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マッチングアプリでマッチした相手は異世界の第三王女でした。〜召喚された最強クラフトマンは、崖っぷち小国を立て直して無双する〜  作者: 富益 啓


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第53話 祖父の設計図

祖父の図面は、一枚ずつ見るとただの設備設計に見えた。


水利盤。

穀倉。

防壁。

転移炉。

通信塔。


でも工房の床へ全部広げてみると、別の景色になる。


「同じだ」


湊は膝をつき、線を指で追った。

祖父の古いノギスを手にした瞬間、図面の線だけでなく、この古民家の床下を走る水道管と配線の流れまで薄く重なって見えた。

向こうへ渡ったときだけの感覚じゃない。

この力は、もう湊の中に根を張っている。


荷重の逃がし方、交換前提の継ぎ目、予備系統の置き方、材料が足りないときに簡略版へ落とすための注記。

設備は全部違うのに、発想だけが一本で繋がっている。


カナンも傍らへしゃがみ込む。


「見ただけじゃ分からん」


「だよね。でも作る側だと分かる」


祖父は“最高性能の一点物”を作ろうとしていない。

むしろ逆だ。

多少性能が落ちても、継ぎ足しやすく、壊れたときに現地の職人でも手が入れられるようにしている。


「これ、戦時設計だ」


「戦時?」


「平和な大国なら、最高級の材料で一番強い物を作ればいい。でも小国は違う。足りない前提で、壊れる前提で、奪われる前提で組む」


ルーメリアそのものじゃないか、と思った。


一つずつ直すだけでは駄目だった理由も、そこから見えてくる。

湊は向こうで、壊れた穀倉を直し、槍を直し、用水路を直した。

それは必要だった。

でも祖父の設計思想は、その先を見ている。


「個別修理じゃなくて、再設計」


口に出した瞬間、腑に落ちた。


「どう違う」

カナンが訊く。


「直すだけだと、次に壊れたらまた終わる。でも規格ごと作り直せば、別の町でも同じ直し方ができる」


「つまり、増やせる」


「そう。俺一人が全部直すんじゃなくて、直せる側を増やす」


その観点で見ると、図面の注記がさらに意味を持ち始めた。


『標準杭、三寸一分』

『代材可、硬木なら二季持つ』

『鍛冶師二名、木工三名で半日』

『初心者向け手順は別紙』


初心者向け。


祖父は最初から、自分以外が使うことを前提に書いている。


「じいちゃん、やっぱり性格が職人っていうか、現場監督なんだよな」


「褒めてるのか?」


「めちゃくちゃ褒めてる」


さらに図面束の下から、薄い重ね図が出てきた。

王国全体の地図に、設備同士の接続線が書き込まれている。

水利盤が穀倉へ、穀倉が兵站路へ、兵站路が防壁と転移炉へ。

都市設備の設計図というより、国そのものの回路図だ。


「これ、やばいな」


「悪い方で?」


「いい方でも悪い方でも。国の弱点が丸見え」


逆に言えば、敵がそこを狙う理由も見える。

青鷹がやっていたのは、まさにこの回路の途中を少しずつ腐らせることだった。


水を止める。

荷を遅らせる。

軍糧を抜く。

噂で判断を鈍らせる。


個別の破壊ではなく、回路の痩せさせ方だ。


「敵もこれに近いもの、知ってるかもしれない」


カナンの声が少し低くなる。


「ああ」

湊は頷いた。

「じゃなきゃ転移炉の壊し方が説明つかない」


だから反撃も、個別対応では足りない。

国の回路を太くし直す必要がある。


湊は新しい紙を出し、図面から要素を抜き始めた。


標準穀倉。

簡易水利。

量産槍。

携帯結界。

悪路荷車。

通信中継。


「やること増えてない?」

カナンが言う。


「増えてる」


「笑うな」


「いや、でも逆に見えてきたから」


一つずつ直していた頃より、やるべきことがはっきりした。

向こうで欲しいのは英雄の奇跡じゃない。

少ない資源でも国を回し続けるための再建セットだ。


祖父の設計図は、その入り口をきっちり残していた。


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