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You dirty rat!  作者: 桜 紫緒
3/4

ママは此処の。

 私の仕事はSMクラブの受付である。主な仕事内容は電話や受け付けでの接客、出勤管理やメンタルケア、掃除や女の子が使う道具のメンテなどのこまごまとした雑用だ。私は一応副店長という役職を持っている・・・と言うとエラそうに聞こえるけど、私もただのアルバイトで、やることはヒラとほぼ変わらない。指示はいつもいる店長や、たまに来る社長がするので私はあまりしないし、私が一番年下なので、仕事以外ではみんなから弄り倒されている。ヒラとの違いをしいて挙げるなら、シフトを組んだり女の子の面接したりすることだろうか。

 今日は面接が一件あった。その彼女、女王様希望で年齢は25歳。背は150センチくらいでややぽっちゃり。顔立ちは至って普通。口調は必要以上に丁寧で、見るからにM女っぽい感じである。

「こういったお仕事の経験はありますか?」と聞くと、ヘルス経験のみで、SM経験はないとのこと。SM未経験で、女王様希望の女性は非常に多い。だけど、その半数が女王様の難しさや汚さ(ほら、ウンコプレイとか流血プレイとかさ)に負けて辞めていってしまう。

「女王様になりたくて、髪型も女王様みたいにしてきました。」

と、まっすぐ私を見て言う彼女。片桐はいりを彷彿とさせる、漆黒のマッシュルームになってしまったかのような頭を触っている。残念なことに真んまるい顔をした彼女には似合っていなかった。

『この人なんかズレているなあ』と私は内心ニヤニヤとした。個人的にこういうズレた人はすっごく好きで、是非ともお近づきになりたいタイプなのである。

ルックスや生真面目そうな雰囲気、そしてそのズレっぷりも含めて、M嬢としての見込みならば十分にあるけど、女王様としてはかなり厳しいんじゃないかなあ。切実な話、私としてはうちの店に入って欲しいんだけど・・・。

 こういう場合、「うちの店では未経験の方には最初にM嬢さんとして経験を積んでもらって云々」とか言ってM嬢としてずるずると働かせ、女の子がおかしいと気づいた時に辞めさせる方向に持っていくような店もあるという。だけど、うちの店ではそういうことをしていない。「俺たちの給料を稼いできてくれる女の子に対して、誠実な対応をできない店はダメだ。」と、社長が店に来るたびに念仏のように唱えて聞かせるこの言葉を、店長以下の私たちはそれを忠実に守り続けているのだ。

だから女の子が嫌いなプレイはもとより、向かないプレイには無理して行かせない。その基準は女の子自身の独断だったり、私たちフロントが面接の時点で判断したり、入ってからはアンケートや数字(指名本数)を見て女の子と相談したりする。

私は、

「私が見る限り、あなたはどちらかというとM嬢さん向きな気がします。うちの店では、M嬢さんとしてなら十分に稼げると思うのですが、女王様のみだとバック(女の子の取り分)も安いし、思うように稼げないと思います。なので、最初はS&M嬢として在籍して頂いて、M男さんからの指名が増えてきたら女王様になって頂きたいと思うのですが・・・。それでもよければ、是非ともうちのお店で一緒に頑張って頂きたいです。」

と思ったままにきっぱりと言う。

「そうですか・・・。ではまた考え直してきます。」

と、彼女は肩を落として言う。きっと彼女は純粋なS嬢になりたかったのだろう。少し残念だったけど、帰る背中を見送った。


 私は、面接を格好の人間観察タイムだと思っている。だって、こういう業界だから、普通にOLをやってたんじゃ見れないような種類の人間を見れるし、普段の会話に於いて相手の腹の中を覗くような仕草をすると、「なんだコイツは!」ってなるけど、面接っていうのはその人間を見て、店に必要な人材か不必要な人材かを判断するのが目的だからね。面接の時点で『この人は売れる!』と思った人が、期待に漏れず数カ月でナンバー入りしてくれたりすると嬉しいものだ。逆に、『この人はちょっと厳しいな・・・でも今女の子が足りないから入ってもらおう』と思って入れた人が頑張って、少しずつ指名を増やしていたりするとこれまた嬉しい。結局のところ、女の子が稼いでくれれば私は満足なのだ。それが私たちのお給料に繋がるのだから。


 電話が鳴らず、かなり暇だった。未樹ちゃんという19歳のS嬢が暇さに耐えきれずに待機部屋から受付の方に来て、雑談をしていた。

 彼女は半年くらい前、ヘルスからSMに鞍替えしてうちの店にきたのだけど、うちの店に来る前に面接に行った、とあるヘルスの話を聞いた。その店はヘルス経験者でも必ず店長との講習があるらしく、講習代もお客1本当たりのバックと同じくらい出るらしい。

 その講習で店長にヤラれそうになって、彼女が本番を拒むと、講習が終わった後に不合格を言い渡され、領収書に名前を書かされて講習代を貰って帰ってきたんだそうだ。

「それはひどい店ですね・・・。きっとそういう店はお客との本番を黙認しちゃってるんでしょう。そういう店はいつガサが入るかわからないから、入らなくって正解でしたよ。」

と穏やかに言う私の内心は

『おいおい、ふざけた話だなあ。多分その店長は落すつもりの女性だったとしても、「入店にあたって講習します」とか何とか言っちゃってちゃっかりヌいてるんだろうけどさ。で、領収書を書いたってことは講習代は会社の経費で落ちてるってことだから、店長はタダでヌいたって訳か。あぁ、なんて汚ったねえやり方なんだろう!ヌキのプロに対する冒涜だね、こりゃ。てめえのポケットマネーで講習代を払うなら文句ないけど会社の経費かよ!風俗嬢がいないとおまんま食えない分際のくせに舐めてるなあ!こういうバカチ◎ポは世の中のためにもとっとと去勢しちまった方がいいね。』と、表には出せないくらいにダーティーな怒りで満ちていた。

 うちの店だけじゃなく、最近は女の従業員がいる店もめずらしくない。こういう話を「うんうん、そうだよね!」って聞いてあげられるのは女でないと。店が積極的に女の従業員を欲しがる訳をなんとなく解った。

 私は彼女に、

「未樹ちゃんはどうして女王様になろうと思ったんですか?」

と聞くと、

「女王様に憧れて・・・。」

と彼女は照れ臭そうに言う。

「道具の使い方とか言葉責めとか、最初はすっごく難しかったけど、今は慣れてきたよ。逆に次はあーしてやろうとかこうしてやろうとか考えるのが楽しくなってきちゃった。お客もM男だから、未樹をモノとしてじゃなくて、大切な女性として扱ってくれるっていうか。ヘルスと違って無茶苦茶なことしないし、常連さんに“専属の奴隷にしてください”とか言われることはあるけど、未樹を見下してタダマン狙いの店外を要求してるのとはまた違うじゃん?なんか女としてのプライドを保たれてる気がするから精神的にも楽なんだよね。」

晴々とした笑顔を見せる彼女は、入った当時と比べるとずいぶん綺麗になったと思う。彼女には女王様という職業が合っていたらしい。

「ねえ、前から思ってたんだけど、彩乃さんっていくつなの?」

と未樹ちゃんは不思議そうに言う。

「いくつに見えますか?」

と逆に質問で返すと、

「んー・・・肌は未樹とかと同じくらいに見えるけど、さすがにそれはないよねぇ。全然わっかんないよぉ〜!」

と真面目な顔で言う彼女はとても可愛らしい。

「未樹ちゃんの干支は何ですか?」

と聞くと、

「辰だけど・・・」

と彼女。

「私も一緒です。」

と冗談めかして言う。

「あーあ。ちょっと肌を褒めたからって調子に乗っちゃってー」

と彼女は半分呆れたように言う。

 冗談なしに、私も未樹ちゃんと同じ辰年生まれの19歳なのだ。店の女の子に私の歳を言うと色々な問題が出てくるから言わないけど。

 私が笑っていると、店の電話が鳴った。電話を取り、こちらがもしもしと言う前に相手が、

「会員番号●●●番の佐々木です。今、ホテル××の〜号室に居ります。今から未樹女王様にご調教をお願いしたいのですが・・・」

と喋る声とともに鼻息だか吐息だかわからない音がザーザーと混じる。この男、いつもそうなのだ。電話を取った瞬間に喋りだす。『お前は毎回毎回興奮しすぎ!落ち着かないと未樹女王様に会わせてやらねえぞ!』と心の中でつぶやきながら、未樹ちゃんは今空いていて、すぐに向かわせることを伝え、受話器を置いた。

 「未樹ちゃん、ご指名ですよ。●●●番の佐々木様で、ホテル××の〜号室にいるっていうから準備して下さいね。」

と私が言う。

「マジで?!ラッキー!あいつ、未樹の足の臭い嗅ぎながら自分でオナニーしてるだけだから楽なんだよねー。いっつも未樹が好きなとこのアップルパイとかいろいろ買ってきてくれるし。今度彩乃さんの分も持ってくるように言うからね!」

と未樹ちゃんは、自分のプレイバッグを持ってご機嫌で出て行った。

 ルンルンな未樹ちゃんの背中を見送り、本棚から会員名簿を取り出し、先ほどの佐々木さんのページを見る。未樹ちゃんに着いてから、週1ペースで未樹ちゃんを指名しているらしい。

 統計的にM男というのは気に入った女王様ができると飽きることなく指名し続ける。可愛いもんだ。ヘルスの延長だと思って利用しているような勘違いS男なんかはやっぱり指名替えをしょっちゅうするけどね。指名替えが女の子に知れると、女の子によっては傷ついてモチベーションが下がってしまったり、女の子同士の争いが始まって待機の雰囲気が最悪になったりもする。

 店側としては(ってもうちの店の場合だけど)、指名替えをする際には女の子にバレないようにして欲しいんだけど、中にはいるんだよね、そういう事情も組めない無神経なヤツが。

いつも指名している子と違う子に入って、次にまたいつもの子に入った時、

「こないだ○○ちゃんって子に入ったんだけど、○○ちゃんはあんなに可愛いのにこんなことしてくれたよ」

とかいうことを平気でのたまったり。女ってのは男が考えている以上に複雑なイキモノで、そんな些細な一言で、いつもの子と○○ちゃんとの間に戦争が勃発したりする。そもそも、自分が付いた女の子にその店に在籍している他の女の子の話をするというのはマナー違反だと私は思う。女の子にとっても、店にとってもマイナスにしかならないしね。これを読んでいて思い当たる節がある男性諸君、以後気をつけるように。

 指名替えが滅多にない女王様は、未樹ちゃんが言うように風俗嬢の中でも高貴なお仕事なのだろう。


 仕事が終わったのは午後8時。携帯を見ると、大木さんからのメールが入っていた。受信時間は昼ぐらい。きっと今日は遅番だったのだろう。

「お疲れさま。今日はいい天気だね。今日も頑張ろう。」

こんな、なんてことないメールでも、首から上に血が上り、胸が狭心症を起こしたように狭くなる。私ってば、どうしちゃったんだろう。中学生の時だって好きな人のメール如きでこんなにドキドキしなかったよ。ってことは小学生レベル?もうすぐハタチになる女が嫌になっちゃうよね、33歳の男相手に小学生レベルの恋してるなんて。そう心の中で自嘲しながらも、駅前のネオンがいつもより輝いて見えていたのは気のせいじゃなかった筈だ。



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