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マッチングアプリでマッチした相手は異世界の第三王女でした。〜召喚された最強クラフトマンは、崖っぷち小国を立て直して無双する〜  作者: 富益 啓


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第52話 コンビニと最強冒険者

翌朝、カナンはまず風呂に負けた。


「湯が、壁から出る?」


「蛇口ひねればね」


「魔道具か」


「まあ、広い意味では」


給湯器の仕組みを説明してもたぶん混乱するだけなので、湊はそこを雑に流した。

代わりにシャンプーとリンスの違いでまた混乱が起きる。


「似た容器を二つ置くな」


「分かる」


朝から妙なところで意見が合った。


昼前。

カナンへ最低限の着替えを用意するため、湊は町へ出ることにした。

いきなり大剣を背負った女戦士を連れて行くわけにはいかない。

古いロングコートと帽子でどうにか隠せないかと玄関先まで出したところで、隣家のカーテンが細く開いた。

湊はその瞬間、予定を捨てた。


「戻る」


「まだ一歩も出ていない」


「だから戻る。日本の住宅街でその剣は目立ちすぎる。あと、たぶん通報される」


「通報」


「衛兵を呼ばれる、に近い」


カナンは少しだけ不服そうに大剣へ目を落とした。

だが、窓の向こうをもう一度見て、黙って蔵へ戻った。

判断が早いのは助かる。


結局、湊が一人で駅前の安い衣料品店へ走った。

動きやすさ優先で選んだのは、ジーンズと白シャツだ。

サイズが合わなかったら終わりだと思いながら戻ると、カナンは蔵の作業台に腰かけ、まるで敵地の前哨基地を守る兵みたいな顔で待っていた。


試着代わりに母屋で着替えて出てきたカナンは、見慣れないはずの服なのに妙に様になっていて、湊は一瞬黙った。


「動きやすいな」

カナンが袖を引く。


「……似合ってる。ちゃんと動けそうだ」


カナンは数秒だけ止まり、それから袖口をもう一度確かめた。

「ならいい」


「不審者感すごいな」


「お前の世界の服がひょろいんだ」


「ひょろいって言うな」


外へは出せない。

代わりに湊は、買ってきた袋を台所のテーブルへ広げた。

衣服のほかに、コンビニで買った食料と日用品も詰め込んである。


「これは?」


「コンビニ」


「場所ではなく袋だが」


「店の名前というか、種類というか……小さい補給所みたいなもの」


カナンの目つきが変わった。


湊はスマホで撮ってきた店内の写真を見せた。

信号機。

自動ドア。

電柱。

配送トラック。

そして、明るい棚に整然と並んだ弁当、飲み物、菓子、薬、文具、電池。


全部を敵か道具かの目で見ている。


一番反応したのはコンビニだった。


自動ドアが開く動画を見せた瞬間、彼女は本気で眉を寄せた。


「勝手に開いた」


「店だから」


「客を選別してるのか」


「そこまで賢くはない」


画面の中では、冷気と灯りと整然と並ぶ棚が一気に押し寄せてくる。

小さな空間に“必要そうなもの”が全部入っていた。


カナンはしばらく本気で言葉を失っていた。


「……補給所じゃないのか、ここ」


「近い」


「夜でも?」


「基本ずっと」


「敵襲に強いな」


発想が完全に冒険者だ。


おにぎりを渡すと、最初は警戒した。

だが包装を剥がす仕組みに感心し、ひと口食べたあとにさらに黙る。


「どう?」


「……手軽すぎる」


「褒めてる?」


「悔しいが褒めてる」


写真をめくるたびに、カナンは何度も画面の前で止まった。

保存食が個包装され、量が揃い、値札まで統一されている。

誰が見ても同じように補充できて、同じ場所から取れる。


その当たり前の仕組みが、異世界の彼女には衝撃らしかった。


「これ、一つの街道補給所に欲しい」


「分かる」


「違う。欲しい、じゃないな。設計思想が欲しい」


その言葉に、湊は立ち止まる。


設計思想。

まさにそこだ。


便利な物をそのまま異世界へ持ち込めるわけじゃない。

冷蔵ケースもレジも物流システムも、向こうでは再現不能だ。

でも、“誰でも回せるように最初から設計する”という発想だけは持ち込める。


「規格化と補充の単純化」

湊が呟く。

「あと、見た瞬間に用途が分かる並べ方」


カナンは棚のラベルを見て頷いた。


「強いな、この店」


「最強冒険者がそう言うの、なんか面白い」


「笑うな」


台所のテーブルには、買ってきたコンビニ飯がまだ半分ほど残っている。

カナンは紙パックのお茶を不思議そうに眺める。


「容器まで軽い」


「使い捨て前提だからね」


「贅沢なのか、合理的なのか分からん」


「両方」


窓の外では、地方都市特有の生活音が遠く近く聞こえる。

その全部が、向こうの世界では珍しい。


「お前」

カナンが急に言った。


「ん?」


「王都でやってたこと、ずっと設備を直してるだけだと思っていた」


「半分はそうだよ」


「違うな。お前が見てるのは、物そのものじゃない。回り方だ」


湊は少しだけ目を見開く。

そう言われると、妙に腑に落ちた。


壊れたものを直すのは好きだ。

でも本当に効くのは、その物がどう流れを支えているかまで見えたときだ。


水利盤も、穀倉も、荷車も、通行証も。

単体じゃなく、仕組みとして直すから勝てる。


「うん」

湊は笑った。

「たぶん、それが今の俺の武器だ」


カナンはおにぎりの最後のひと口を飲み込み、無愛想なまま頷く。


「なら、この世界で盗めるものは全部盗め」


「言い方」


「設計思想を、だ」


その表現が、妙にしっくりきた。


持ち帰るのは物そのものじゃない。

物が当たり前に回るための構造だ。


毎日21時更新予定。お気に入り登録ぜひよろしくお願いします。

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