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マッチングアプリでマッチした相手は異世界の第三王女でした。〜召喚された最強クラフトマンは、崖っぷち小国を立て直して無双する〜  作者: 富益 啓


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第95話 王国基盤工式、再起動

敵を裁いただけでは、国は立ち直らない。


壊されてきた基盤を、本当にもう一度繋ぎ直して初めて再建と言える。

だから公開裁定の翌朝、湊は王城地下の中枢工房にいた。


机に広げたのは、祖父が残した基盤工式の統合設計図。

そこへ自分がこれまで見てきた現場の実測を書き加えていく。


王都結界。

水利盤。

通信塔。

転移炉。


全部が別々に動いているようで、本当は同じ国の骨格だ。

骨格なら、一本の流れとして組み直せる。


「無茶をしますね」

リゼリアが隣で図面を見る。


「いつも通りです」


「それは反省してください」


軽口を交わしてはいたが、作業そのものは真剣だった。

今回ばかりは失敗できない。

王国基盤工式の再起動は、建国以来、抜本的には触れられていない主制御の深層に手を入れる行為なのだから。


祖父の設計は、美しかった。

けれどそのままでは今のルーメリアに合わない。

地方の疲弊、物流の偏り、王都の人口増。

現実に合わせて再設計する必要がある。


「直すんじゃなくて、継ぐんだな」

湊は自分で言って少し驚く。


「はい」

リゼリアが静かに答えた。

「わたくしには、そう見えています」


起動は夕刻。

王都各所に待機態勢を敷き、通信塔を通じて確認を回す。

主印はリゼリアが携え、段階ごとの裁可を担う。


第一段階、水利盤同期。

第二段階、通信塔連結。

第三段階、結界負荷分散。

最終段階、王家主印と転移炉の再接続——決戦の夜の仮接続を、完全な接続へ結び直す。


一つずつ光が繋がる。

王都の地下を走る見えない流れが、まるで長く止まっていた血管に血が戻るみたいに震えた。


最後の接続で、湊は掌を炉心に当てる。


熱が皮膚の表面ではなく、骨の内側へ落ちてくる。

祖父の残した線と、自分が引き直した線が、頭の中で何度も重なってはほどけた。

少しでも順番を間違えれば、王都だけでなく地方の中継まで巻き込む。

ここで成功させなければ、公開裁定で取り戻した信頼まで失う。


通話板が鋭く鳴った。


『西結界、中継遅延。負荷が下がりません』


場の空気が凍る。

西側には避難路と兵站倉庫が集中している。

ここで無理に通せば、最初に詰まるのは人の流れだ。


「止めるな。西は一段下げて、南水路の余力を借りる」


「水利盤を?」

隣の技師が声を上ずらせる。


「水の流れと人の流れは別物だけど、負荷を逃がす道は似てる。直接つなぐんじゃない。間に空き結界を一枚噛ませる」


リゼリアが主印へ手を添えた。

「許可します。責任はわたくしが持ちます」


湊は頷き、炉心に触れる指の角度を変えた。

祖父の設計にはない迂回路。

けれど、地方で何度も見てきた壊れ方が教えてくれる。

全部を正面から直す必要はない。

逃がして、支えて、戻せばいい。


数秒遅れて、通話板の震えが収まった。


『西結界、遅延縮小』

『南水路、許容内』


皆が息を詰めていたことに、その時ようやく気づく。


「王国基盤工式、再起動」


光が静かに満ちた。

暴発しない。

悲鳴も上げない。

ただ深く、安定して息をし始める。


通話板が次々と鳴る。

『北塔安定』

『南水路正常』

『西結界出力回復』

『地方中継、順次接続』


成功だ。


地下工房の端で、誰かがその場に座り込んだ。

別の技師が声を殺して泣き、通信係は震える手で次の確認を読み上げ続ける。

リゼリアも、すぐには言葉を出さなかった。

ただ湊の隣で、国が息を吹き返す音を聞いていた。


ルーメリア王国は、建国以来最大級の安定期へ踏み出した。

まだ全部ではない。

地方には未整備も多いし、外敵も消えていない。

でも今この瞬間、国の骨格がようやく自分の足で立ったのは確かだった。


湊は深く息を吐き、ようやく笑う。

祖父の設計へ、自分の現場を継ぎ足せた。

それが少しだけ、誇らしかった。


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