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マッチングアプリでマッチした相手は異世界の第三王女でした。〜召喚された最強クラフトマンは、崖っぷち小国を立て直して無双する〜  作者: 富益 啓


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第91話 公開裁定

公開裁定の前夜、リゼリアは王城奥の静養室に呼ばれた。


侍医と侍従が下がったあと、父王は痩せた手を寝台の縁に置いたまま、細く息を吐く。


「……リゼリア」


「はい」


「明日、兄上と公の場で向き合います」

リゼリアは膝をついたまま、まっすぐ顔を上げた。

「もう逃げません」


長い沈黙のあと、王はかすれた声で言った。


「……嘘をつくな。お前も、あれも」


短い言葉だった。

だが、それは病床で眠るだけの人間の声ではなかった。


公開裁定の日、王城大広間は異様な静けさに包まれていた。


貴族。

実務官。

兵の代表。

地方領主。

そして、限られた民間証人まで入っている。

隠し通す気のない、完全に見せるための場だった。


何より空気を変えたのは、国王の臨席だ。


玉座ではない。

補助椅子に深く座り、侍医と侍従に支えられている。

顔色は悪く、声も弱い。

だが確かにここにいる。


「……始めよ」


細い沈黙のあと、国王のかすれた声がもう一度落ちた。

「……二人とも、余に嘘をつくな」

前夜、静養室で聞いたのと同じ声音だった。

その声のあと、翳んだ眼差しが一瞬だけリゼリアへ向く。

責めるでも、庇うでもない。

ここまで一人で立たせたことへの、父としての遅い悔いのように見えた。


その二言だけで十分だった。

父王が不在だから、と言い訳してきた連中の逃げ道が消える。


ガルドはそれでも余裕を崩さなかった。

王族の正装を纏い、いつものように整った笑みを浮かべている。


「このような場を設けたこと自体、残念です」

開口一番、彼はそう言った。

「第三王女派が、継承を有利に進めるため末端の混乱を誇張しているにすぎません」


ざわめき。

だがガルドは続ける。


「青鷹? 密輸? 国外勢力との内通? いずれも証拠の薄い話だ。地方で起きた小競り合いと、王都の騒ぎを無理に結びつけているだけでしょう」


見事なくらい切り捨てる。

その図太さだけは感心した。


そして、その図太さは効いていた。

傍聴の貴族の何人かが、ほっと息を吐くのが分かる。

ガルド派に賭けた者たちだ。

やはり第二王子は崩れない――そう思いたい顔が、まだ会場に残っている。

民間証人の側にも、落ち着かない視線が走った。

王族を相手取る裁定で勝つ側を見誤れば、後がどうなるか分からない。

長く玉座のそばにい続けた人間の、底の知れない威圧。

それは確かに、まだ会場の半分を縛っていた。


リゼリアは正面から受けて立つ。


「では、順に確認しましょう」


証人として呼ばれたのは、辺境伯アルヴェイン、兵站局書記、押収倉庫の管理人、そして南村反乱未遂で捕えた工作員たち。

誰もが別方向から同じ流れを指し示す。


最初に立った民間証人は、王都西区で香辛料を商っていた女だった。

声は、最初から震えていた。

「……うちの蔵を、月に二度、夜だけ貸せと言われました」

「断れば、商いの許可を取り上げると」

誰に言われたのか、と問われると、女は一度だけガルドの方を見て、すぐに目を伏せた。

口にするのが、怖いのだ。

つい先日まで、次の王と目されていた相手なのだから。

それでも女は、膝の上で手を握りしめて続けた。

「貸した蔵から、鉄の匂いがしました。香辛料の蔵から、です」

証言は短い。

だが、震える声で語られたぶん、どんな帳簿よりも生々しかった。

傍聴席のあちこちで、似た顔が小さく頷いている。

言えずに飲み込んできた話を、誰かがやっと代わりに口にした――そういう頷きだった。


食糧の遅配。

偽造通行証。

帝国印入り軍需。

青い羽根章。


それでもガルドは笑みを崩さない。


「末端の不正を、なぜ私へ結びつける?」


そこでようやく、湊の番が来た。


「末端じゃ済まないからです」


大広間の視線が一斉に集まる。

かつて追放された異邦の職人が、今は公開裁定の中央へ立っている。

少し前の自分なら想像もしなかった光景だった。


でも、ここで引く気はない。

積み上げてきたものを、全部この場へ持ってきたのだから。


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