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マッチングアプリでマッチした相手は異世界の第三王女でした。〜召喚された最強クラフトマンは、崖っぷち小国を立て直して無双する〜  作者: 富益 啓


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第57話 王女からの着信

それは、久しぶりに映像付きで繋がった通話だった。


深夜。

スマホの画面が震え、リゼリアの名が出る。

いつもの文字だけではない。

映像接続。


保守画面で見た接続安定率は、今だけ異様に高い。

蔵と王城地下、両側の錨点が噛み合った時しか映像までは通らない。

普段は短い文字が届くだけだ。


「……出るぞ」


湊は思わず姿勢を正した。

カナンも手を止める。


画面が明るくなり、少しノイズが走ったあと、リゼリアの顔が映った。


「こんばんは」


声はいつも通りだった。

でも、顔は少し違う。

頬が細い。目の下に影がある。笑っているのに、疲労がそのまま残っていた。


「……痩せた?」


「開口一番がそれですか」


「だって分かるし」


「そちらもあまり眠れていなさそうですよ」


言い返されて、少しだけいつもの空気になる。

そのことにまず救われた。


カナンが画面の端へ顔を寄せる。


「姫様、こっちは動いてる」


「見れば分かります」

リゼリアが小さく笑う。

「工房の壁が紙だらけです」


「こいつ止まらないんで」


「知っています」


たったそれだけのやり取りなのに、向こうとこっちがちゃんと繋がっている感じがした。


少し会話したあと、カナンが気を利かせたのか、本当に面倒になったのか、席を外した。


「飲み物」

とだけ言って。


二人きりになる。

画面越しの沈黙が、妙に近い。


「王都は」

と湊が切り出す。


「まだ、ひどいです」

リゼリアは正直に言った。

「兄上の側へ付く者も増えました。地方支援も削られています。ですが、完全には奪われていません」


「地方からの支持は残ってるって、あれ本当?」


「本当です。だから、まだ立て直せます」


疲れていても、言葉だけは折れない。

そこがこの王女の強さだ。


だからこそ、こっちも曖昧なことは言えなかった。


「俺、戻る」


リゼリアが静かに瞬く。


「ええ」


「今度は中途半端に戻らない」


机の上の図面へ視線を落とす。

量産槍、穀倉、荷車、携帯結界、通信。

全部まとめて持ち帰る気でいる。


「王都で濡れ衣着せられて追い出されたの、正直めちゃくちゃ悔しい」


「……はい」


「でももう、設備一個ずつ直すだけじゃ駄目なの分かった。だから今度は、国ごと立て直す」


言い切った瞬間、画面の向こうでリゼリアの肩がわずかに揺れた。


「だから、もう逃げない」


その言葉を聞いたあと、彼女はしばらく何も言わなかった。

目だけが、真っすぐこちらを見ている。

やがて、きゅっと唇を結ぶ。


「……ずるいです」


「え?」


「わたくしが言いたかったことを、先に言うのは」


その声で、ようやく限界が来たのだと分かった。

リゼリアは笑おうとした。

でもうまくいかない。

次の瞬間、目から一筋だけ涙が落ちた。


湊は息を呑む。

彼女が泣くところを、初めて見た。


「ごめん」


「なぜあなたが謝るのですか」


「いや、なんか」


「……帰ってきてください」


掠れた声だった。

王女としてではなく、リゼリアとしての声。


「必ず」


「はい」


彼女は涙を拭い、それでも最後にはちゃんと頷いた。


「待っています」


通話が切れたあともしばらく、湊はスマホを持ったまま動けなかった。

後ろから戻ってきたカナンが、何も聞かずに温かい缶コーヒーを机へ置く。


「見た」


「うん」


「泣いたな」


「うん」


「なら、急げ」


短い言葉だった。

でも十分だった。


戻る理由は、もう理屈だけじゃない。

向こうには国がある。

人がいる。

そして、痩せた顔で笑って、それでも待つと言った王女がいる。


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