2.ある大学での一日 『その弐』 嵌められた魔法使い
久しぶりの更新です。
今回は流哉の視点になります。
楽しんで頂けたら幸いです。
内容に大幅な変更を行いました。(2025/02/01)
私立宇深之輪大学の学長に呼び出され、案内人の立花楓付いて行った先で、神代流哉の中ではある感情が渦巻いていた。
この感情の正体に流哉は覚えがある。
ただ、今はソレを認めたくはない。それを認めるというのは未熟であるという証明に他ならないからだ。
「後期は他の教授たちの手伝いするか、提携先の学校へ行き教師の真似事をするかを選べ、だと?」
二度と来たくはなかったし、来るつもりもなかった、見栄と嫉妬が渦巻く会議室。
馬鹿らしくて付き合いきれないと避けて来た場所。
来て早々に流哉に突きつけられたのは、『大学でこのまま研究を続けたければ、立花教授に加え更に他の教授たちの手伝いをしろ、提携を結ぶ学校に派遣教員として赴き二年間教育者の真似事をするかのどちらかを選べ』と、いう内容だった。
反応を楽しむかのように歪んだ笑みを浮かべる研究者達。
その歪んだ醜い面を見た時に、おおよそのことは悟った。
この馬鹿げた提案をしたのは、時折ちょっかいをかけてきてはその都度説き伏せた教授達で、いわゆる報復というやつであろう、と。
内心に渦巻いている感情の正体は怒り。
コレは愚か者に対する行き場のない怒りだ。
認めよう。愚か者に見下されるのは心底腹立たしく、怒りの感情に任せて消し去ってやろうという悪魔の囁きに耳を貸そうとしている。
突きつけられた内容はとても承諾できるような事ではない。
もう日本に用はないからさっさと別の国へ行きたいと思っていた矢先に教授達による質の悪い提案。
一つは小間使いのような扱いという屈辱に耐え、聴くに耐えない御高説に耐えること。
もう一つは派遣教員とは名ばかりの体のいい厄介払いを兼ねた拘束。
こんなものは提案ですらない、ただの嫌がらせだ。
まさか、無知を指摘したことでこんな子供じみた仕返しが来るとは夢にも思わなかった。
「こんな馬鹿なことをするほどレベルの低い大学、出て行くのも悪くはないと思っていたところでね。
幸いなことに日本での用事は済んだし、ロンドンへ戻ろうと考えていたところだ」
「神代くん、ロンドンの大学へは戻れないよ」
肥満体系で、偉そうに口ひげを生やした男性教授が笑いながら話かけてきた。
見回すと見覚えのある数人の教授も同様に含みであるが笑っていた。
彼らは『報復は成功した』と確信し、笑いがこみ上げてくるのを押さえきれずにいるといった様子。
高圧的な態度、そして堪え切れていない満面の笑み。その全てが感情を逆撫でする。
「戻れない……その理由を説明して貰えますか?」
おそらく言葉遣いとは裏腹に鋭い目つきで睨らみつけているのだろう。
その男性教授は萎縮している。
同様に笑いを抑えていた教授達の顔には笑みが凍りつき、動きが止まった。
「神代君、それは私から説明させてもらうよ。
今朝早くに神代君が以前いたロンドンの大学から連絡が来てね、最低でも日本の大学に二年間は居てくれとのことだった。
だから神代君、退屈で申し訳ないが、ロンドンの大学へは戻れない」
「私の代わりに説明ごくろう立花君。
そういうわけだ、君には我々が提示した条件を飲むしかないのだよ」
立花楓の説明に苛立ちを覚えつつも納得をせざるをえない。
非常識ではあるが、正式な回答が来ている以上、承諾しなければならない。
再び偉そうな態度を取る男性教授に、殺意を込めて睨みつけ黙らせる。
立花の方へ視線を向ける。
「一つだけ聞かせてもらいたい……そう伝えてきた者の名前を教えてくれませんか?
相手が名乗っていれば、ですが」
「確か、ロバートと名乗っていたと思うよ」
ロバート・ガウルン。連盟の代表という椅子に親の七光りで付いた男。
流哉にとっては、非力で自己顕示欲が強いだけの取るに足らない無能な男だったが、考えを改めよう。
あいつは今この瞬間から流哉の敵だ。
その名を聞いた瞬間から押さえつけていた怒りを、まだ抑えていた感情を解き放つ。
「そう、ですか……分かりました。
さっきの話ですが―――認めたくないですが、検討するとしましょう」
凍らせた表情を再度ニヤつかせようとしている愚者を睨みつけ、続きを話すべく口を開く。
「これ以上振り回されるのも、馬鹿げた仕返しに付き合うのも我慢できそうにありません。
そちらが強権を振りかざすというのなら、こちらも抜く気は無かった特権を振りかざしましょう」
流哉の言ったこの言葉の意味、正しく理解できたのは、表情を青ざめる学長と僅かに表情を強張らせた立花の二人だけのようだ。
他のどこの土地でも効力を発揮しない。この宇深之輪の地に限った大きな権力。
「この大学、どこが最も寄付金を支払っているのか、その意味が分からない学長ではないだろう。
この宇深之輪の地で我が生家、神代の名前が持つ影響力をその身で味わう覚悟はあるか?」
学長の心は完全に折れた。俯いたまま微動だにしなくなった。
この地で神代家と敵対しようという愚か者はいない。
神代家にまつわる噂話を真に受けるようなことはないだろうが、神代家が百年を超える時間の中で、この地を支配して来たのは純然たる事実。
「そうだな、手始めに寄付を全て打ち切ってみるのはどうだろうか?
巨額の寄付金が消える。その責任は誰が取らされるんだろうな」
蒼白な表情から血の気が無くなった学長の姿。
これはそのうち倒れるからもしれないが、そんなことは流哉の知ったことではない。
「これ以上は勘弁して貰えないだろうか」
流哉と学長の間に入って来たのは立花。
その表情はいつもの飄々《ひょうひょう》としたものではなく、少し困った様子のもの。
だが、この程度で手を抜いてやる必要も道理もない。
先に脅してしたのはそちら側だ。
「何を、勘弁してやれって言うんだ?
先に脅迫して来たのはそちらだろうに。
さて、現実的な話しをするとしよう。今期、この大学へジンダイから振り込まれた寄付金の内、前回と比べて増えている分を支払ったのはオレだ」
流哉の話しを聞き、驚愕の色に染まる教授連中の表情。
ただ、絶望するのはここからだ。
「正直なところ、お前達の言いなりになるくらいなら、大学を去るという選択をするだろう。
そうなれば、次の寄付金はその分減るのは当然のことだ。
オレは大学を去ることになったとしても、食うに困ることはないからな」
世話になる大学への気持ちとして、流哉は自身の資産の中から寄付金として送って欲しいと父である流我へ頼んだ。
世話になる期間中は寄付金を支払う気でいたので、それがなくなる分だけ流哉の支出は減る。
その額、ごく一般的な生活で贅沢をしなければ夫婦二人が老後を過ごすには十分だと言われる金額になる。
「さて、それを踏まえた上でもう一度聞こう。
オレに、何をしろって?」
聞かなくても分かりきっていることだろう。
強気で要求できたはずのことは、既に立場が逆転した。
「私が、出過ぎたことを言いました。今回のことは一度白紙にして、考え直すというのはどうでしょうか?」
教授たちの中から一人が挙手して立ち上がると口早に発言すると、そのまま座り俯いている。
おそらく教授という職についてまだ日の浅い若い層なのだろう。
自身よりも上の人に恥をかかさないよう、泥を被ろうという気概だけは認めてやってもいい。
「そういうことならこの話しはここまでということでオレも納得してやる。
だが、最後に、忠告だ。
何が気に食わなくて陥れようとしたのか分からないが、行動へ移すのなら相応の報復を受けると覚悟しろ。
オレは飛んでくる火の粉は払い落とした上で、飛ばして来た者は再起不能になるまで焼き尽くすことを信条にしている」
丁寧な言葉遣いは最後には消え、怒りを顕にし、会議室にいた教授達全員へと向ける。
誰一人、何人たりとも発言すら許さない。
静かに、だが確実に恐怖を残し、消えることのない感情を植え付けて会議室を去る。
流哉の視点、どうでしたか。
嫌味な教授というモノを登用させてみました。
最初の頃に出てきた人を少しだけというよりかは、名前だけ登場です。
今後の動きを楽しみにして頂けたら幸いです。
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