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マッチングアプリでマッチした相手は異世界の第三王女でした。〜召喚された最強クラフトマンは、崖っぷち小国を立て直して無双する〜  作者: 富益 啓


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第84話 最強クラフトマンの戦争準備

クーデター当日までの二日間、湊はほとんど眠らなかった。


工房、兵舎、通信塔、穀倉、防壁。

王都のあちこちを走り回り、直し、組み替え、指示を出す。


朝は門の検問線を引き直し、昼は塔の信号手順を兵へ叩き込み、夜は穀倉の在庫を別倉へ移す。

合間に、買収された疑いのある部隊の配置をリゼリア派の兵とすり替える。

どれか一つでも漏らせば、そこから街が裂ける。

だから湊は、図面に書いた順番を一行ずつ潰すように進めた。


「お前、倒れるぞ」

カナンがさすがに眉をひそめる。


「倒れる前に準備終わらせる」


カナンは何か言いかけて、やめた。

代わりに、湊が走る先々へ黙ってついてくる。

水も、握り飯も、休めの一言も、必要な時にだけ差し出された。

止めても聞かないと分かっているなら、倒れないよう支える。

それが今の彼女の戦い方だった。


やることは多い。

だが湊の中では、全部が一枚の図面に収まっていた。


武器。

量産槍の補充部材を門ごとに分散。


防具。

結界板の展開訓練を最終確認。


補給路。

表の荷車列と裏の小運搬路を分け、どちらかが切れても回るように。


結界。

王都の既存結界へ補助楔を打ち、局所的に厚みを足す。

全体を張り直す時間はない。

だから、火の手が上がりやすい木造区画と、人が殺到する広場だけを選んで補強する。

守りは、薄く広くより、要所を厚くだ。


避難経路。

民間人の逃げ道を、兵の進軍路と交差しないよう再指定。


一つ一つは、これまで各地で積み上げてきたことの応用だ。

補給路を途切れさせない考え方は、地方の物流再建で磨いた。

避難と進軍の分離は、王都防壁の再設計で引いた線そのまま。

新しい発明は何もない。

ただ、別々の場所で作ってきた仕組みを、王都という街一つ分へ繋ぎ直している。

規模だけが違う。


「本当に全部見えてるんだな」

辺境兵の隊長が呟く。


「人が作った街ですから」


それが湊の強さだった。

剣で斬る代わりに、敵の切り札が通らない盤面を先に作る。

相手が暴れる前に、勝ち筋を固定してしまう。


カナンが百人斬る英雄なら、湊は百人が斬り合わずに済む形を引く職人だ。

派手さはまるでない。

だが、強国に飲み込まれかけた小国を立て直すのに要るのは、たぶん後者だった。

英雄は一人で十分でも、街を支える手順は一人では足りない。

湊が二日間で配ったのは、武器でも結界でもなく、その手順だった。


工房の中央には、王都の縮小模型まで置かれた。

子どもの遊びみたいな木組みだが、門の開閉、塔の信号、荷車の詰まり方まで再現できる。

指揮官たちは最初こそ呆れていたが、一度触ればすぐ黙った。


「ここで詰まるのか」

「西路地を塞ぐと避難が死ぬ」

「北塔は囮を置かないと奪われる」


理解が早い。

人は実物より、動く模型の方が直感で飲み込める時がある。

それに、模型なら誰でも触れる。

身分の高い指揮官も、現場上がりの古参兵も、同じ木組みの前では対等だ。

湊が一番欲しかったのは、その対等さだった。

明日、命令系統が乱れても、全員が同じ盤面を頭に入れていれば、街は勝手には崩れない。


「戦う前から勝てそうに見えてくるの、ずるいな」

カナンが模型を覗き込みながら言う。


「勝てそうじゃなくて、勝ちやすくしてる」


「同じだ」


同じではない。

だが、その差を説明する暇はなかった。


二日目の夕刻、王都の主要配置が完了する。

兵の顔つきは、昨日までとまるで違った。

ただ不安に怯えている顔ではない。

自分の立つ場所と役目を知っている兵の顔だ。


辺境で一度見た顔だった。

量産槍を握って「俺たちでも戦える」と気づいた、あの兵たちと同じ目。

装備が変えるのは、勝率だけじゃない。

立っている人間の背筋を変える。


戦争準備というと、剣を研ぎ、魔法を溜めることのように思われがちだ。

でも本当は、混乱しない仕組みをどれだけ先に置けるかで決まる。


最強クラフトマンの戦争準備は、そういう意味でまさしく戦争そのものだった。


街の組み替えは、二日でほぼ片づいた。

模型の上では何度も勝った。

だが本物の王都は、木組みより遥かに重く、遥かに脆い。


そして、最後にもう一手だけ残っている。

盤面をいくら整えても、最後に立つのは生身の兵だ。

その兵たちの手へ、直接“守れる”を握らせること。

結界板の、全軍への配布だった。


毎日21時更新予定。お気に入り登録ぜひよろしくお願いします。

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