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マッチングアプリでマッチした相手は異世界の第三王女でした。〜召喚された最強クラフトマンは、崖っぷち小国を立て直して無双する〜  作者: 富益 啓


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第97話 第三王女の隣席

復旧式典は、王城前広場で行われた。


王都市民。

地方からの代表。

兵士。

職人。

王家と実務官。


以前なら同じ場所に集まらなかった人間たちが、今日は同じ空を見上げている。

それだけで、ずいぶん遠くまで来た気がした。


壇上には国王もいた。

まだ長く座ってはいられない。

それでも、公の場へ出た意味は大きい。


開式直前、来賓席へ案内された湊は、自分の席を見て少し固まった。


「……近くない?」


王族席そのものではない。

だが、第三王女席のすぐ隣に、一段低く設けられた席だった。

札には、再契約の日に登録した、あの長い肩書きが刻まれている。


第三王女付特別技術顧問。


肩書き自体は、登録の日から公のものだ。

新しいのは、それが席次の形で示されたことだった。

そして席札では、登録書に並んでいたはずの“私的随伴人”の文字だけが省かれている。

契約から消えたわけではない。

公の札に載せる分だけを、誰かが選んだのだ。

外部協力者よりは近く、王族ではないと分かるだけの線も引かれている。

たぶん、その線引きまで含めて、同じ誰かが考えた配置だった。


「座ってください」

リゼリアが平然と言う。


「普通、もうちょっと段階を踏みません?」


「十分踏みました」


確かに、ここまで色々踏み抜いてきた気もする。

でもそれとこれは別だろう。


「それに」

リゼリアは前を向いたまま続けた。

「この席を空けておくと、埋めたがる家が三つほどあります。あなたが座っていてくださるのが、いちばん静かです」


「政治の理由があるなら先に言ってください」


「政治だけでは、ありませんが」


そこで開式の鐘が鳴り、続きは飲み込まれた。


結局、断れる空気ではない。

湊が腰を下ろした瞬間、広場の空気がほんの少し揺れた。

誰もがその配置の意味を読む。


貴族席の一角では、扇の陰でささやきが交わされている。

王族に近すぎる、という顔。

あれで足りるのか、という顔。

読み方は割れても、無視できる者は一人もいない。

それがこの席の、本当の機能だった。


広場の前列には、見覚えのある顔がいくつもあった。

辺境から出てきた職人。

国境砦で結界板を握った兵。

市場を立て直した商人。

かつて湊が泥の中で一緒に手を動かした連中だ。

彼らは真新しい席の札より、湊本人を見ていた。

そして、ほんの少し誇らしげに胸を張る。

追放された異邦の職人が、今は王女の隣に座っている。

それは、自分たちが信じて働いた数か月が間違いではなかった、という証でもあった。


第三王女のすぐ隣の、一段低い席。

ただの功労者席ではない。

これからのルーメリアで、誰が王女と並んで国を立て直すのかを印象づける位置だ。

けれど同時に、王族席へ踏み込ませないための境界でもある。


「すごい顔されてるぞ」

少し離れた位置からカナンが口の形だけで言う。


「見ないようにしてる」


「無駄だな」


式典では、辺境の市場再開、兵站復旧、通信塔網、水利回復が次々と報告された。

その一つ一つで、広場から拍手が起こる。

市場再開の報せに、商人の一団が肩を叩き合う。

水利回復の数字が読み上げられると、辺境から来た老農が深く目を伏せた。

報告は数字でも、聞いている側にはそれぞれの一年がある。

その拍手は、過ぎた一年への拍手でもあった。


報告の合間、壇上の国王が一度だけこちらを見た。

補助椅子に腰かけたまま、ゆっくりと頷く。

言葉はない。

だが公開裁定の日の「嘘をつくな」と同じ重さで、その頷きは席の意味を裏書きしていた。


湊は隣に座るリゼリアの横顔を見た。

王女としての顔だ。

強く、落ち着いていて、簡単に崩れない。


けれど時折、彼女がこちらを見てほんの少しだけ微笑む瞬間がある。

その時だけは、王女じゃなく一人の女の顔に見えた。


第三王女のすぐ近くに置かれた特別顧問席。

公の場で近くに並ぶ二人の姿は、きっと今日からずっと記憶される。

国を立て直す、新しいかたちとして。


それが政治なのか、もっと別のものなのか。

もう簡単には分けられなかった。


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