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マッチングアプリでマッチした相手は異世界の第三王女でした。〜召喚された最強クラフトマンは、崖っぷち小国を立て直して無双する〜  作者: 富益 啓


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第9話 枯れた水利盤

王城の廊下を走りながら、湊は「異世界に来た実感って普通こういう形だっけ」と考えていた。


王女と護衛と一緒に、城の地下を全力疾走。

しかも向かう先は、水道の中枢設備らしい。


「王国のライフライン、脆すぎない?」


「脆いから困っているのです!」


リゼリアが珍しく語気を強めた。

そのまま少しだけ気まずそうに、「……失礼しました」と付け足す。


地下通路を抜けた先には、巨大な円形の部屋があった。

中央に据えられた石と金属の複合装置が、低く唸っている。歯車のような環が何重にも重なり、青い液体のような光が管の中を流れていたが、その流れはところどころで途切れ、外周の細い水路はほとんど干上がっていた。


部屋の隅には、技師らしき男たちと使用人たちが何人もいる。

誰もが焦った顔で、しかし手は止まっていた。


「なぜ止まってるんです」

リゼリアが問う。


技師の一人が汗だくで答えた。


「第七環と第九環の位相が噛み合わず……無理に回すと主軸が割れます!」


湊は装置を見た瞬間、立ち止まった。


見える。


さっきよりはっきりと。

幾重にも重なった環の位置関係、魔力の流れ、擦り減った軸受け、微妙に傾いた支持金具、そして一部だけ妙に新しい交換部品。


「……ああ、そういう壊れ方か」


「分かるのですか?」

リゼリアが身を乗り出す。


「分かる。というか、これ、主軸が悪いんじゃない。交換した補助輪の厚みが合ってない」


部屋の空気が止まった。


技師たちが一斉にこちらを見る。


「な、何を言っている」

年配の技師が苛立った声を上げた。

「補助輪は規定どおりだ。貴様のような素人が見て分かるものではない!」


「じゃあ、なんで第九環だけ当たり傷が外側に出てるんです?」


湊が指差すと、男は口をつぐんだ。


近づいてよく見るまでもない。擦れた跡が円周の外へ偏っている。つまり、回転軸がわずかに浮いている。その原因は部品寸法のズレだ。


湊は工具箱を開いた。


「これ、部品作ったやつ、現物合わせした?」


誰も答えない。


つまり、したのだろう。規格で合わせるべきものを、場当たりで削って入れた結果がこれだ。


「カナンさん、そこ押さえてもらえます?」


「また私か」


「力仕事できる人、他にいない」


「……まあ、そうだな」


少し呆れた顔で、カナンが装置の外周環へ手をかける。

その腕力は頼もしすぎた。湊は問題の補助輪を外し、ノギスで寸法を測る。やはり規格よりわずかに厚い。たったそれだけで、全体が狂う。


「紙ヤスリ、いや違う、こっちか」


祖父の工具箱から、細い砥石板を取り出す。

石材と金属の合わせ面を均し、摩耗した軸受けの隙間には薄い真鍮片を噛ませる。応急処置だが、いま必要なのは完璧な改修ではなく、流れを戻すことだ。


「よし。ゆっくり回して」


技師はなおも半信半疑だったが、リゼリアのひと睨みで渋々レバーを引いた。


ご、と鈍い音。

次いで、止まりかけていた青い流れが管の中を一気に走った。


中央の環が噛み合い、外周水路へ水が満ちる。

壁の導管が鳴り、上層へ水が押し出されていく振動が床まで伝わった。


数秒後。


部屋の上部にある石窓から、噴水のような水音が届いた。


「戻った……!」

使用人の一人が叫ぶ。

「厨房の水路も生きました!」


部屋中に安堵の声が広がった。

さっきまで張りつめていた空気が、一気に緩む。


リゼリアははっきりと目を見開いていた。

カナンは腕を組み、感心半分、警戒半分の顔だ。


「お前、本当に何なんだ」


「俺も聞きたい」


それが本音だった。

こんな装置、本来なら初見で直せるわけがない。

なのに、自分の中には“分かる”感覚がある。祖父の工具箱は、それを補うために最適な道具を選ばせてくる。


ただし、喜んでばかりはいられなかった。

水利盤の外周に、湊はもう一つの違和感を見つけていたからだ。


補助輪の寸法ミスだけではない。

もっと根元に、意図的に狂わされた痕跡がある。


湊がそこへ視線を落とした瞬間、背後から重い足音が近づいた。


「姫殿下。中枢設備へ、よく分からぬ異邦人を立ち入らせたと聞きましたが」


振り返ると、濃紺の法衣を着た男が立っていた。

高い鼻、細い目、そして人を値踏みする表情。


彼が口元だけで笑った。


「まさか、あれを直したのがその男だと?」


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