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マッチングアプリでマッチした相手は異世界の第三王女でした。〜召喚された最強クラフトマンは、崖っぷち小国を立て直して無双する〜  作者: 富益 啓


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第80話 第二王子の資金源

金の匂いは、だいたい紙に残る。


押収した帳簿、倉庫印、通行証の控え、青鷹の受け渡し印。

それらを一晩かけて並べ替えた結果、一本の線が浮かび上がった。


作業は深夜に及んだ。

机を三つ並べ、時系列で左から右へ。

品目は上下で分け、合わない数字には赤泥の印。

帳簿読みは祖父の工房で散々やらされた。

あのころは納品書の束だったが、やることは同じだ。

紙は、並べ方を変えるだけで白状を始める。


王都西区の香辛料商会。

南街道の関税抜け。

第二王子派近臣名義の軍需発注。

そして、帝国側商人への不自然な送金。


「これ、綺麗すぎるくらい繋がるな」

湊が呟く。


「つまり真っ黒ということです」

リゼリアが冷静に返す。


帳簿に残された数字自体は巧妙だった。

だが、物の規格と移送回数が合わない。

例えば槍頭百本分の鉄しか入っていないのに、帳簿上は二百本分の護送費が動いている。

消えた差額が、どこへ行ったかを追えばいい。


差額は三度両替され、二度名義を変え、最後は香辛料の仕入れ代金の顔をして国外へ出ていた。

手口は手慣れている。

だが、辺境で押収した受け渡し印が、その経路の結び目に同じ顔で何度も現れる。

偶然と言い張るには、あまりに几帳面だった。


「密輸利権だ」

再建特区の成果報告のため王都へ上がっていたアルヴェインが、報告書を握りつぶさんばかりの手つきで言う。

「足りない装備で辺境兵が死んだ裏で、王都は金を回していたのか」


会議室の誰も、すぐには言葉を返せなかった。

アルヴェインの領地では、曲がった槍で国境へ立った兵がいた。

保存食がなく、空腹のまま歩いた隊があった。

その原因の一端が、いま目の前の帳簿に数字として並んでいる。

怒りというより、底冷えに近い静けさだった。


「しかも外へ売ってます」

湊は次の紙を差し出した。

「この印、帝国軍需の箱印と一致する」


会議室が静まり返った。


これまでは疑いだった。

第二王子が外と繋がっている。

青鷹が国外勢力の手先だ。

その話が、ついに誰の目にも分かる形になった。


同日の午後、王都西区の倉庫群へ一斉捜索が入った。

表向きは香辛料、染料、乾燥薬草。

だが奥の隠し床を剥がせば、軍需向けの鉄材と通行証の偽造板、それに青い羽根章の束が出てくる。


「綺麗に積んでんなあ」

カナンが呆れる。


「こういうのだけは几帳面なんだよな」


湊は積み荷を一段ずつ降ろさせ、数えながら目録へ落とした。

規格で揃った箱は、皮肉なことに数えるのも早い。

鉄材の本数、印章の数、偽造板の版の種類。

夕刻には、裁きの場へそのまま出せる精度の目録が三部できあがっていた。


現場の責任者はその場で取り押さえられた。

だが本当に大きいのは、物証より空気だった。


王都の役人たちが、もう“噂”として処理できなくなったのだ。

第二王子派の顔色は変わり、これまで中立を気取っていた貴族まで距離を取り始める。


夜の社交場では、もう賭けの種目が変わったという。

第二王子が逃げ切れるか、どこまで切り捨てるか。

風向きというものを、王都ほど正直に映す街もない。


「兄上はまだ切り捨てるでしょう」

リゼリアが言う。

「末端が勝手にやった、と」


「なら、末端から上へ登るしかない」


湊は押収帳簿の最後の一枚を見た。

そこには、王都中枢の誰かへ繋がる大口の記号送金が記されている。

まだ名前は出ない。

だが、王城内部の上位者が噛んでいるのはほぼ確実だった。


記号送金の符牒は、これまでのどの帳簿とも書式が違う。

末端の雑さがなく、慣れた手の静かさだけがある。

長く中枢にいて、長く疑われたことのない誰か。

湊は、ふと先夜の工房を思い出した。

捕縛者名簿ではなく、帳簿の山へ落ちた視線。

……まだ、決めつける段階じゃない。

湊はその引っかかりを、頭の棚の一番手前へ置いた。


「内部の敵は第二王子。外部の敵は強国の網」

カナンが肩を鳴らす。

「やっと、全員が同じ盤面を見たな」


本当にその通りだった。


盤面が見えるまでに、ずいぶん遠回りをした。

召喚されて、改革して、追放されて、辺境から積み直して。

でも、その遠回りで拾ったものが、全部この卓の上で札になっている。


ここから先は、言い逃れを削る戦いだ。

継承会議も、公開裁定も、全部この延長線上にある。


王都の夜景を見下ろしながら、湊は静かに息を吐く。


ようやく敵の輪郭が揃った。

なら次は、その中心を折るだけだ。


窓の外、王城の一角にはまだ灯りが残っている。

第二王子の宮の方角だ。

あちらも眠れない夜だろう。

眠れないまま朝を迎える回数は、これから先、向こうの方が多くなる。

湊はそう確信して、ようやく工房の灯りを落とした。


毎日21時更新予定。お気に入り登録ぜひよろしくお願いします。

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