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マッチングアプリでマッチした相手は異世界の第三王女でした。〜召喚された最強クラフトマンは、崖っぷち小国を立て直して無双する〜  作者: 富益 啓


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第81話 継承会議

継承会議の招集は、朝焼けより冷たく王都へ広がった。


理由ははっきりしている。

国王の病状が、ついに隠しきれないところまで悪化したからだ。


病が公になるまで、王都は長いこと「父王陛下は御静養中」で押し通してきた。

その建前が崩れた瞬間、誰が次の玉座に座るかという問いが、堰を切ったように噴き出す。

継承会議とは、要するにその問いへ無理やり蓋をするための場だった。


「父王陛下は、本日も御簾の向こうです。なお第一王女セレスティア殿下は東方諸国への長期使節の途上にあり、帝国補給線の東方迂回を外交的に封じる交渉を続けておられ、本日は書簡のみが届いております」

案内役の侍従が硬い声で告げる。


書簡は、会議の冒頭で読み上げられた。


『東方三国は、帝国の迂回補給を公には認めない。代償として、我が国の街道復旧実績と通信塔短縮記録を提出済み。リゼリア、数字は使った。あなたの現場は外交でも武器になる』


短い。

だが、褒め言葉なのか命令なのか分からない強さがあった。


リゼリアが小さく息を吐く。


「姉上らしいです」


「会ったことないけど、怖い人なのは分かった」

湊が小声で言う。


「怖いですよ。味方なら、とても頼もしいですが」


書簡には、東方三国の押印が律儀に並んでいた。

湊が直した街道と通信塔の記録が、こんな遠くの外交卓まで運ばれている。

辺境で泥をさらった一日が、巡り巡って帝国の補給線を一本封じている。

そう思うと、繋がった流れの大きさに、少しだけ目眩がした。


正面の玉座は空。

その奥、薄い帳の向こうに人影だけがある。

王がいないわけではない。

だが、政を握れる状態でもない。

その事実が、会議場の全員へ無言で突きつけられていた。


第二王子ガルドは、最初から勝った顔で座っていた。

背後には軍務寄りの貴族と、王都の大商会。

一方のリゼリア側は数では劣る。

だが、辺境伯アルヴェイン、地方領主代表、工務と兵站の実務官が並んでいる。


「これ、数だけ見たら向こう有利だな」

湊が小声で言う。


「数だけならな」

カナンが壁際で答えた。


会議は形式通り、継承候補の実績提示から始まった。

ガルドは軍備強化と外交安定を誇った。

強国との協調。

王都治安の維持。

王家威信の保持。


綺麗に整った言葉だ。

だが湊には、その全部の裏へ見覚えのある歪みが見えてしまう。

強国との協調――その実態は、80話で掘り当てた帝国への送金だ。

王都治安の維持――その裏では、青鷹が膿を流し込んでいた。

ガルドの実績は、どれも資金源を一段めくれば色が変わる。

ただ、この会議でそれを言えば、証拠の出し方を相手に教えるだけになる。

だから湊は黙って、札の切り時を待った。


次に立ったリゼリアは、紙を何枚も持ち込んでいた。

だが読み上げ方は冷静だった。


「辺境伯領における穀倉再稼働率、七割二分」

「北東補給路の通行時間、従来比四割短縮」

「地方兵の損耗率、結界板配備後三割減」


派手な言葉は一つもない。

それでも会議場の空気が確かに変わる。

数字は、ごまかしにくい。

しかもその数字の多くが、ここにいる実務官の現場報告と一致していた。


「第三王女殿下」

ガルドが口元だけで笑う。

「地方の小手先を、国家運営と同列に語るおつもりですか」


「小手先で済むほど、兄上は民を見ておいでなのですね」

リゼリアは一歩も引かない。

「飢えた兵と止まった物流の上に、王国の威信は立ちません」


場がざわつく。

特に、実務官たちの目の色が変わった。

彼らは数字の出どころを知っている。

飢えた兵も、止まった物流も、紙の上の比喩ではなく、自分が処理しきれなかった現実だ。

リゼリアの言葉は、その現実を初めて会議の卓へ載せた。


御簾の向こうの人影は動かない。

でも、もうこの会議は形だけでは終わらないと誰もが感じていた。


湊は横からガルドを見た。

表情は余裕を保っている。

だが指先だけが一定のリズムで机を叩いている。

焦れている証拠だ。


継承会議は、その日だけでは決着しなかった。

けれど一つだけ明らかになった。


リゼリアは、もう“押し込められるだけの第三王女”ではない。

王都の正面で、数字と成果を持って兄へ対抗できる位置まで来ている。


その土台を作ったのが自分だと思うと、少しだけ不思議な気分になる。


会議終了後、リゼリアが振り返りざまに小さく言った。


「まだ始まりです」


「分かってます」


本当に、まだ始まりだった。

継承会議はただの討論ではない。

王都決戦の号砲そのものだった。


会議を終えて廊下へ出たところで、ガルド付きの侍従がリゼリアを呼び止めた。

兄上が、私的回廊でお待ちです、と。

公の卓で崩せなかった話を、人目のない場所で続けようというのだ。

そこで出てくる言葉が穏やかなはずもない。

湊にはもう、嫌な見当がついていた。


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