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マッチングアプリでマッチした相手は異世界の第三王女でした。〜召喚された最強クラフトマンは、崖っぷち小国を立て直して無双する〜  作者: 富益 啓


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第47話 帰れ、現代へ

追手が来たのは、リゼリアが帰った翌朝だった。


まだ空が白みきる前。

監督所の外で、馬の足音と鎧の擦れる音が止まる。


カナンは窓の隙間を一瞥しただけで言った。


「予定より早い」


「何人?」

湊が訊く。


「表に八。裏にもいる」


「多いな」


「捕縛名目にしては、な」


正面からの呼び声は丁寧だった。


「王都軍務局の命により、相沢湊殿へ追加聴取を行う! 速やかに同行されたし!」


追加聴取。

そんなわけがない。

ここへ来た数も、足音の重さも、もう“聴取”ではない。


カナンは短く舌打ちすると、床板を外して地下の細い通路を示した。


「こっちだ」


「こんなのあったの?」


「姫様が監督所に変えた理由だ。古い工事用通路が残ってる」


昨夜の旧鍵板は、その先で使うためのものらしい。

つまり最初から、ここが長居する場所じゃないと読んでいた。


「殿下、どこまで先読んでんだよ」


「全部じゃない。最悪の一手を捨ててないだけだ」


通路は狭く、湿っていた。

頭上では兵たちが監督所へ踏み込む音がする。

扉が割れ、怒号が響き、誰かが“いないぞ!”と叫んだ。


少し進んだところで、湊の足が止まる。

左へ折れる細い分岐の支保材に、妙に新しい削り跡があった。


「待って。左は駄目だ」


「何だと」

カナンが振り向く。


「噛ませ木が浅い。三人も走れば落ちる。追い込んで潰す気だ」


祖父の工具箱から細い銀杭を一本抜き、右壁の古い留め穴へ差し込む。

軽く打ち込むと、奥で錆びた鎖が外れる音がした。


次の瞬間、左の分岐だけが轟音と一緒に崩れ落ちる。

背後で追ってきていた兵たちの怒鳴り声が、土煙の向こうで止まった。


カナンが一瞬だけ目を細める。


「今のも、見えたのか」


「工事痕が新しすぎた」


「足止めする」

とカナン。


「いや、一緒に」


「ここから先は一人で行け」


言い切る声に、思わず止まる。


通路の先には、古い石扉があった。

蔵の木扉に似た紋が刻まれ、その中央に旧鍵板が嵌まる形になっている。


「これが、向こうへ繋がる扉?」


「源蔵殿が使っていた古い退避路だと聞いた」


背後から、既に兵の気配が近づいてくる。

時間はない。


それでも湊は迷った。


ここで自分だけ消えるのか。

リゼリアも、カナンも、王都も置いて。


そんな顔が出たのだろう。

カナンが苛立ったように言い捨てる。


「勘違いするな。逃がしてるんじゃない」


「え?」


「戻らせるんだ。今のお前を王都に置いても、向こうが利用するだけだ」


正しかった。

いちばん痛い形で、正しい。


「次に来るときは、追われる側じゃなくなって来い」


「……ハードル高いな」


「上げてる」


思わず笑いそうになった。

こんなときなのに、いつもの調子で言うからずるい。


鍵板を扉へ差し込む。

ぴたり、と音がした。

祖父の工具箱が震え、中の銀杭がかすかに鳴る。

石扉の紋が青く走った。


背後で兵が通路へなだれ込む。


「いたぞ!」


カナンが振り向く。

大剣を抜いたその背中は、王城地下で初めて会ったときよりも、ずっと頼もしく見えた。


「行け!」


湊は最後に一度だけ彼女を見る。


「死ぬなよ」


「誰に言ってる」


その返事を聞いて、ようやく踏み切れた。


扉の向こうへ身を投げる。

冷たい風。

胃が浮く感覚。

光の線が全身をさらっていく。


次に足裏へ土の感触が戻ったとき、目の前にあったのは見慣れた古民家の蔵の内側だった。


薄暗い。

木の匂いがする。

遠くで車の走る音まで聞こえた。


日本だ。


それを理解した瞬間、膝から力が抜けた。

助かった安堵と、置いてきた現実が同時に来る。


しばらくその場で息を整えてから、湊は蔵の扉へ手をついた。


向こう側はもう静かだ。

カナンが追ってくる気配もない。

本当に、自分だけが戻されたのだと分かる。


「……負けたな」


誰に聞かせるでもなく呟く。


でも、そのまま終わる気もなかった。


祖父の工具箱を握り直す。

旧鍵板はまだ熱を持っている。


「次は」


声が低くなる。


「次は、技術ごと持って帰る」


蔵の中で、一人きりの誓いが静かに落ちた。


毎日21時更新予定。お気に入り登録ぜひよろしくお願いします。

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