7日目
旅に出てから3日がたった。このままじゃ日付感覚が可笑しくなりそうだし、そもそも会話相手があの宗教ガチガチ男だけなんて気が狂いそうだから、今日から日記を書くことにしたわ。
とりあえず、ここまでの経緯を書かないとね。3日前の太陽の神の月4日目……つまり、太陽の神アギルの誕生と、新年を祝う三日三晩のお祭り騒ぎが終わった次の日のことね。その日、突然世界が止まったの。人間も、動物も、まるで石のように動かなくなってしまった。
時計塔でソクンと会っていたあたしは、動かなくなってしまったあの子に、呼吸さえしなくなったあの子に動揺したわ。どうすればいいか分からなくて、何度もあの子の名前を呼んで、瞬きさえしない青い瞳にとても泣きたくなった。
しばらくその場にいたあたしは、一度外に出ることにしたの。そして驚いた。学校にいた生徒や先生も、街の人も、空を飛んでいる鳥だって、何もかもがあの子と同じように止まっていたのだから。
どうしようもなく、途方に暮れたわ。自分以外の全てが止まっているだなんて、本当にワケが分からなかったし、脳の処理が追いつかないんだもの。何度も夢だと思ったけれど、掌の感触と、汗が頬を伝う感覚は、とても現実めいていたし。
そんな時よ。あいつ、あの男が――シーゼが、あたしの前に現れたのは。
自分以外の動ける人間に出会えて、あの時はすごく安心したわ。けどあの男、なんの説明もなしに何処かへ連れて行こうとするんだもの。「貴様は神に選ばれた。一緒に来い」なんて言って。そんなの納得できるワケないじゃない?拒絶したわよ、「説明してちょうだい!」って。そしたらアイツ、何でもない顔で「時の神ヒスンが亡くなられた。今、世界の時は止まっている」って言ってのけたわ。
そもそも神様なんていやしないのに、生きるも死ぬもないじゃないと思ったけれど、時間が止まっているということは、否定のしようがない事実だった。だから、シーゼの言葉を受け入れるしかなかったわ。
あたしとシーゼが時間の停止から逃れられたのは、ペンダントのおかげらしいの。このペンダントは、時が止まるという事態を予知した聖人ミチによって造られたと、シーゼは言ったわ。聖典トーヴォでも、ミチは未来を見る者として書かれていたけれど、まさかそんな予言があったなんて。なんでも、彼の予言書は教会で厳重に保管されてきたらしいけど。
それにしても、まさかソクンがプレゼントしてくれたペンダントに、そんな力があったなんて。いえ、この場合魔法かしら……どんな術式が組み込まれているのかしら。解剖するのは少し怖いし、あの子がくれたものに傷なんて付けたくないから、まだ手をつけていないけれど。
というかアイツ、シーゼよシーゼ。このペンダントはあの子がくれたものなのに、あの男は「神に選ばれた」「このペンダントは神からの贈り物だ」「名誉に思え」なんて繰り返し繰り返し言うのよ。鬱陶しいったらなかったわ。しつこいから、「このペンダントは大事な子からもらったものよ、神に選ばれたワケじゃないわ」って言い返したけど。そしたらアイツ、「神を愚弄する気か貴様!」って怒るし。そもそも神様なんていないのよ、バーカ。まぁ、これを言ったら更に文句を言われそうだったから、流石に止めたけど。
この男とは絶対相性悪いわ、って心の中で毒づいていたら、アイツ何て言ったと思う?「これから私と、聖地巡礼に赴いてもらう」ですって。思わず「はぁ?」って聞き返したら、「世界の時を元に戻すために、時の神ヒスンを生き返らせねばならない。そのために、聖地巡礼が必要なのだ」ってシーゼは言ったわ。ワケ分からないじゃない、急にこんなこと言われても!聖地巡礼って、この国全部を歩くってことよ?無理!絶対に無理だわ!
すごく拒否したけれど、「黙れ、聖者の予言だ。異論は認めない」って無理矢理引っ張られたわ。宗教ガチガチ男め!と思ったけれど、流石に体格差があって振り払えなかった……バカ力……。
その後、太陽の神アギルが世界を切り開いた場所とされる、街の教会に連行されたわ。そこでシーゼは、何かの本を見ながら、ある術式を地面に書いていったの。どうやら、これが時間を再び動かすための鍵みたい。これから10の神にまつわる10の土地に行って、この術式を刻むのが、あたし達の旅の――聖地巡礼の目的。シーゼはそう説明したわ。
少し、考えたの。この国全部をまわるのも、この宗教ガチガチ男とずっと一緒に旅をするっていうのも、心の底から嫌だけれど、このままもう二度と、あの子に会えないなんて、そっちの方がもっと嫌だって。
だからあたしは、この聖地巡礼に行くことを決めた。まぁ、拒否したところで、シーゼに無理矢理連れて行かれたでしょうけど。
でもあたし、やるわ。だから、待っていて、ソクン。




