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マッチングアプリでマッチした相手は異世界の第三王女でした。〜召喚された最強クラフトマンは、崖っぷち小国を立て直して無双する〜  作者: 富益 啓


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第71話 王都帰還

王都へ戻る道は、以前より短く感じた。


荷車の軸はぶれず、護衛隊の足並みも揃っている。

辺境伯領で積んだのは、物資だけじゃない。

成果そのものだった。


量産槍。

結界板。

保存食包み。

治具。

市場の取引記録。

再建前後の収量比較。


どれも、王都で言い逃れしにくい形に整えてある。


「戦利品っていうより、報告書の山だな」

馬上のカナンが言う。


「王都相手にはこっちの方が効く」


実際、王都の外門へ着いた瞬間、空気が違った。

前に追い出されたときは、視線が冷たかった。

今はざわめきがある。


「あれが辺境を立て直した職人か」

「第三王女殿下の……噂の」

「国境砦を取り返したって」


噂が先に帰ってきていた。


噂の速さは、王都の体質そのものだ。

失脚のときは、その速さに足をすくわれた。

今は同じ速さが、追い風になって背中を押してくる。

都合のいい話だとは思う。

でも、風向きを変えたのはこっちの仕事だ。


門番の態度まで違う。

以前は露骨に嫌味を言った連中が、今日はやけに丁寧だ。


「ご帰還、お待ちしておりました」


「待ってたなら、もう少し楽な顔して言ってほしいですね」

湊が返すと、門番は乾いた笑みしか返せなかった。


隣でカナンが噴き出すのを堪えている。


「お前も性格が悪くなった」


「王都仕込みだ」


王都へ入ると、さらに分かりやすかった。

工務局の役人。

兵站局の書記。

あの時は距離を取った商会関係者まで、向こうから近づいてくる。


「辺境伯領での改修、ぜひ詳しく」

「もし可能であれば、我が局とも情報共有を」

「以前の件は誤解も多く……」


「露骨すぎるだろ」

カナンが小声で呟く。


「王都ってそういう場所なんだろ」


寄ってくる顔ぶれを、湊は一人ずつ覚えた。

追放のとき黙っていた者。

遠巻きに笑っていた者。

そして、あの日も今日も態度の変わらない、ごく少数。

誰を信じるかの名簿は、向こうが勝手に書いてくれる。


王城へ入る前に、湊は一度だけ立ち止まった。

見上げた防壁は相変わらず高い。

けれど以前より、継ぎ目や死角がはっきり見える。

今なら、どこを握ればこの街の流れを変えられるか分かる。


迎えに出たのは、リゼリア本人だった。

王城前庭の階段を下りてくる姿を見た瞬間、湊は少しだけ息を止める。

前に別れた時より痩せている。

それでも背筋は伸び、顔は上がっていた。


「おかえりなさい」


その一言が、思った以上に重かった。


「戻りました」


形式ばった挨拶のはずなのに、少しだけ私的な響きが混じる。

周囲の視線があると分かっていても、リゼリアは数歩分近い位置まで来た。


「辺境の報告は受けています。予想以上でした」


「そっちは?」


「予想通り面倒でした」


その返しに、二人とも少しだけ笑う。

それだけで、空気が柔らかくなった。


「痩せましたね」


思わず言うと、リゼリアは目を丸くし、それから困ったように微笑んだ。


「あなたは、そういうことを最初に言うのですね」


「そういう契約なので」


「……減点です。でも、心配は受け取っておきます」


だが王城の中へ入れば、すぐに現実が待っていた。

政務棟の廊下では第二王子派の貴族たちが睨み、遠巻きの役人は値踏みし、どこからか視線だけがぴたりと貼りついてくる。


「歓迎一色ではないな」

湊が低く言う。


「ええ」

リゼリアも同じ声量で返す。

「ですが、以前とは違います。今回は、追い出したい側が先に理由を用意しなければなりません」


その一言で十分だった。

辺境の成果は、王都の空気を確かに変えている。


夕方、仮会議の席で再建記録を開示すると、追放時に沈黙していた役人たちが今度は前のめりになった。

収量の回復。

輸送時間の短縮。

兵の損耗率低下。


数字は、王都の人間に一番効く言葉だ。


湊は記録の出どころも全部添えた。

帳簿の原票、関所の控え、立ち会った役人の署名。

数字だけなら、いくらでも疑える。

疑う隙を先に潰しておくのが、追放されてから覚えた王都流だ。


「これを本当に一か月で?」

書記官が震える手で記録板をめくる。


「一か月で“全部”ではありません」

湊は淡々と答えた。

「一か月で回り始める形を作っただけです」


その言い方が、逆に場を黙らせた。

奇跡ではなく、再現可能だと言っているのと同じだからだ。


王都帰還は終わった。

でも、ここから先は凱旋じゃない。


歓声は一晩で冷める。

数字も、すぐに古くなる。

明日からは、辺境で通じたやり方が王都の規模で通じるかどうかの勝負だ。


戻ってきた場所で、今度は王都そのものの流れを奪い返す番だった。


毎日21時更新予定。お気に入り登録ぜひよろしくお願いします。

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