第56話 量産型再建パッケージ
量産型再建パッケージ。
言葉にすると大層だが、やっていることは地味だった。
穀倉の床を浮かせるための木組み。
補修しやすい標準寸法の槍柄。
縄と金具だけで組める簡易防柵。
部材交換を前提にした荷車軸。
濁り水を一段抜くための簡易ろ過筒。
一つ一つは派手じゃない。
でも、全部“材料が足りなくても作れて、現地で直せる”に寄せていく。
「お前、これ全部向こうで作る気か」
カナンが図面の山を見て言う。
「全部じゃない。最初の一式」
「十分多い」
その言葉は正しい。
工房の床には部材見本が並んでいた。
ホームセンターで買ってきた木材、金具、ロープ、樹脂容器、簡易工具。
そのまま異世界へ持ち込めるものは限られるが、代替素材へ置き換えるための基準にはなる。
湊は一本の槍柄サンプルを持ち上げる。
「前の量産槍って、結局王都兵装庫の規格整理止まりだったんだよ」
「それでも十分強かったぞ」
「でも王都以外で再生産しにくい。今回は違う。辺境の鍛冶屋と木工でも揃えられる寸法に落とす」
次に穀倉用の木組み模型を示す。
「これも、上等な木材前提じゃない。硬木が足りなければ混材で回せるようにしてる」
「弱くならないか」
「寿命は少し落ちる。でも一年保てば次の収穫まで繋がる」
小国再建で重要なのは、十年もつ一点豪華主義じゃない。
次の季節を越えること。
その次の補修へ繋ぐこと。
そうやって“切れない”ことだ。
午後には、携帯結界具の試作品にも手を出した。
祖父の銀杭と現代の絶縁材を参考に、魔力の逃げを単純化した構造を組む。
完全版には遠いが、短時間だけなら兵士一人を守れる程度のものは作れそうだった。
カナンが腕を組んで見ている。
「それ、実戦で使えるのか」
「たぶん一回」
「一回?」
「一回でも矢を受け止めれば十分価値あるでしょ」
返すと、彼女は渋い顔のまま納得した。
戦場にいる人間の納得の仕方だ。
夜になるころには、工房の壁へ一覧表が貼られていた。
標準穀倉改修セット。
簡易水利補修セット。
量産槍セット。
携帯結界セット。
悪路荷車改修セット。
簡易防柵セット。
その横に、必要人員と必要日数。
さらに現代材料版と異世界代材版。
「パッケージ化、ってこういうことか」
カナンが言う。
「そう。誰が見ても、何人いれば、どれだけで作れるか分かる形にする」
「個人技じゃなくなるな」
「そこが狙い」
王都にいた頃の湊は、自分の手で直すことに全力を使っていた。
でも今必要なのは、自分がいなくても再現できる勝ち筋だ。
それは少しだけ寂しくもある。
職人としては、手の届く範囲を全部自分で触りたい。
でも国を立て直すなら、それじゃ足りない。
「お前、変わったな」
ぽつりとカナンが言った。
「そう?」
「王都にいた頃は、壊れてる物を見たらそこへ走っていた」
「今も走るよ」
「今はその前に、どう増やすかを考えてる」
その指摘は、少しだけ嬉しかった。
負けたことにも意味があるなら、たぶんそこだ。
直すだけでは勝てないと分かったから、回すところまで考えるようになった。
そして夜更け、工房の壁一面に貼られた一覧を見上げながら、湊はようやく思う。
これなら戦える。
まだ足りない。
でも、戻った瞬間にやるべきことは、もう紙の上で形になっている。
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