表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/13

第7話 そう


合格通知が届いたのは、二月だった。

担任から封筒を渡された。教室ではなく、廊下で。それが桃子には良かった。

封筒を開けた。

合格。

その一文字を、三回読んだ。

現実になるまで、少し時間がかかった。

放課後、美術室に行った。

田中先生は桃子の絵の講評をしている途中だった。他の生徒が帰るのを待って、桃子は先生の前に封筒を置いた。

先生は一度だけ中を見た。

「そう」

それだけだった。

桃子は少し笑いそうになった。褒めない人だ、最後まで。

片付けを始めた先生の背中に、桃子は言った。

「先生がいなかったら、ここに来てなかったです」

先生は手を止めなかった。

「私は何もしていない」

「でも、見てくれました」

沈黙が落ちた。

先生はゆっくり振り返った。

桃子の顔を見て、それから壁に飾ってある桃子の絵を見た。県のコンクールに出した、あの食卓の絵だった。

「上手いと思った」

初めて聞く言葉だった。

「最初に見たとき、上手いと思った。それだけだ」

先生はそれだけ言って、また片付けに戻った。

桃子は動けなかった。

上手いと思った。

その一言が、静かに胸に降り積もった。

窓の外は夕暮れだった。

オレンジの光が美術室に差し込んで、先生の横顔を照らしていた。

桃子はその光を、目に焼き付けた。

描いておきたかった。この場所を。この人を。

でも今日は、描かなかった。

ただ見ていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ