8日目
首都であるラーグから旅に出て4日目。今までエホキ湖から流れる大きな川――ラゾ川に沿って歩いてきたけど、今日はその『ラゾ川の先にある村』と言われるシナグの村に着いたわ。ルセの国で一番大きい湖であるエホキ湖、そこから伸びるラゾ川は、このシナグ村で何本もの川に分岐する。馬車では何度か通ったことのある村だけれど、歩いて来るのは初めてだったわ。
今まで他の村を通るのはお昼の時間ばかりで、夜は当然のように野宿してきたけれど、今日は村に着いたタイミングで丁度よく日が暮れたの。だから、今日こそはふかふかのベッドで眠れる……と思ったのに、あの男ときたら……!!「金も払わずに一晩宿で過ごすことは盗みに値する。教えに反するだろう」ですって!緊急時に何言ってるのよほんと!頭固すぎるわ!文句言おうと思ったら問答無用とばかりに引っ張られたけど。あたし一応ご令嬢なんですけど?家での扱いは置いといて。神官様の方が偉いのは理解してるけど、それでも気をつかうものじゃないかしら普通は?
まぁそういうワケで、今日もあたしは星空を見上げている。今は夏だからいいけど、冬はどうするつもりかしら……。雪の中で野宿とか絶対にイヤよあたし。イヤというか普通に死ぬわ。多分。お金、一応持っているんだけど、いざって時のためにとっておいた方がよさそう。
それにしても不思議よね。時間が止まっているくせに、朝も夜もくるの。旅に出たあの日、正確には覚えていないけれど、時間が止まったのは昼過ぎのプロ・パラの過くらいだったはず。けど、その日も当たり前のように夜がきて、また太陽が昇った。そして今も、あたしの周りには闇が広がって、空にはあの子のような月が輝いている。
シーゼに話してみたら、「そんなの、太陽の神アギルも、月の神バリンも、そこにいらっしゃるということだろう」って、常識だろうみたいな顔して答えたわ。その時は面倒で流したけれど、日記だから言うわ。絶対に違うわよ。
不思議なことは他にもある。例えば川。ラゾ川の水は、川上から川下へ、間違いなく流れていた。それに風も、いつもと変わらずに吹いている。けれど、川を泳いでいるはずの魚は水の中で止まっていたし、シナグ村の人も、今まで訪れた他の村の人達も、指先ひとつ動かすことなく止まっていた。全部、この目で見た。触れることのできる現実よ。風が吹いても動かない、開きっぱなしの木のドアは、気味が悪いくらいだった。
この国の人は、太陽が昇るのは太陽神アギルが空に昇るから、月が輝くのは月の神バリンが空に輝くからと信じている。けれど、それが間違いであるということを、あたしは知っている。太陽が昇って沈むのは、地球の周りを太陽が公転しているから……いえ、最近では逆という説もあるんだっけ。この国では情報が手に入りにくいから判断しかねるわ。叔父さんもそう言っていたし。でも、とりあえず、そこに神様がいないのは確かなの。
他にも、この世には法則がたくさんある。神様がいるからとこの国では信じられていることが、実際には法則にのっとったものなのよ。魔法だってそう。
だからきっと、この『時間が止まっている』現象にも、何か法則があるはず。
少しずつでいいから、それが何なのか、つきとめたいわ。
※プロ・パラの過=午後三時
ルセ国では○○時を、○○の過と表す。
これは、時間とは太陽と月の移り変わりによって生まれるものであり、過ぎるものであるからと考えられているから。




