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マッチングアプリでマッチした相手は異世界の第三王女でした。〜召喚された最強クラフトマンは、崖っぷち小国を立て直して無双する〜  作者: 富益 啓


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第74話 通信塔を繋げ

王都の北塔から南の門まで、急報が届くのに二刻。

辺境ならさらに半日。


「遅すぎる」

湊は通信台の前で言った。


王国にはもともと古い烽火塔と伝令板の仕組みがあった。

だが保守不足と派閥の横槍で、今は半分死んでいる。

その遅さが、青鷹の偽情報を活かしていた。


湊が辺境からリゼリアと繋いでいた通話板は、無理やり通した細い専用線にすぎない。

国中の急報まで載せられる代物じゃない。


「早くすれば、そんなに変わるか?」

工務局の老技師が疑う。


「敵は一晩で噂を流すんですよ」

湊は塔の内部骨組みを見上げた。

「こっちが半日遅いだけで、もう負けです」


老技師は鼻を鳴らしたが、反論はしなかった。

彼自身、若いころは烽火塔の保守で国中を回った口らしい。


「直せるものなら直してみろ。だが塔の流路は、お前さんの生まれる前からあれだ」


「だから、生まれる前の図面から見ます」


再設計は、壮大な新築ではない。

既存塔の死んだ流路を活かし、短距離中継だけに絞る。

魔力を大量に食う遠距離通信を諦める代わりに、三里ごとの中継を確実に繋ぐのだ。


「豪華な一撃より、弱くても確実な連打」

カナンが言う。


「戦い方としてはお前の逆だな」


「失礼だな」


方針が決まれば、あとは手数だ。

湊は塔ごとに点検表を作り、死んだ流路と生きている流路を色分けした。

廃材で直せる塔。

部品の要る塔。

人手だけで済む塔。

全部を一度にやらず、繋がる順番だけを最優先にする。


最初に繋いだのは、王都北塔と南門塔、それに兵站局倉庫。

北塔から南門塔まで七里弱。

そこへ兵站局倉庫への枝線を足しても、三里ごとの中継が生きていれば十分圏内だ。

流れが安定した瞬間、板の光が連続して渡る。

これまで二刻かかった連絡が、十分足らずで届いた。


「……来た」

書記官が呆然と呟く。


「もう一回」

湊は言う。


二度、三度。

誤差を測る。

どの時刻で乱れるか確認する。

ただ繋がっただけで満足しないのが、湊の悪い癖でもあり強みでもあった。


計測には老技師が付き合った。

最初は監視のつもりだったらしいが、三度目には自分から記録板を持ち、五度目には若手へ怒鳴っていた。


「貴様ら、誤差を笑うな! わしらが若いころは、この塔は国の自慢だったんだ!」


死にかけていたのは、塔だけではなかったらしい。


数日後には、王都周辺七塔が一本の網になった。

辺境伯領とも、途中中継を挟めば日内に往復できる。


網の完成を確かめる試験文は、こうだった。


『各塔へ。本文に誤りあれば申告せよ。誤りなければ夕刻の鐘を一度』


夕刻、七つの塔の鐘が、ほとんど同時に鳴った。

王都の端と端が、初めて同じ時刻を共有した音だった。


効果はすぐ出た。

南門の火災騒ぎが誇張される前に鎮火報告が届く。

西穀倉の在庫不足という偽情報が、その日のうちに訂正される。

噂で米袋を抱えて走る者が出る前に、役所の前へ正しい在庫数が貼り出される。

たったそれだけのことを、この国は長いことできずにいた。

青鷹が得意としてきた“遅れを利用する嘘”が、目に見えて効きにくくなった。


逆に言えば、青鷹は次の手を変えてくる。

速い網には、速い網への毒がある。

偽の急報、偽の招集、本物に混ぜた一枚の紙。

湊は中継塔ごとに確認印の手順を決め、出どころのない報せは網に乗らない形へ組んだ。

道具は、使う側の覚悟までは作ってくれない。

だから、手順で守る。


「統治が戻ってくるな」

リゼリアが塔上で王都を見下ろしながら言う。


「情報が先に届くと、人は慌てにくいですから」


リゼリアは塔の手すりへ手を置き、街並みを長いこと眺めていた。


「子どものころ、この塔は登ってはいけない場所でした」


「今は?」


「国で一番、遠くまで見える場所です」


言葉の意味は、景色だけの話ではなさそうだった。


「あなた、最近ずっと国のことをそんなふうに見ていますね」


言われて、湊は少しだけ笑った。

否定できない。

剣や鎧を直していた時より、今の方がずっと国全体を見ている気がする。


風が塔上を抜ける。

下では通りを人が行き交い、荷車が曲がり、兵士が交代していく。

全部が流れだ。

だから繋がると強い。

そして繋がった流れは、誰かが守り続けなければまた死ぬ。

湊は保守の当番表を七塔分書き上げ、工務局へ渡した。

作って終わりにしない。

それだけは、祖父の図面のどれにも共通する思想だった。


通信塔を繋げるというのは、ただ連絡を速くすることじゃない。

王都の主導権を、少しずつ奪い返すということだった。


ただし、速くなった網は、嘘も同じ速さで運べる。

そのことを一番よく知っているのは、たぶん湊ではなく、青鷹の方だった。


毎日21時更新予定。お気に入り登録ぜひよろしくお願いします。

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