば日本人も珍しくもないが、神というものに対して全てを捧げるような人がこの日本に居たということが驚きだ。
「待ちなさい、君はまだ見習いの立場だ。
処罰の判断を下すのは我々の意思ではない。ただセラフの意思のままに。
我々は判断を仰ぎ、下された通りに執行すればいい。
そこに個人の意思を挟む必要も余地もない」
聞き覚えのある声に反応し、流哉は影から抜け出て声の主を探る。
ターゲットの正面にいる女性の後ろに、夏だというのにトレンチコートを着た男が立っており、その手には金属の板のようなものを携えていた。
「セラフの意思よ、判決を」
男が声を発した瞬間に金属の板は本のように開き、男の手を離れて宙に浮かぶと変形していく。
開いては閉じ、閉じては開いてを繰り返しながらその形状を変えていく。
金属のパーツが変形する度に、その中央に光を発する球状の何かがあった。
『セラフによる意思決定の終了を宣告。
当機プロヴィデンスは、セラフからの要請を受諾。
パニッシュメントモード。
対象の速やかなる排除を要請します』
人とは違う何かの声が響き、金属の板だったものは銃のような形へと変形を完了させた。
その形状に流哉は見覚えがあった。
見間違うはずもない。
何故ならその銃のような見た目は、自身が持っている古代文明の遺跡から発掘した遺産であり魔導器であるソレと非常に似ていた。
「アイツ等……人の魔導器を模倣しておかしなものを作り出したな」
男がプロヴィデンスと呼称した銃のような形状のそれを手に取り構えると、銃口に当たる部分に光が収束していく。
「ま、待ってくれ。連絡を、もう一度連絡を取らせてくれ。
何かの間違いが起きているんだ」
ターゲットの男が声をあげて抗議をするものの、トレンチコートを着た男が銃を下げることはなかった。
光の収束が完了したと同時に、男は引き金に当たるモノにかけた指を引いた。
「あの世で天使に抗議するんだな」
プロヴィデンスとやらから発射された光はターゲットの男に当たると、男を完全にこの世から消し去った。
まるで消しゴムで文字を消すかのよう、確かにそこにあったモノを跡形もなく消し飛ばした。
「まさか、天使が罪人を排除するために用いる光の矢を地上で撃つとは―――」
「天使が直接放つモノには劣るが、概ねその認識で間違いない」
姿を晒していることなど忘れていたところに声を掛けられ、その方へ視線を向けるとトレンチコートを着た男が帽子を取り素顔を晒していた。
「おまえは……クリストフか?」
「他の誰に見えるんだ、魔法使い」
「協会所属の執行者が何で日本の警察に居るんだ?」
「コチラにもいろいろ事情というものがあるんだ」
声をかけてきたのはクリストフという名の男性。
協会に所属する人間で、『執行者』と呼ばれる処刑執行人の一人。
決して表に出せない裏の問題専門の戦闘要員であり、協会の教えである教義に存在しないあらゆる『異端』をその力で排除する者たち。
魔法連盟と敵対する組織である協会に所属する人間が、何故この極東のそれも日本の、それも警察という組織の中に居るのかという疑問は消えないが、本人の様子から、今のところ敵意はないようだ。
「それよりもお前たちが警視庁の寄越した始末人とやらは……まあ、手間が省けたからオレはどうでもいいけど」
「見届け人はリュウヤ、お前で良いのか?」
「ジンダイ側の見届け人という意味で言っているのなら、答えはイエスだ」
「そうか、それなら任務完了だ」
クリストフが『撤収』と言い指示を出す。
釈然としない様子の者も中にはいるが、指示には従うようだ。
「お前は魔法使いか?」
「そうだが、そう言うお前は何者だ?」
先ほどの、日本人の女性が話しかけてくる。
よくよく見ると、年齢は流哉とそう離れていないように見える。
「私の名は詩音。
この名前に聞き覚えはないか」
「残念ながら、オレの記憶にはない」
素直に名乗ったかと思えば、即座に聞き覚えがないかと問いかけてくる。
流哉は自身の記憶を少しだけ遡るが、シオンという名に心当たりはない。
「そうか―――つまらない事を聞いて悪かった」
「いや、それは構わない。
君の言葉からは強い怒りと確かな怨みを感じる。
きっと魔術に関わる者が、君の人生に大きな影響を与えてしまったのだろう」
「ほんの少しの会話でそこまで分かるものなのか?
まさかと思うが、私の心を読んでいるんじゃないだろうな」
「思考や心を覗いたわけじゃないから安心していい。
多くの敵対者を屠ってきた。
その中には君と同じような瞳を向けてきた者もいた、その経験則から言っただけだ」
瞳から隠しきれない感情を読み取る。
ただそれだけの事だが、詩音は驚いていた。
「さてと、依頼も終わったことだし……もう一度言うぞ、撤収だ」
クリストフが声をかけると女性はそちらへと去って行った。
執行者たちが去るのであれば、流哉もこれ以上ここに留まる理由もない。
立ち去ろうかと考えていた時、殺意を感じて身をひねる。
先ほどまで立っていた場所を光の矢が通過していった。
「何をしている。撤収を命じたはずだ」
「同じ執行人の立場で命令すんじゃねぇよ、クリストフ。
目の前に連盟に所属する魔法使いが居る。ならばこいつを消して手柄をたてるんだよ。
オレはさらに上に行きたいからよ」
ガラの悪そうというか、学のなさそうというか、己の欲を隠そうともしない執行人の一人が、先ほどクリストフがターゲットを抹消したするのに用いた銃もどきと同じ物を構えている。
それに触発されたのか、何人かの執行人も鉄板を変形させながら構え始めた。
「なあ、クリストフ。これは協会から魔法使いへの宣戦布告と捉えていいのか?」
「協会全体の意思ではない。そいつら個人の意思だ」
「なら、オレの流儀で対応させてもらおう。
魔法使いに喧嘩を売るっていう意味、残った連中だけでも学んで帰りな」
ベルトに括り付けてある鍵の束。
そのリングの中、数ある鍵の中から一本の鍵を探り当てる。
金色の輝きを放つ一本の鍵。それは流哉の宝物庫へアクセスするための鍵。
「さてと、お前たちを処分するのに、これ以上相応しいモノはないだろう。
オリジナルを見せてやる、『獣の咆哮』よ、目覚めの雄叫びを上げろ」
流哉が所蔵するあらゆるモノが収められている宝物庫。
所有者が思い願うだけで貯蔵されているモノを時と場所を問わず取り出し、納めることを可能とする。
かざした手の先に魔法陣が出現し、即座にモノが転送されてくる。
宝物庫から取り出したそれは石板。
見た目はボロボロの風化した石板だ。
「そんな石板を出して何をしようというんだ、魔法使い」
執行人たちの銃もどきが一斉に光の矢を発射する。
全ての光の矢を石板で薙ぎ払う。
驚愕に染まる執行人の顔を見るが、特に何も思うことはない。
「さあ、眠りの時間は終わりだ。いい加減目を覚ませ」
流哉の発した言葉を鍵に石板は軋む音を上げながら展開を始める。
まるで獣が雄叫びを上げるかのような、低い唸り声のような音を響かせ石板は変形する。
古びた石板の形は跡形もなく、獣が牙を剥き、咆哮を上げるように口を開く。
右手に纏わりつくように固定された獣の顎。
それがこの石板の封印を解いた真の姿だ。
「さあ、迷わずに逝くといい」
獣が咆える。
銃もどきを構えていた執行人たちの意思を刈り取り、その身体から魂を抜き取った。
「まあ、行き先は獣の腹の中だがね」
抜き取られた魂は、全て獣の顎の中に吸い込まれていく。
まるで食事をするように魂を回収する。
一瞬怯えのような表情が見えたような気もするが、魂に表情などない。
「これにて終幕。無駄な事をさせられるし、無駄に力を使わされるし、見せ物じゃないんだから勘弁してほしい」
「天使の意思に踊らされたか……哀れな事だ」
仲間だったものの亡骸を前にしたクリストフの呟きが聞こえてくる。
「この抜け殻はどうする。始末しておいてやるか?」
横たわる遺体を集め、折り重なるように積み上げたソレを指差し、流哉はクリストフへ声をかける。
声をかけたことに理由はない。別に後始末くらいはしてやっても良いという気まぐれからだ。
「いや、それには及ばない」
クリストフが数行程度の聖句を口にすると、『執行者』だったモノ達を聖なる炎に包まれた。
そのままクリストフは聖書の朗読へ入る。このまま葬る腹積もりだろう。
遺体が燃え尽きるのを見届けると、クリストフは撤収の準備を再開した。プロヴィテンスとやらの回収することは忘れずに。
「さてと、オレは帰らせてもらうが、良いか?」
「構わない。後始末はこちらでしておく。
コチラもこのまま撤収することに変わりない」
執行人の集団が森の中に消えていくのを確認し、流哉は足元の陰に身を沈める。
これで父さんに頼まれたことは完了した。
協会の執行人が、何故日本に居るのかという疑問は残ったが、概ね問題はないと判断しても良いだろう。
煩わしいことは勘弁してくれと思うが、この願いは叶うことはないのだろうと直ぐに自覚する。
立ち塞がるのなら、何であろうと容赦しない。
自身のスタンスを再確認することになった一日だった。
流哉の視点、どうでしたか。
流哉のキャラが少し、冷たく感じたかもしれません。
新しい組織の登場など、より話しが深くなっていくと思います。
今後ともお付き合い頂けたらと思います。
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