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第7話 そう
合格通知が届いたのは、二月だった。
担任から封筒を渡された。教室ではなく、廊下で。それが桃子には良かった。
封筒を開けた。
合格。
その一文字を、三回読んだ。
現実になるまで、少し時間がかかった。
放課後、美術室に行った。
田中先生は桃子の絵の講評をしている途中だった。他の生徒が帰るのを待って、桃子は先生の前に封筒を置いた。
先生は一度だけ中を見た。
「そう」
それだけだった。
桃子は少し笑いそうになった。褒めない人だ、最後まで。
片付けを始めた先生の背中に、桃子は言った。
「先生がいなかったら、ここに来てなかったです」
先生は手を止めなかった。
「私は何もしていない」
「でも、見てくれました」
沈黙が落ちた。
先生はゆっくり振り返った。
桃子の顔を見て、それから壁に飾ってある桃子の絵を見た。県のコンクールに出した、あの食卓の絵だった。
「上手いと思った」
初めて聞く言葉だった。
「最初に見たとき、上手いと思った。それだけだ」
先生はそれだけ言って、また片付けに戻った。
桃子は動けなかった。
上手いと思った。
その一言が、静かに胸に降り積もった。
窓の外は夕暮れだった。
オレンジの光が美術室に差し込んで、先生の横顔を照らしていた。
桃子はその光を、目に焼き付けた。
描いておきたかった。この場所を。この人を。
でも今日は、描かなかった。
ただ見ていた。




