熾烈な刑罰
一番の刑罰って死刑? 無期懲役?
もっと酷い刑罰ってこんな物では、ないでしょうか?
一人の男の裁判が行われていた。
元々は、未成年だったその男が犯した犯罪。
それは、複数の少女への強姦殺人。
誰もが極刑を確信したその裁判に極刑反対の弁護士達が名乗りをあげて、世間を惑わせた。
そして問題の男は、熱弁した。
「確かに俺は、人を殺した。殺しが一番の重罪だというなら、俺を殺すお前達は、どうなんだ! 俺は、生きたい。死んで何もいえない小娘達より間違いなく強く生きたいと断言してやる!」
盗人猛々しいという言葉でも足りない男の身勝手な発言。
傍聴席の遺族達の怒りの視線が男に集中した。
そして裁判官は、出した判決は、誰もが予想もしなかった新しい罰則だった。
「この罰則を施行する為に、色々な機関と、調整し、ようやく、今日この日に、この罰則を被告に与える事が出来る」
息が詰まる緊張の中、裁判官が判決を告げる。
「被告には、罪の意識も薄く、我々と同じ法律の中で生きていく事は、不可能と考える。よって、被告を非法治国家国民とする。この判決後、被告には、あらゆる法律が適用しなくなる」
誰もが首を傾げる中、裁判官が端的に答える。
「国は、被告人を国民である事を破棄し、今後、一切の干渉をしない。検事が求める極刑も、今までの裁判で出た無期懲役も行わず、この時点より、被告に対しては、なんら拘束を行わない事とする」
男は、歓喜の表情を浮かべた。
「やった! 裁判に勝ったぞ!」
高笑いをあげる男と信じられないと泣き崩れる被害者遺族。
そして、警察の拘束から開放された男は、胸を張って裁判所を出て行った。
男は、幸せの絶頂に居た。
「まさか、こんな結果になるなんてな。全ては、あの自分の主張を通す事しか考えてない弁護士達のおかげだな」
男は、レストランに入って食事をしようとしたら、目の前に残飯が出てきた。
「これは、何だ! 責任者を呼べ!」
すると、笑顔を纏った店長が現れて言う。
「どうしましたか?」
「どうしたも、こうしたもあるか! これは、何だ! こんな物を客に出してただで済むと思っているのか!」
男の怒気に店長が淡々と答える。
「何の問題もございません。なにせ貴方は、その席に無断で座ってるだけの人でお客様では、ありませんから。当店が残飯を何処に置こうとなんら問題が無い事です」
男は、残飯を払いのけて言う。
「良い根性だ! この店の事は、訴えてやるからな!」
そして、店を出た男は、丁度近くにあった自分の弁護をした弁護士の事務所に向った。
「と言うわけなんだ、その店を訴えて、慰謝料をふんだくってくれよ。半分は、そっちに渡すからよ」
男の言葉に弁護士は、首を横に振る。
「残念だが、それは、出来ない」
男は、舌打ちをして言う。
「どういうことだ、明らかな侮辱行為だろ。人を客だと認めず、残飯を出すなんてよ!」
弁護士が淡々と答える。
「簡単な事だ、君は、もう二度と裁判を受けることも起こす事も出来ない。なぜならば、法治国家であるこの国の法律の適応から外れた人間だからだ。もはや私達は、君に何も出来ない」
男が机を叩き言う。
「ふざけやがって!」
そのまま事務所を出る男。
すると、後から金属バットをもった少年達が現れて、男を殴りつける。
「何しやがる!」
男は、にらみ返すが少年達は、そんな男の言葉を無視して男を殴り続ける。
「誰か、警察を呼んでくれ!」
しかし、周囲の人間は、反応しない。
そんな中、一人の警察官が現れる。
天の助けと思い、男は、助けを求める。
「そこの公僕、早くこのいかれたガキどもを逮捕しやがれ!」
それに対して警察官が頷く。
「君達、路上でそんな物を振り回したら危ないよ。素振りをやるんだったら人気の無い所でしなさい」
その言葉に少年達は、素直に頭を下げる。
「すいませんでした」
「それじゃあ、今後は、気をつけるんだよ」
そのまま去っていこうとする警察官に男が言う。
「お前は、何を考えているんだ! こいつ等は、傷害の現行犯だろうが!」
警察官は、左右を見渡して言う。
「何を言っているのか解らない。何処にも傷害の被害者などいないぞ」
男は、殴られたあざを見せて怒鳴る。
「ここに居るだろうが! このアザが目にはいらないのか!」
警察官が苦笑する。
「残念だが、君は、非法治国家国民。傷害罪の被害者になる事は、出来ないんだよ」
そのまま去っていく警察官。
そして、少年達は、男の動向を監視する。
「早く、人気の無い所にいかないかな?」
「あいつだったら殺しても罪にならないんだろう?」
「そうそう、でも簡単に殺したら駄目だってテレビでも言ってたから、手加減しないとな」
男は、恐怖に駆られ、駆け出すと少年達も追跡する。
少年たちをなんとかまいた男が肩で息をしながら言う。
「どうなってやがるんだよ!」
男は、喉が乾いてるのに気付いて、近くのコンビニに入る。
「ビールでも買うか」
そういって、缶ビールをもってレジまで行く。
レジに商品を置くと店員が目配せし、店長が現れて言う。
「一万円です」
開いた口が塞がらない男。
「冗談は、いい加減にしやがれ! そんなふざけた話があるか!」
店長は、笑顔で言う。
「あんたには、あるんだよ。非法治国家国民のあんたには、何をしても犯罪には、ならないんだからな」
「もういい!」
缶ビールを投げ捨ててコンビニを出る男。
男は、部屋に戻り、テレビをつけるとそこには、自分の部屋がリアルタイムで映されていた。
左右を見回す男。
『ようやく気付いたみたいです。本当に鈍感な男です』
「こんな盗撮行為が許されると思っているのか!」
男が叫ぶとテレビの司会者が答える。
『許されるんですよ。あなたは、罪に問われない代わりに、どんな法律の保護も受けられない。あの裁判の直後、非公式に発表があった。あの罰則で、貴方に対しては、どんな罰も問えないと同時に、貴方にどんな事をしても罪にならない。極端に言えば、遺族が貴方を殺してもなんの罪に問われない』
青褪める男。
「冗談だろ……」
司会者が男を睨みつける様に言う。
『だがな、遺族達は、話し合って決めたんだよ、誰が殺しても残りの人間が満足しないのならいっそ、一生苦しみ続けさせる。自殺もさせない。重症を負っても治療する。お前を一生、監視続ける金は、視聴者からの募金で十分にあるぞ。お前の行動は、専用チャンネルで二十四時間見続けられる』
男は、暴れて自分が撮っていた隠しカメラを壊す。
しかし、即座に別のカメラからの映像に切り替わる。
『無駄だよ、お前には、もうプライバシーも何にも無い。死ぬまでその惨めな生き方で被害者遺族や国民に償い続けるんだ! 動物にも劣る、鬼畜が!』
男は、ひたすら隠しカメラを壊し続けた。
しかし、全てのカメラが壊れた後は、直接男を撮るスタッフが突入、抵抗しても数人がかりで一方的に殴られる。
誰も男を助けない。
その後、男は、無駄な抵抗を続け、飢え死に寸前で、常人では、口に入れるのも苦痛な食事を与えられ、ガキの気まぐれに暴行を受け、老衰で死んだ最後の言葉は、次のようだった。
「ルールを下さい」
これは、極刑を求める裁判を見ててよく思って居た事を話しにしました。
なんと言うか、ルールを破るのは、実は、簡単だけど、ルールを破るという事は、ルールの意味を破壊する事。
それがどんなに怖い事なのか、実感は、難しいだろうな。




