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マッチングアプリでマッチした相手は異世界の第三王女でした。〜召喚された最強クラフトマンは、崖っぷち小国を立て直して無双する〜  作者: 富益 啓


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第78話 強国の最後通牒

王都の空気が少し持ち直したところで、今度は外から殴られた。


グランゼル帝国の使節団が、改定条約案を持ち込んできたのだ。


内容は一方的だった。

関税引き上げ。

通商路の優先権譲渡。

軍需物資検査権の共同化。

そして、有事の際の帝国軍一時駐留。


一つ一つは、外交文書の体裁を保っている。

だが四つ重ねれば意味は一つだ。

ルーメリアの血管へ、帝国の指を差し込む。


「侵略を紙で包んだだけじゃないか」

湊は文面を読んで顔をしかめた。


「ええ」

リゼリアも冷えた声で言う。

「しかも、断れば“友好を軽んじた”と騒げる形になっています」


使節団の到着は、不自然なほど手際がよかった。

王都の政情が荒れ、第二王子派の醜聞が出回り始めた、まさにそのタイミング。

内側の網と外側の網が、同じ図面で動いている証拠みたいなものだ。


使節の代表は、いかにも洗練された笑みを浮かべた男だった。

グランゼル帝国外務卿補佐、レオンハルト・ヴァイス。

戦場より先に条約で国を折る、と噂される帝国の交渉役だ。

会談の場で一切声を荒らげないくせに、譲歩する気もない。


会談で、レオンハルトは一度だけ湊へ目を向けた。


「噂はかねがね。辺境の奇跡の職人殿」


「奇跡は使ってません」


「ええ、存じています。だから厄介なのです」


笑みの形は変わらないのに、目だけが値踏みを終えていた。

この男は、湊を客寄せの英雄ではなく、再現可能な国力として見ている。

一番正確で、一番危険な見方だった。


「ルーメリア王国の安定のためです」

レオンハルトは言う。

「周辺情勢は不穏ですから」


不穏にしているのが誰か、もはや言うまでもない。


湊は条約案の数字を追いながら、別の寒気を覚えた。


「これ、戦争だけ見てません」


会談後、私室へ戻ってからすぐ口にすると、リゼリアが視線を上げた。


「どういう意味ですか」


「経済封鎖の準備です。通商路を握って、検査権で物流を詰まらせる。軍を出さなくても国を干上がらせられる」


辺境で見た。

流れを少しずつ止めるだけで、村は勝手に弱る。

強国がそれを国家規模でやろうとしているのだ。

しかも軍を出すより、ずっと安い。

兵糧も死者もいらず、講和の席すら必要ない。

締めて、緩めて、また締める。

それだけで国は従順になっていく。

祖父の図面に防壁や穀倉が多かった理由が、また一つ重く理解できた。


「兄上が喜ぶわけです」

リゼリアの声が低くなる。

「従属してでも生き残れ、という理屈に繋げやすい」


「だからこそ断るなら、こっちも備えが要る」


その日の夕刻、王都会議でリゼリアは正式に条約案の保留を宣言した。

完全拒絶ではない。

だが相手のペースへ乗らない、という明確な拒否だ。


保留の理由付けも周到だった。

曰く、国内の不正経理の調査中につき、関税と検査権の協議には正確な数字が必要である。

嘘は一つもない。

そして帝国側は、その“不正経理”の出どころを誰より知っている。

知っているからこそ、強くは押せない。


第二王子派はざわつき、帝国使節は微笑を崩さない。

けれど、その場にいた兵と実務官の何人かは、確かに安堵した顔をしていた。

売られないで済むかもしれないと初めて思えたのだろう。


散会の際、レオンハルトはリゼリアへ優雅に一礼した。


「ご賢明な判断を。期限は、長くはありませんが」


「ご忠告痛み入ります。我が国の時間は、我が国で決めます」


笑顔と笑顔の応酬は、剣戟より音が静かなだけだった。


夜、湊は王都の物流図を広げた。

港、街道、穀倉、関税所。

帝国がどこを詰まらせたら一番効くか、嫌でも見えてしまう。

見えるということは、塞ぐ場所も見えるということだ。

港には検量の独自記録を。

街道には迂回路の整備を。

穀倉には分散備蓄を。

湊は紙の端へ、対の手をひとつずつ書き足していく。


「外も本気だな」

カナンが言う。


彼女は地図の北端を指でなぞった。

国境の向こう、グランゼルの軍道。


「国境で働いてた頃に、向こう側も少し歩いた。あの国の道は、全部まっすぐで、全部広い」


「軍を速く動かすためか」


「そういう国だ」


短い言葉に、実感の重さだけがあった。


「だから内部を先に片づける」


外敵に正面から喧嘩を売る前に、王都の中で綱を引いている連中を切らなければならない。

最後通牒は脅しだ。

でも同時に、時間がないという合図でもあった。


期限、とレオンハルトは言った。

向こうが期限を切るのは、向こうにも事情があるからだ。

無限に待てるなら、わざわざ脅さない。

つけ込む隙は、たぶんそこにある。


そして湊には分かっていた。

次に本気でぶつかる相手の顔は、もう見えている。


毎日21時更新予定。お気に入り登録ぜひよろしくお願いします。

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