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第三話「逃走」

 洞窟の入口を塞ぐように、黒ローブの男たちが立っていた。


 五人。


 しかも全員、いかにも強そう。


 中央の仮面男がゆっくり口を開く。


「“魔鍵”を渡してもらおうか、異世界人」


「いやだから知らんって!」


 本当に知らない。


 なんなんだよ魔鍵って。


 だがレティシアは剣を抜いていた。


「尾零、下がれ」


「でもお前ケガしてるだろ!」


「問題ない」


 問題ありまくりである。


 足からまだ血が出てるし。


 でも彼女の目は本気だった。


 対する黒ローブたちは、一斉に武器を構える。


 逃げ場なし。


 完全に詰んでる。


 その時、脳内に文字が浮かんだ。



---


【勝率:2%】


---


 低っ。


 ほぼ終わりじゃねぇか。


 だが続けて別の表示。


---


【逃走成功率:24%】


---


 ……ある。


 少しだけ。


 俺は息を呑んだ。


 《確率操作》。


 この能力、“可能性があること”には干渉できる。


 それなら。


 逃げ切れる確率を上げればいい。


 俺は集中した。


 数字へ意識を向ける。



---


【逃走成功率:24% → 33%】



---


 頭痛。


 視界が揺れる。


「っ……!」


 鼻から血が垂れた。


「尾零!?」


 レティシアが驚く。


 キツい。


 でも、まだ足りない。


 もっと――!



---


【33% → 41%】



---


 仮面男が眉をひそめた。


「……何をしている?」


 知らねぇよ。


 俺も初体験だよ。


 だが次の瞬間。


 洞窟の上から、パラパラと小石が落ちてきた。


「?」


 俺は反射的に見上げる。


 天井に大きなヒビ。


 その瞬間、脳内表示。



---


【洞窟崩落確率:7%】


---


 これだ。


 俺は無意識に叫んでいた。


「レティシア! 伏せろ!!」


「なっ――」


 同時に念じる。


 上がれ。


 崩れろ。


---


【洞窟崩落確率:7% → 79%】


---


 メキメキメキッ!!


「!?」


 天井が崩れた。


 巨大な岩が黒ローブたちへ降り注ぐ。


「ぐあっ!?」


「退避しろ!!」


 洞窟内が大混乱になる。


「今だ、走るぞ!!」


 俺はレティシアの手を掴んだ。


 一瞬、彼女が目を見開く。


 だがすぐ頷いた。


「……っ!」



---


 森の中を全力疾走。


 枝が顔に当たる。


 息が苦しい。


 後ろから怒号が聞こえる。


「追え!!」


「逃がすな!!」


 怖すぎる。


「はぁっ……はぁっ……!」


 レティシアの呼吸も荒い。


 やっぱり無理してる。


「おい、大丈夫か!?」


「黙って走れ……!」


 その直後。


 レティシアがふらついた。


「うおっ!?」


 慌てて支える。


 熱い。


 かなり熱が出てる。


「お前、これ普通にヤバいだろ!」


「……大丈夫だ」


「全然説得力ねぇ!」


 すると後方から木が倒れる音がした。


 追手だ。


 俺は歯を食いしばる。


 逃げ切れる確率は――


---


【逃走成功率:41%】


---


 まだ低い。


 クソッ……!


 その時だった。


 突然。


 ズルッ!!


「うおっ!?」


 追ってきていた黒ローブの一人が、泥に足を取られて転倒した。


 さらに。


 ドンッ!!


 別の奴が倒れた木に頭をぶつける。


「何をやっている!!」


 仮面男が怒鳴る。


 ……なんか敵側だけ事故ってない?


 もしかして。


 俺、無意識に確率いじってる?


---


 十分ほど走り続けた後。


 ようやく追跡の気配が消えた。


 川辺で、俺たちは倒れ込む。


「はぁ……はぁ……」


 死ぬかと思った。


 いや多分普通なら死んでた。


 レティシアは木にもたれながら息を整えていた。


 その横顔は疲れ切っている。


「……助かった、のか」


「多分」


 すると彼女がじっと俺を見た。


「尾零」


「ん?」


「お前の力、何だ」


 真っ直ぐな視線だった。


 誤魔化せない。


 俺は少し黙ってから答える。


「《確率操作》ってスキルらしい」


「確率操作……」


「運をいじる、みたいな感じだと思う」


 レティシアは眉をひそめる。


「そんな力、聞いたことがない」


「俺もだよ」


 本当に。


 意味が分からない。


 だがレティシアは小さく息を吐いた。


「……だが、お前がいなければ私は死んでいた」


「それはお互い様だろ」


「いや、お前は放っておいても運良く生き残りそうだ」


「なんだそれ」


 思わず笑ってしまった。


 レティシアも少しだけ口元を緩める。


 初めて彼女の笑った顔を見た気がする。

 

 その時。


 ぐぅぅぅ……


 静かな川辺に音が響いた。


「…………」


「…………」


 レティシアがそっと顔を逸らす。


 腹の音だった。


 さっき食べたよな?


「……腹減ってる?」


「問題ない」


 即答。


 でもまた鳴った。


 全然問題でしかない。

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