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第四話「最初の街」

 川辺で一晩休んだ翌朝。


 俺――友田尾零とレティシアは、森の中を歩いていた。


 昨日の逃走のせいで体はボロボロだ。


 特にレティシア。


 歩けてるのがおかしいレベルで怪我している。


「……おい」


「なんだ」


「お前ほんとに大丈夫か?」


 レティシアの左足には包帯が巻かれていた。


 でもところどころ赤い。


 血が滲んでる。


「問題ない」


「いや問題しか見えないんだけど」


 すると彼女は小さく息を吐いた。


「騎士は身体強化魔法を使う」


「身体強化?」


「魔力で身体能力を底上げする技術だ。痛みや疲労も多少は抑えられる」


「へぇ……便利だな」


「便利ではある」


 そこで言葉が切れる。


 レティシアの額には汗が浮かんでいた。


 その直後。


 レティシアがふらついた。


「うおっ!?」


 慌てて支える。


 熱い。


 かなり熱がある。


「お前絶対休んだ方がいいだろ!」


「離せ……歩ける」


「説得力ゼロなんだよ!」


 だがレティシアは無理やり立ち直る。


 真面目すぎる。


 というか根性で動いてるタイプだこの人。



---


 昼頃。


 ようやく森を抜けた。


「おお……!」


 目の前には石壁に囲まれた街。


 交易都市ラグナ。


 人の声。


 馬車。


 煙。


 異世界の街って感じだ。


「感動してる場合じゃない。まず宿と回復薬だ」


「やっぱ必要なんじゃねぇか」


「……応急処置程度でいい」


 レティシアは少しだけ視線を逸らした。


 強がってるなこれ。



---


 街へ入る時も、レティシアは平然としていた。


 だが俺は気づいていた。


 門を通る時、ほんの少しだけ足を引きずっていたことに。



---


 街の中は賑やかだった。


 屋台。


 武器屋。


 冒険者っぽい人たち。


 異世界感すごい。


 だが横を見ると、レティシアの顔色が悪い。


「……お前、先に薬屋行くか?」


「その前に情報収集だ」


「いや絶対先に回復しろって」


「情報の方が重要だ」


「倒れたら意味ないだろ!」


 するとレティシアが少し黙った。


「……騎士は簡単に倒れない」


 その声は妙に意地っ張りだった。


 なんというか。


 “倒れちゃいけない”と思い込んでる感じ。


 俺は少し考えてから言った。


「じゃあせめて飯」


「……」


「飯食ったら薬屋な」


「…………分かった」


 今ちょっと子供みたいに間があったな。


---


 俺たちは食堂へ入った。


 木造の店内。


 昼時だから結構混んでいる。


 料理の匂いがすごい。


 すると。


 ぐぅぅぅ……


「…………」


 レティシアが静かに顔を逸らした。


「腹減ってるじゃねぇか」


「……戦闘で魔力を使ったからだ」


「便利な言い訳だなおい」


 だが席へ座った瞬間。


 レティシアが小さく顔をしかめた。


「?」


「傷、痛むのか?」


「……大したことはない」


 絶対痛い。


 でも多分、この人は弱音を吐くタイプじゃない。


---


 食事が運ばれてきた。


 スープ。


 肉。


 パン。


 レティシアは最初こそ平静を装っていたが、一口食べた瞬間、明らかに安心した顔になった。


「……生き返る」


「やっぱ限界だっただろ」


「違う」


「いや絶対そうだろ」


 その時だった。


 店の奥から怒鳴り声が響く。


「金が足りねぇんだよ!」


 ガラの悪い男たちが店主へ絡んでいた。


 周囲の空気が悪くなる。


 レティシアは嫌そうにそちらを見る。


「面倒事だな」


「やめとくか?」


「……いや」


 彼女の視線が止まる。


 男の腕。


 黒い輪の入れ墨。


「尾零」


「ん?」


「あれを見ろ」


 俺も気づいた。


 黒蛇。


 追ってきた連中と同じ印だった。

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