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マッチングアプリでマッチした相手は異世界の第三王女でした。〜召喚された最強クラフトマンは、崖っぷち小国を立て直して無双する〜  作者: 富益 啓


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第93話 第二王子の失脚

証拠を突きつけられたあとも、ガルドはしばらく沈黙を守っていた。


それから突然、笑った。


「だから何だ」


大広間が凍る。


「ルーメリアがこのまま自立できるとでも思うのか? 強国に囲まれ、資源も乏しく、民は疲れ、兵は薄い。従属してでも形を残す方が賢いに決まっている」


本音だった。

今さら取り繕う気すらなくなったのだろう。


「私は王位を継ぎ、この国を延命させる」

ガルドは大広間を見渡す。

「犠牲を払ってでもな」


だが、その言葉へすぐに続く賛同はなかった。

昔なら数人は声を上げただろう。

今は違う。


辺境の成果を見た者。

王都決戦を生き延びた兵。

家族を売られずに済んだと知った実務官。

誰も簡単に頷けなかった。


ガルドは、ゆっくりと会場を見回した。

かつて自分の側に立った顔を、一つずつ探すように。

軍務寄りの老貴族と目が合う。

老貴族は、わずかに首を振って視線を落とした。

次に、王都の大商会の主。

主は扇で口元を隠し、聞こえなかったふりをする。

最後に、長く腹心だったはずの近臣。

その男は、もう床の一点しか見ていない。

一人、また一人と、ガルドの足元から味方が抜けていく。

派閥とは、勝つ見込みの上にだけ張られた網だ。

見込みが消えれば、音もなくほどける。

ついさっきまで会場の半分を縛っていた威圧は、もうどこにも残っていなかった。


沈黙を破ったのは、末席の若い兵だった。

「……俺たちは、その“形”のために死にかけたんですか」

咎められる前に、もう一人が続く。

「曲がった槍で。空きっ腹で。国境に立たされて」

声は大きくない。

だが、王族へ正面から返したという一点で、十分に重かった。

昔の王都なら、その一言で兵の方が罰せられただろう。

今は違う。

咎める者はなく、周りの兵が静かに頷いた。

ガルドの言う「賢い統治」は、その賢さで切り捨てるはずだった当人たちの口から、初めて真正面から否定されたのだ。


「延命ではなく、切り売りです」

リゼリアがはっきり言う。


ガルドは笑みを消さないまま、人差し指で机を一度だけ強く叩いた。

「……よく回る舌だ」

その合図みたいに、数人の残党が動いた。

最後の悪あがきだ。

剣へ手をかけ、王の間の空気を乱そうとする。


だが遅い。

カナンが一番近い一人を蹴り飛ばし、王女派兵が即座に二人目を組み伏せる。

防壁と同じだ。

混乱しない仕組みを先に置いてある。

だから急な暴発でも崩れない。


ガルドはそこで、ようやく自分が本当に孤立したと理解した顔をした。


玉座の前で、国王がかすれた声を絞り出す。


「ガルド……」


たった一言。

でも、それは父ではなく王の声だった。


王の声を絞り出すために、父はどれだけのものを差し出したのか。

それは、肘掛けに置かれた手の震えに表れていた。

我が子に玉座を継がせるはずだった口で、その資格を奪う。

国王は一度だけ目を閉じ、それから、王として目を開けた。


「王位継承権を……停止する」


侍従が震えながら宣告を復唱する。

第二王子ガルド・ルーメリアの継承権停止。

政務権剥奪。

身柄拘束。


ついに、最大の政敵が地位を失った。


ガルドは何か言い返そうとした。

だがもう誰も耳を貸さない。

王都で築いた権威も、王位への近道も、この場でまとめて崩れた。


その瞬間、大広間が堰を切った。

最初は地方領主の席から。

次に兵の代表が、抑えていた声を上げる。

傍聴の職人や商人までが、こらえきれずに立ち上がった。

華やかな歓声ではない。

もっと不格好で、もっと切実な――やっと言えた、という種類のどよめきだった。

飢えを押し付けられた村が。

曲がった得物で仲間を喪った隊が。

蓄えを掠め取られた店が。

それぞれの「ざまをみろ」を、それぞれの言葉で吐き出している。

リゼリアは、それを止めなかった。

ただ一度、深く目を閉じる。

これは自分一人の勝利ではない。

国が、ようやく自分の足で下した最初の裁きだった。


湊は静かに息を吐く。

長かった。

でも、ようやくここまで来た。


第二王子の失脚。

それは個人の転落であると同時に、ルーメリアが“食い物にされるしかない”という諦めを一つ壊した瞬間でもあった。


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