表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マッチングアプリでマッチした相手は異世界の第三王女でした。〜召喚された最強クラフトマンは、崖っぷち小国を立て直して無双する〜  作者: 富益 啓


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

75/78

第75話 王都防壁の再設計

王都の防壁は堅牢だ。

だが、堅牢であることと守りやすいことは別だった。


「高いだけで死角が多い」

湊は北門の内側から壁を見上げた。

「階段の導線も悪い。兵の交代で詰まる」


言いながら、湊は壁の継ぎ目を指でなぞった。

増築に増築を重ねた跡が、年輪みたいに残っている。

立派な壁だ。

ただ、足し算だけで百年やってきた壁でもある。

引き算と整理を、誰もしてこなかった。


工務局の技師たちが顔をしかめる。

昔からある王都防壁へ口を出されるのは、面白くないのだろう。

無理もない。

この壁は王都の誇りで、彼らの職歴そのものだ。

だから湊は、壊す話を一切しないと最初に決めていた。


「では、建て直すと?」

一人が皮肉っぽく言う。


「全部壊すわけないでしょう」

湊は門楼の図面を広げた。

「直すのは、詰まる場所と見えない場所です」


図面の上には、すでに赤い印が二十か所以上付いている。

階段の幅が急に変わる場所。

矢狭間同士で射線を潰し合う場所。

伝令と物資が同じ通路を逆走する場所。

技師たちは最初こそ腕を組んでいたが、三つ目の指摘あたりから誰も口を挟まなくなった。

全部、現場の兵が日頃ぼやいている場所だったからだ。


やったことは派手ではない。

射線が被る矢狭間の位置修正。

門楼内の交差通路を一方通行化。

非常閉鎖用の落とし格子へ補助楔。

民間人の退避通路を兵の動線から分離。


「守るって、壁を厚くすることじゃないんだな」

若い兵が感心したように言う。


「人が混乱しない方が強い」


実際、辺境で見てきた。

砦が落ちるのは、壁が壊れた時じゃない。

中の人間が、どこへ走ればいいか分からなくなった時だ。


さらに湊は、門前の石畳へ目印線を刻んだ。

荷車停止位置。

検問位置。

弓兵交代位置。

誰が立っても同じ運用ができるようにするためだ。


「目印通りに立つだけで、本当に変わるのか」


半信半疑の門衛長に、湊は荷車を三台続けて入れさせた。

以前なら検問と荷下ろしがぶつかって怒鳴り合いになる量だ。

それが、線の通りに止まり、線の通りに流れて、何も起きずに終わった。


「……何も起きないな」


「何も起きないのが、正解です」


「また規格化か」

カナンが笑う。


「再現できない守りは、その場の奇跡だから」


王都では、奇跡より運用の方が価値がある。

もし本当に強国が圧力を強めてきた時、守るのは英雄一人ではなく、城壁に立つ無数の普通の兵士だからだ。

カナン一人で百人斬れたとしても、門は四つある。

夜は毎日来る。

守りというのは、特別な誰かの腕前ではなく、普通の人間の続けられる手順でできている。


夕方、小規模な防衛演習が行われた。

以前なら門の開閉と兵の交代だけで混線し、怒号だらけになっていた。

だが新しい導線では、驚くほど静かに回る。

指揮官の声が通り、兵の足が止まらない。

交代にかかる時間は、計ってみればほぼ半分になっていた。

浮いた時間は、そのまま見張りの目に変わる。

壁の高さは一寸も変わっていないのに、守りは確実に厚くなった。


「これは……」

通信塔のとき湊に付いた、あの老技師が絶句した。

今度は防壁の側で兜を脱がされた格好だ。


「戦い方を変えたんです」

湊は門楼の梁を軽く叩く。

「壁そのものじゃなくて」


演習後、リゼリアが防壁上へ来た。

王都の夕景を背に立つ姿は、いつもより少しだけ近寄りがたい。


「あなたは本当に、戦うためのものだけを作っているわけではないのですね」


「どっちかっていうと、戦わなくて済む形を作りたいです」


本音だった。

強い防壁は、戦いに勝つためでもある。

でももっと先に、敵が攻める気を削ぐためにある。


リゼリアはその言葉を聞いて、細く息を吐いた。


「その考え方が、わたくしは好きです」


短い一言なのに、妙に胸に残る。


夕陽が壁の上を染めて、リゼリアの横顔の輪郭だけを光らせている。


「この壁は、わたくしが生まれる前からここにあります」


彼女は静かに続けた。


「ずっと、古くて当然のもの、変わらなくて当然のものだと思っていました。国も、同じだと」


「今は?」


「直せるものだと知っています。あなたのせいで」


せい、という言い方が、彼女なりの照れ隠しなのはもう分かっていた。


王都防壁の再設計は、その日で終わりではなかった。

だが湊ははっきり自覚した。

自分が作っているのは、壊すための最強装備ではない。

国を飲み込ませないための戦力なのだと。


帰り際、老技師が図面の写しを一部くれと言ってきた。


「孫が工務局に入る。読ませたい」


「どうぞ。直すところを見つけたら、教えてください」


「生意気を言う」


口は曲がっていたが、図面を持つ手つきは丁寧だった。


守りは、確かに厚くなっている。

そしてその厚さは、思ったより早く、本物の圧力で試されることになる。

北の大国が、もう動き始めていた。


毎日21時更新予定。お気に入り登録ぜひよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ