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小話  作者: 鈴神楽
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亀に勝てないアキレス

化学逸話改変シリーズで、今回は、亀とアキレスです。

 アキレスは、亀に追いつけない。

 よく使われる、パラドックス現象の説明に使われる文章です。

 アキレスが亀の最初にいた所に到着しても、そこから亀が先に行っている。

 次は半分の時間で亀のいた位置に到着できるが、やはり亀が動いているので到着しない。

 その次は、最初の4分の1の時間で到着するが、やはりそこからも亀が動いているので追いつけない。

 変な話なんですが、実は、これは実現可能な話なんです。

 この問題の一番の問題点は、アキレスが亀を追いかけていると言う所にあり、亀を追いかけている以上、亀には絶対追いつけないのです。



 二人の少年が居た。

 一人の少年、サトルは小学校の頃、勉強で一番を取った。

 もう一人の少年、タケルは、二番だった。

 タケルは、サトルを追い越そうと一生懸命勉強して、中学校の頃には、勉強で一番になりました。

 それを自慢しにタケルは、サトルに会いに行きました。

「どうだ、俺が学校一の秀才だって事が証明されたな」

 サトルは、あっさり頷きました。

「そうだね。僕は、サッカーの試合があるから」

 サトルは、全然悔しくない様子で中学校のサッカー部のレギュラーとして練習試合に向かいました。

 サトルを追い越したと考えていたタケルは、物凄く悔しがりました。

 そして、彼はサトルを見返す為にサッカーを始めました。

 彼には、サッカーの素質があり、高校で直ぐにレギュラーの座を獲得して、公式戦で好成績を収めました。

 再びタケルは、サトルの所に行き言いました。

「どうだ、県大会で優勝したぜ」

「凄いね。うちの学校の自慢だよ」

 サトルはあっさりそれを認めてしまいます。

 サトルは、ギターを持つと立ち上がります。

「これからバンドの仲間と練習があるんだ」

 少しも悔しがることなく、バンドの練習に向かうサトル。

 予想通り、タケルは、サトルを見返す為に、ギターを始めました。


 十数年後の同窓会。

 タケルは、サトルが勤めていた事がある会社の社長になっていました。

 そして、サトルが付き合っていた美人と結婚していました。

 今度こそ悔しがらせられると、タケルは意気揚々と同窓会に向かいました。

 サトルは数人の子供を連れてやってきました。

 着ているものは、決して上等とは思えませんでした。

 タケルが自慢げに、自分の身の上を話します。

「そう良かったね」

 サトルは、少しも悔しがることなく、心の底から祝福の言葉をかけました。

 意外そうな顔をするタケルにサトルがしみじみ言います。

「タケルが居て本当に良かった。何かやっても直ぐ壁にぶつかる僕に、自分の限界を教えてくれた。君みたいに何でも直ぐ出来る人間が居るのに結果が出ないのは、自分に合ってないんだと考えられたからね。今は、細々と自営業をやってる。美人じゃないけど、気が合う妻も居るし、子供一杯出来た。全部、タケルが居たおかげだよ」

 サトルの感謝の言葉に、タケルは何も言えなくなったのです。



 結局の所、アキレスは、なんで亀に追いつこうとしたのでしょうか?

 最初に目的地を決めて目的地に向かえば良かったのに、亀という不確定な目的地を作ってしまった為、アキレスは、永遠に追いつけないパラドックスに陥る羽目になりました。

 でも、一言付け加えるのでしたら人の心は、計算式では、表せず、亀にどうしても追いつきたかったのかもしれません。

 その答えは、アキレスにしか解らないことですね。

理数系な話しっぽいタイトルでしたが、実際は人情話。

タケルが間違っていると言う人も居ると思いますが、人間なんて間違うものです。

幸せも何が幸せかなんて解りません。

ただ、彼の努力は報われなかったそれだけで、彼の努力を無視してはいけない筈です。

彼はサトルくんを追い越したかったのですから。

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