第7話 召喚先は王城の地下
最初に見えたのは、青灰色の瞳だった。
画面越しに見たものよりも、ずっと生々しく、切迫している。
少女は豪奢なドレスを着ているはずなのに、裾は裂け、袖口には煤がついていた。金に近い薄い髪は乱れ、それでも背筋だけは不自然なくらい真っすぐだ。
「……本当に、来てくださった」
掠れた声でそう言った少女が、リゼリアだった。
湊は半身を起こし、周囲を見回す。
石造りの広い地下室。壁一面に刻まれた複雑な紋。部屋の中央には、さっき自分が立っていたものと似た円陣が薄く光っている。天井からは青白い照明石が吊られているが、いくつかは割れていて、室内は不安定な明るさだった。
そして、リゼリアの横にはもう一人いた。
長身の女だ。
褐色寄りの肌、燃えるような赤茶の髪、鋭い金色の目。彼女は大剣を抜き、湊の喉元へぴたりと切っ先を突きつけている。
「動くな。姫様、下がって」
低い声だった。
反射で分かる。この人は、ためらわず斬れる側の人間だ。
「いや、待って待って。来いって言われて来た側なんだけど」
「それを証明しろ」
「証明しろって言われても」
喉元の剣先が一ミリもぶれない。
湊は両手を上げかけて、片手に工具箱を握ったままだと気づいた。
リゼリアがその工具箱を見るなり、表情を変えた。
「その留め金……」
湊もつられて見下ろす。真鍮の留め具には、蔵の扉やアプリにあったものと同じ紋が刻まれていた。
「源蔵殿の工房印です」
リゼリアは、確信したようにそう言った。
大剣の女――たぶん護衛だろう――はなおも警戒を解かなかったが、切っ先だけはわずかに下がる。
「姫様、見た目はただの男です」
「ただの男でしたら、あの接続術式は通りません」
冷静に返しつつも、リゼリアの肩は小さく震えていた。
緊張が解けかけているのだと分かる。
湊はやっと立ち上がった。
足はまだ少しふらつくが、怪我はなさそうだ。
「……で、ここどこですか」
「ルーメリア王城の地下封印室です」
「王城」
「はい」
「地下」
「はい」
「ああ、うん。思ったより異世界だな」
その場にそぐわない自分の感想に、赤茶の髪の女が怪訝そうに眉をひそめた。逆にリゼリアは、ほんの少しだけ笑いそうになって、すぐ真顔に戻る。
「申し遅れました。わたくしはリゼリア・ルーメリア。ルーメリア王国第三王女です」
「……相沢湊です。たぶん、呼ばれた人です」
「ミナト」
リゼリアは確かめるようにその名を繰り返した。
「こちらでは姓で人を呼ぶことがあまりありません。そう呼ばせてください」
「私はカナン。姫様付きの護衛」
名乗りと同時に、カナンは剣を収めた。
だが、信用したわけではないと目が言っている。
そのとき、地下室全体が大きく揺れた。
天井から砂が落ちる。
壁に走る光の線の一部が、ぶつりと切れた。
カナンが舌打ちする。
「上じゃない。封印室の外周結界を割られてる」
「早すぎます……」
リゼリアの顔色が変わる。
湊は揺れる壁へ視線を向けた。
その瞬間、また見えた。
石壁の奥を走る線。
割れた導線。
そこへ故意に挟み込まれた異物。
まるで、壊れた機械の内部図が頭の中へそのまま流れ込んでくるみたいに。
「……そこ、直せば閉じる」
湊が思わず呟くと、リゼリアとカナンが同時にこちらを見た。
次の瞬間、封印室の外から金属の裂ける音が響いた。
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