表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マッチングアプリでマッチした相手は異世界の第三王女でした。〜召喚された最強クラフトマンは、崖っぷち小国を立て直して無双する〜  作者: 富益 啓


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

99/119

第99話 救われた国

式典の翌日、湊は一人で王都を歩いた。


特に理由はない。

たぶん、理由が多すぎた。


広場では、保存食包みを買い足す兵がいる。

市場では辺境産の豆が普通に並び、王都の鍛冶屋が規格金具を売っている。

水路脇では子どもが走り、通信塔の下では伝令が待ちぼうけを食わずに済んでいる。


全部、自分が作ったわけじゃない。

でも、自分の図面が少しずつ混ざっている。


「よう」

工房街でドンが手を挙げた。

「王都でもこっちの治具が売れ始めたぞ」


「早いな」


「売れるからな」


広場の隅では、非番の兵が数人、車座になって得物の手入れをしていた。

そのうちの一本が、量産槍だ。

「お、“湊槍”の本人だ」

一人が気づいて、人懐こく穂先を掲げる。

辺境で誰からともなく呼び始めた渾名は、王都にまで広まっていた。

「縁起がいいんだ、これ。折れても直せる、数が揃ってる、扱いやすい」

「名前は返してくれ」

湊が言うと、車座が軽く笑った。


そのまま北門へ行けば、交代中の兵が結界板を点検していた。

国境砦から来た若い兵が、湊を見るなり背筋を伸ばす。


「あの時の灯、見ました」

兵は言った。

「国境砦の青い反撃灯。あれで、まだ終わってないって分かったんです」


帰り道、兵站局の前を通ると、若い書記官が台帳を抱えて駆け出してきた。

「顧問! 例の二重照合の様式、全部署で回り始めました」

「遅配、ほとんど消えたんです。……ありがとうございます」

早口でそれだけ言って、また台帳を抱えて戻っていく。

湊が王都を追われたころ、この国の役所は、彼が直した仕組みを次々に止めた。

その役所の人間が、今は「顧問」と呼びかけて走ってくる。

役人が礼を言いに走る国は、たぶん、そう簡単には潰れない。


午後には、地方から届いた新しい報告も読んだ。

南畑の収量回復。

市場の拡張。

職人講習の常設化。


報告の余白には、現場からの覚書が短く添えられていた。

あの枯れ村の用水路は今年も水を通し、水が来た時に泣きながら笑った村人が、今度は若い者へ堰の直し方を教えているという。

市場が戻った朝に顔をくしゃりとさせて笑っていた串焼きの親父は、店を二つに増やしたらしい。

講習を修了した職人が、隣村でまた別の講習を開き始めたとも書いてある。


どれも地味だ。

でも、地味なものほど国を長く支える。

そして地味な話ほど、数字の裏に必ず誰かの顔がある。


王城へ戻る途中、湊はふと立ち止まった。


自分が救ったのは、王女一人じゃない。

王城一つでもない。

もちろんまだ全部を救いきれたわけでもない。


それでも。


助かった場所なら、もうあちこちにある。


ルーメリアは崖っぷちだった。

今も強国に囲まれ、問題は山ほど残っている。

未整備の地方も、外の脅威も、祖父の残した境界の謎も、全然終わっていない。


でも、その“終わっていない”を先へ繋げられるだけの土台は、もうできた。


夕方、城壁の上でリゼリアと並んだ時、湊はぽつりと言った。


「やっと実感しました」


「何をですか」


湊は頭をかいた。

「国を立て直すって、口では何度も言ってきたんですけど」

「今日、街を歩いて、やっと言葉じゃなく実感になりました。遅いな、俺」


リゼリアは少しだけ驚いた顔をして、それから静かに笑う。


「実感するのが遅いです」


「自分でもそう思います」


風が城壁を抜ける。

見下ろせば、王都の灯りがひとつずつ点いていく。


その全部が、救われた国の続きだった。


毎日21時更新予定。お気に入り登録ぜひよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ