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第八話 「赤い目」

 暗闇の奥。


 二つの赤い光が浮かんでいた。


 まるでこちらを見つめる目のように。


「……なんだ、あれ」


 俺が思わず呟く。


 ガルドは即座に剣を抜いた。


「戦闘準備だ」


 ジンも杖を構える。


 そしてバーツは短剣を抜きながら一歩下がった。


 赤い目はゆっくり近づいてくる。


 カツン。


 カツン。


 足音が響く。


 やがて姿が見えた。


「……狼?」


 いや、違う。


 大きい。


 普通の狼の倍以上ある。


 黒い毛並み。


 鋭い牙。


 全身から嫌な気配が漂っている。


「シャドウウルフだ」


 ガルドが低く言った。


「本来なら森にいる魔物だ。なんで遺跡に……」


 その時。


 脳内表示が出る。


---


【シャドウウルフ】


【脅威度:高】


【正面戦闘勝率:31%】


---


 低い。


 かなり低い。


 だがゼロじゃない。


「来るぞ!」


 ガルドが叫ぶ。


 次の瞬間。


 シャドウウルフが飛び出した。


 速い。


 俺の目では追えない。


 だがガルドが前へ出る。


「はあっ!」


 剣が振るわれる。


 金属音のような衝撃。


 狼が吹き飛ぶ。


「すげぇ!」


 普通に強い。


 レティシアほどじゃないが、ベテラン冒険者って感じだ。


 しかし。


 狼はすぐ立ち上がる。


 傷は浅い。


「チッ」


 ガルドが舌打ちする。


 そこへジンの魔法。


「火球!」


 小さな炎が飛ぶ。


 命中。


 毛皮が燃える。


 狼が悲鳴を上げた。


「今だ!」


 ガルドが追撃へ向かう。


 だがその瞬間。


 脳内表示。


---


【落石発生率:82%】


---


 え?


 高すぎる。


「ガルドさん止まれ!!」


「は?」


 ドゴォォォン!!


 天井が崩れた。


 巨大な岩が落下する。


「ぐっ!?」


 ガルドが飛び退く。


 間一髪だった。


「尾零!」


「説明は後!」


 俺だって分からない!


---


 しかし。


 妙だった。


 さっきから。


 落石。


 崩落。


 偶然。


 多すぎる。


 するとバーツが言う。


「この遺跡おかしくないか?」


「……ああ」


 ガルドも同意する。


「まるで誰かが罠を作動させてるみたいだ」


 その言葉に。


 一瞬だけ。


 バーツの表情が固まった気がした。


---


 戦闘は続く。


 シャドウウルフは再び飛びかかる。


 ガルドが迎撃。


 ジンが援護。


 俺は後方。


 完全に役立たずだ。


「くそ……」


 何かできないのか。


 その時。


 脳内表示が変化した。


---


【シャドウウルフ転倒率:4%】


---


 見慣れた数字。


 俺は集中する。


 上げろ。


 上げろ。


---


【4% → 19%】


---


 頭痛。


 視界が揺れる。


 だが。


 シャドウウルフの足が石に引っ掛かった。


「グルァッ!?」


 体勢が崩れる。


「今だ!」


 ガルドの剣が振り下ろされた。


 斬撃。


 悲鳴。


 そして狼は動かなくなった。


---


 静寂。


 戦闘終了だった。


「助かった……」


 ジンが座り込む。


 ガルドは剣を納めながら俺を見る。


「お前、本当に何者なんだ?」


「だから一般人」


「一般人は落石を予知しねぇ」


 ごもっともである。


---


 その時だった。


 カチッ。


 小さな音。


 俺は振り返る。


 通路の壁。


 そこにある石が押し込まれていた。


 まるで。


 誰かが意図的に。


 罠を起動したみたいに。


「……ん?」


 俺が近づこうとすると、


「触るな!」


 ガルドが止めた。


 だが俺は気付いてしまった。


 その石の近くに残る足跡。


 大きさが。


 バーツの靴と同じだった。


---


 そして少し離れた場所で。


 バーツは誰にも見られていないと思ったのか、小さく笑った。


 その笑みを。


 友田尾零だけが見ていた。

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