17.生徒会秘匿ファイルVol.1の顛末『その伍』影を操る魔術
今回は本当に流哉の視点です。
楽しんで頂けたら幸いです。
タイトル付け、加筆と修正を行いました(2025/01/27)
宇深之輪の町にある企業、ジンダイの本社を影の中を伝って後にする。
先ほど出て行ったばかりの冬城燈華たちと鉢合わせすることはなく、ジンダイという閉鎖された場所から去ることが出来たのは運が良かったのだろうと、神代流哉は思う。
ベルトに吊り下げている鎖の一つを引き寄せ、その先に付いている懐中時計の蓋を開く。
「さて、魔術師でもない一般人の足跡を追うのは少しだけ面倒だな。
オレの『羅針盤』でも拾えるかどうか。
コレでダメなら使い魔を放って虱潰しになるが……それは避けたいところだ」
流哉は自身の魔力を懐中時計型の魔導器に込め、その真価を発揮させる。
パッと見は懐中時計、その魔導器の名は『羅針盤』。
魔術師ならほぼ誰でも持っている極めて有り触れた魔導器。
ほんの少しだけ特別性の『羅針盤』を使い、探し人の痕跡を探る。
「そもそも何でオレがこんな犬のような真似をしなくちゃいけないんだ?
人を探したり追いかけるのは、探偵や追跡者の仕事だろうに。
……おっと、なんとか足取りを拾えたか」
時計の文字盤のようなものの上を埋め尽くすように動いていた幾つもの針が、一本、また一本と消えていく。
文字盤の上を忙しなく動いていた針の一本一本が、流哉が探そうとしているものの痕跡。
可能性という道標を辿り、消していく。
ただそれだけの単純な作業だ。
最後まで残った一本の針が行き先を示している。
「さてと、親父殿から頼まれたのは、無礼者が始末されたかを見届ける事。
直接手を下せとまで言ってはいなかったが、取り逃がすようなことがあれば、始末を確実なものにして欲しいとも言っていた。
祖母の愛したこの町で好き放題させる気はない。
この手で始末をつけたいところを譲るんだ……これ以上無様を晒してくれるなよ」
流哉は『羅針盤』が示す通りに追跡を開始する。
無論、自身の姿を人の目に晒すことなく、影から影へと移りながら後を追う。
十分程痕跡を追ったところで、問題の人物を視界に捉えた。
「なんかブツクサ言っているようだけど、一般人の前で他人を蔑むようなことを言っているようでは、やはり器じゃなかったというのが結論なんだろうな。
まあ、アイツがどうなろうとどうでもいいけど、こんな奴相手に魔術を使わなきゃいけないかと思うと、そっちの方がオレは憂鬱だよ」
一つため息を吐きだす。
宇深之輪駅の中に入って行くのを見届けると、誰もいないことを確認して物陰から出る。
視線を避ける加護が込められたお守りを身に着けているが、視線をなるべく集めないように行動する。
「このまま電車で町を出て行ってくれると、非常に助かるんだが……」
電車待ちをしているターゲットに気づかれないよう間を開けて位置取りする。
電車を待っている間も終始イライラしている様子の男性。
おそらく気づかれる心配も、そんなヘマをやらかすこともないと思うが、念には念を入れて、付かず離れずの距離を保つ。
ほどなくして電車がやってくる。
首都へ直行する快速電車や特急である新幹線に乗ることなく、鈍行と呼ばれる各駅停車の車両に乗り込んでいることに違和感を覚え、あえてその車両には乗らなかった。
その電車が発車した後、対面のホームにターゲットの姿を確認する。
「あながち、ただのマヌケではないようだ」
追手が居ることを考えて撒くような行動をとる。
ずる賢く、悪知恵は回るらしい。
より慎重にターゲットを視界に捉えた状態を維持する。
ここで逃してしまっては、また痕跡を辿るなんて面倒なことのやり直しだ。
「首都への直行便である新幹線でも、少ない停車で済む快速ではなく、一度途中で乗り換える算段のようだな」
ターゲットはここ『宇深之輪駅』で新幹線に乗るのでもなく、快速電車に乗るのではなく、その後の各駅停車で途中まで行き、どこかで新幹線か快速電車へ乗り換える算段であることを予測する。
快速電車に乗れば乗り換えることなく首都圏へ出られる。
新幹線に乗った場合、首都へ一度で出るには後一時間以上も待たなければならない。
途中まで各駅停車で行き、その後快速車両に乗り換えるというのが現実的な観測だろう。
流哉が始末をするとすれば、その乗り換えを狙う。
おそらく、ターゲットを始末する為に派遣される者も、同じようなことを考えているだろう。
「ヤルならヤルで、早く済ませて欲しいものだ」
各駅停車から乗り換えた快速電車に揺られ、隣接する県に入った。
このまま後三十分も揺られていけば、首都圏へ入る前に停まる最後の駅へ着く。
何事もなく、済んでくれることをただただ願う。
「おいおい、ここで動くのかよ」
ターゲットが席を立ち、扉の前に立っている。
駅で停車した電車の扉が開き、ターゲットは降りていく。
流哉も席を立って近づくことを考えるが、それは早計だと考え直す。
また撒く為の動きの可能性もあるし、そうでなければまた影に入って追えばいい。
常識の外にいる我々だからこその判断だろう。
「どうやら本当に降りたか」
移動する車内で『羅針盤』を確認すると、ターゲットにつけたのマークが先ほどの駅を差している。
流哉は車両を移るふりをしながら、車両の連結部分で影へと潜り、先程の駅へと移動する。
目的の駅へと移動し、影から覗いて周囲を確認すると、ホームのベンチに腰掛けてスマートフォンをいじっていたターゲットの表情が変わる。
慌てた様子で駅を後にし、郊外の森へと向かって走り出す。
「はてさて、どんなメッセージが送られてきたのやら。
あの慌てよう、さぞ恐ろしいことが書かれていたに違いない」
影の中へ再び潜り追跡を開始する。影の中を移動しているので、人目を気にする必要もなければターゲットに気づかれないかを気にする必要もない。
影の中を移動するこの魔術は非常に便利だ。
問題点と呼べるものは魔術師が扱うには難易度が高いことくらいだろう。
「急に立ち止まってどうしたんだ?」
立ち止まったターゲットに不信感を覚えつつも、見届けるためには近づかなければならない。
木の上に移動し、影の中に潜みつつも、様子を見守ることにした。
流哉の視点、どうでしたか。
久しぶりに流哉の視点を書けて、筆者は満足してます。
お読み頂き、ありがとうございます。
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