11.厄介な人『その参』 冬城燈華の秘策
燈華の視点の続きです。
楽しんで頂ければ幸いです。
加筆と修正を行いました(2025/1/5)
帰宅するための準備が終わるのを待っていてくれた新山由紀子と共に冬城燈華と大津秋姫は生徒会室を出る。
しっかりと鍵をかけたことを確認すると、その鍵を由紀子へ渡す。
「さあ、職員室へ寄って帰りましょう。私の予想が当たっていれば、まだ居るはずよ」
「居るって。誰が居るのよ、燈華」
「まあ、外れてくれた方が良い予想だから。とりあえず行こう」
質問をしてくる由紀子を引きつれ、職員室へと戻る。
職員室のドアを開けると、そこには待ち構えていたかのように歴史の授業を担当する教師の笹山は居た。
由紀子の姿が見えるといやらしい笑みを浮かべるが、一緒にいる燈華と秋姫の姿に幽霊を見るかの様な視線を向けてくる。
「また会いましたね、笹山先生」
「冬城、それに大津まで。何故ここにいるんだ」
「何故とは? 私たちは今の今まで生徒会の業務をしていただけですが」
「燈華さんも私も生徒会の業務だということは、笹山先生、あなたもご存知のはずですが?」
「何故、新山先生と共にいるのかを聞いているんだ!」
「お忘れですか? 新山先生は私と秋姫の担任ですよ。
少し用事がありましたので、生徒会室まで御足労願ったんですよ」
「お前たちは先に帰ったんじゃないのか」
「ええ、私と秋姫以外の他の役員は先に帰りましたね。
秋姫、新山先生の仕度手伝ってあげて。私は車の手配をしておくから」
「了解。さあ、新山先生」
燈華が笹山に睨みを効かせている間に秋姫が由紀子の引継ぎ業務を手伝う。
笹山の恨みがましい視線を軽くあしらい、携帯電話である人の番号へ連絡を入れる。
普通であれば携帯電話を理由に怒鳴ってくるところだけど、今は既に放課後だ。
携帯電話の使用に関して何の制約もない。
手短に二言三言話して電話を切ると、丁度秋姫が由紀子の引継ぎ業務を終えたところだった。
秋姫と共に由紀子を足早に職員室から連れ立つ。
視界の片隅に悔しそうな笹山の姿を捉えたが、想定内のこと。
「よく、笹山先生が待っているなんて分かったわね」
感心したように由紀子が後方から話しかけてきた。
振り向き、由紀子が追いつくのを待つ。
実は足早に出たのは職員室から玄関までの間で、今は上履きと下履きを交換し、職員用兼来訪者用の玄関へ移動している。
「笹山がまだ帰っていないことをヒメが教えてくれたからね。
あいつ、車で家まで送るとか言ってゆきちゃんを誘うって魂胆が見え見えだったし」
「そういえば今日は悠斗さんが迎えに来られない日だったわ」
「あいつはそういうところまで見ているから油断出来ないんだよね。
次のターゲットはゆきちゃんだと思ってたところだし……」
「その考えは間違っていないと思うよ、燈華ちゃん。
笹山先生の行動が怪しいと私も思う。
さっき聞いた今回の更衣室での一件も、今までの行動に比べてずいぶん軽率だと思う」
「ヒメもそう思う?
どうにもキナ臭いんだよね。
ま、あいつは明日には謹慎処分になると思うし、私にとってはどうでも良いことだけど……」
燈華の一言に由紀子は立ち止まる。
驚きと信じられないという感情が混ざったような由紀子の表情を見て、口を開くのを待った。
「燈華、秋姫。謹慎ってどういうこと?」
ずいぶんと率直に疑問をぶつけられたと思った。
でも、仕方ないと思う。
いきなり頭を抱えて悩む原因だった人物が、明日から突然謹慎になると聞かされて、信じられないという反応が普通のことだから。
「ああ、そんなこと?」
何を語って欲しいか分かっているけど、あえて惚ける。
簡単に種明しをしては面白くない。
「そんなことって……燈華、分かっているの?
笹山先生自体はしがない一教師だけど、笹山先生の家は、笹山先生のお父さんは教育委員会の委員長なのよ。
前回起こした不祥事だってもみ消されたわ」
由紀子が表情を悟られぬようになのか俯いた。
権力の前には一教師の正義感などはなんの役にもたたない。
忘れようとしていた悔しさでも込み上げて来ているってところかな。
そんな由紀子を気遣うように燈華は前を向く。
「大丈夫だよ、ゆきちゃん。心配ないよ」
「心配ないってどういうこと?」
由紀子は衣服がこすれる音と共に聞き返してくる。
きっと、まだ瞳には涙が浮んできていて、それを拭っているのかな。
由紀子を安心させられるように微笑みを顔に張り付けて振り返る。
「ゆきちゃん、私とヒメの共通点って思い出せる?」
「共通点って言われても……二人は祖父母の世代からの付き合いってことくらいかな」
「うーん、ハズレ。それも合ってはいるんだけど、じゃあもう一つヒント。
私のお爺様とヒメのお爺様の仲が良いのはゆきちゃんも知っていると思うけど、二人に共通した友人がいたんだけど、誰か分かる?」
「もちろんよ、二人の共通の友人といったら神代のお婆様ね」
「大正解。そこまで分かっているならもう答えは出ていると思うのだけど」
由紀子が見返してくる。
一瞬希望に満ちた表情を浮かべるが、直にその表情は曇る。
「燈華、神代のお婆様ってたしか亡くなっていたわよね?」
大方予想通りの質問をされた。
神代家の先代当主、流哉のお婆様まで思い出せたならもう安心しても良いと思うけど、多分動揺して上手く答えに辿り着けていないってところね。
仕方ない、答え合わせに付き合ってあげよう。
「もう十年も前にね。それがどうかした?」
「確かに神代のお婆様なら教育委員会どころか、この街のどの組織にだって口を出すことくらい簡単な事だと思うけど、もう亡くなっている人をどうやって頼るの?」
「神代のお婆様は亡くなっているけど、神代家に連絡を取ることくらい簡単なことよ」
「簡単って。確かに神代のおじ様から一言あったら教育委員会は動かざるを得ないでしょうけど、まさか、おじ様が動いてくれるの?」
「少し前に神代家と連絡を取ることがあったんだけど、その時におじ様が自分の携帯電話の番号教えてくれたの。
それでさっき職員室に向かう前に、おじ様にゆきちゃんの結婚と妊娠の話しを手土産に連絡したら協力してくれるって」
「そんな、もう何年もお会いしていないのに―――」
「後で結婚式の招待状送ってあげなよ?
連絡が来てないって少し落ち込んでいたから」
「迷惑になると思って送らなかったけど、家に帰ったら直に送るわ。
でも、それと協力は話しが違うんじゃないの?」
「おじ様は手土産なんてなくても協力してくれたと思うよ」
「でも、」
由紀子の話しを遮るように燈華のスマートフォンが鳴る。
画面を確認すると、タイミングの良さに内心驚くが、そこは上手くごまかす。
二言、三言話すとスピーカーモードにし、由紀子へ画面を向ける。
たぶん、サプライズとしては十分に驚いてくれるに違いない。
燈華の視点どうでしたか。
この生徒会長、恐ろしいと思うのは作者である自分だけでしょうか。
久しぶりに神代の人物を出せました……
今日はもう一話アップします。
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