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第二話 「運がいいだけじゃ、生き残れない」

 ズシィン――!!


 巨大な赤熊、《ブラッドベア》が地面に倒れる。


 木々が揺れ、土煙が舞った。


 静寂。


「……え?」

 

 銀髪の少女が固まっていた。


 そりゃそうだ。


 俺だって意味が分からない。


 さっきまで殺意むき出しだった化け物が、突然胸を押さえて死んだんだから。


「な、何をした……?」


 少女が震える声で聞いてくる。


 いや俺も知りたい。


 でも多分、分かってしまった。


 《確率操作》。


 平たく言うとこの能力、思ったよりヤバい。


 俺は内心の動揺を隠しながら、できるだけ平静を装った。


「まぁ、ちょっとな」


 主人公っぽく言ってみた。


 実際は足ガクガクだけど。


 少女はしばらく俺を見つめ――やがて警戒を強めた。


「……魔族か?」


「違う違う違う!!」


 なんでそうなる。


「人間! 普通の高校生! ……だった!」


 危ない、異世界設定を忘れるところだった。


 少女は眉をひそめる。


「コウコウセイ?」


「いや、こっちの話」


 説明が面倒すぎる。


 すると彼女は痛みに顔をしかめ、その場によろめいた。


「っ……!」


 足を見ると、かなり深く裂けている。


 普通に重傷だ。


「お、おい大丈夫か?」


「問題ない……これくらい――」


 言い終わる前に倒れた。


「うわっ!?」


 ギリギリで受け止める。


 軽い。

 

 というか細い。


 あと胸がちっちゃい。


---


 近くの洞窟へ避難した頃には、外はすっかり暗くなっていた。


 焚き火の前で、俺は頭を抱えていた。


「どうすんだこれ……」


 異世界生活一日目。


 所持金ほぼ無し。


 戦闘経験ゼロ。


 なのに美少女を拾った。


 平たく言うと、イベント進行が早すぎる。


 向かいでは、銀髪の少女が俺を睨んでいる。


 年齢は多分十六、七くらい。


 整った顔立ちだが、目つきが鋭い。


 騎士っぽい装備からして、身分も高そうだった。


 平たく言うとクール系の白銀の騎士。


「……何故、助けた」


「え?」


「見返りもないだろう」


 なんだその質問。


 俺は焚き火をつつきながら答えた。


「いや、死にそうだったし」


「…………」


「それに、なんか放っとけなかった」


 少女は黙り込む。


 やがて、小さく呟いた。


「変な奴だな」


 そっくりそのまま返したい。



---


 問題は食料だった。


 腹が減った。


 めちゃくちゃ減った。


 今日ほぼ何も食ってない。


「……そういや、さっきの熊って食えるのか?」


 俺が呟くと、少女が呆れた顔をした。


「ブラッドベアを食べる気か?」


「ダメなのか?」


「硬い。不味い。臭い。最悪だ」


 フルコンボだった。


 だがその時、俺の脳内に文字が浮かぶ。



---


【《確率操作》発動可能】


【対象:周辺探索】


【食用生物発見確率:3%】



---


 ……なるほど。


 戦闘以外にも使えるのか。


 俺は試しに念じた。


 上がれ。


 できるだけ自然に。



---


【食用生物発見確率:3% → 78%】



---


 直後。


 ガサガサッ!!


「!?」


 洞窟の奥から、丸々太ったウサギみたいな生物が飛び出してきた。


 しかも。


 壁に頭をぶつけて気絶した。


「…………」


「…………」


 沈黙。


 少女がゆっくり俺を見る。


「お前、本当に何者だ?」


「平たく言うと、わかんない」


「全然平たくないが」


 はい。


---


 一時間後。


 焼いた肉を食べながら、少女がぽつりと言った。


「……私はレティシアだ」


 名前だけでも、なんか強そう。


「俺は友田尾零。尾零でいい」


「変な名前だな」


 異世界だからな。


 逆に“レティシア”の方がこっちでは普通なんだろう。


「レティシアは騎士なのか?」


「見れば分かるだろう」


 たしかに。


 だが彼女は少し表情を曇らせた。


「……元、近衛騎士だ」


「元?」


「任務に失敗した。仲間も死んだ」


 空気が重くなる。


 焚き火がパチパチと鳴った。


「追っていた盗賊団が、実は魔族と繋がっていたんだ」


「魔族……」


 王様も言ってたな。


 魔王復活とか。


 でもレティシアは首を横に振った。


「ただの盗賊ではない。奴らは“何か”を探していた」


「何か?」


「黒い石だ」


 その瞬間。


 俺の胸ポケットが、熱を持った。


「っ!?」


 慌てて取り出す。


 王城を追い出される時、荷物に紛れていた黒い石。


 ガラクタだと思っていた。


 だが今、それが淡く赤く光っている。


 レティシアの顔色が変わった。


「なぜ、お前がそれを持っている!?」


「いや知らん!!」


 本当に知らん!


 だが次の瞬間。


 洞窟の外から、低い声が響いた。


「――見つけたぞ」


 空気が凍る。


 洞窟入口に立っていたのは、黒いローブの男たち。


 その中央。


 仮面をつけた長身の男が、ゆっくり笑った。


「“魔鍵”を渡してもらおうか、異世界人」


 ……え?


 なんか急に物語がデカくなってきたんだけど。


 ある意味で主人公なのか?

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