表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マッチングアプリでマッチした相手は異世界の第三王女でした。〜召喚された最強クラフトマンは、崖っぷち小国を立て直して無双する〜  作者: 富益 啓


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

45/73

第45話 王都追放

処分が下るのは早かった。


審問の翌朝、王家名義の通達が工房棟へ届く。

文面は丁寧だった。

だからこそ、余計に冷たい。


父王は長く病床にあり、最近の政務印の多くは第二王子預かりで運用されている。

王家名義といっても、その実態が誰の意思に近いかは考えるまでもなかった。


異邦人技術顧問・相沢湊に対し、事故調査完了までの間、王都外縁への一時退避を命ずる。

王城内設備への接近を禁じる。

王女区画への自由な出入りも停止する。


要するに、追放だった。


「“安全のための隔離”ねえ」


通達を読み上げた役人は気まずそうに目を逸らす。

彼自身が決めたことではないのだろう。

でも紙にされた時点で、もう個人の良心ではどうにもならない。


カナンが壁にもたれたまま低く言う。


「綺麗な言い方するな」


「綺麗な方が飲ませやすいから」

と湊。


荷物をまとめろと命じられた時間は、半日。

短すぎる。

しかも工房は封鎖済みで、持ち出しも検査対象。

つまり本気で“何も持たせずに外へ出す”つもりだ。


その最中、王城中庭では処分告知が半ば公開の形で読み上げられた。

口実は、王都内の動揺を抑えるため。

実態は見せしめだ。


集まった貴族や役人の前で、審問官が淡々と告げる。


「事故原因は未確定。しかし王都中枢への不適切接近と、異邦術具の使用疑義がある以上、現段階での在城継続は認められない」


誰も“有罪”とは言わない。

でも十分に、危険人物として響く言葉だけが選ばれている。


リゼリアは壇の脇に立っていた。

王女としての席だ。

反対を叫ぶこともできたかもしれない。

だが、それをやれば向こうは待っていましたとばかりに“王女が異邦人を庇って秩序を乱した”へ話を繋げる。


湊には、それが分かった。


だからこそ、リゼリアが沈黙を選んだことも理解できる。

それでも、痛かった。


通達が終わったあと、貴族たちの視線が一斉にこちらへ向いた。

哀れみもある。

面白がる目もある。

ざまあみろと言いたげな顔もある。


その中で、以前槍の規格整理を手伝った若い兵士が、ほんの一瞬だけ頭を下げた。

南穀倉の官吏も、目立たないように拳を握っていた。

全部が敵ではない。

ないけれど、今ここで声を上げられるほど味方も強くない。


中庭からの帰り道。

カナンが不機嫌を隠さず言う。


「殴りたい」


「誰を?」

と湊。


「半分くらい」


「多いな」


「足りない」


そのやり取りに、少しだけ救われた。


昼過ぎ、退去準備の最中に、リゼリアがようやく部屋へ来た。

護衛も侍女もつけず、一人で。

扉が閉まるなり、彼女は真っ先に頭を下げようとした。


「やめて」

湊が慌てて止める。

「それは違う」


リゼリアは顔を上げる。

普段の静けさを保とうとしているのに、目の奥だけがひどく苦しそうだった。


「……わたくしが受け入れなければ、兄上はあなたを王都外ではなく地下牢へ送ったでしょう」


「分かってる」


「でも」


「分かってるって」


ちゃんと、分かっていた。

彼女が黙っていたのは見捨てたからじゃない。

いちばんマシな負け方を選んだからだ。


それでも負けは負けで、悔しいものは悔しい。


リゼリアは唇を結び、しばらく黙っていた。

やがて低く言う。


「外縁の滞在先は、王女付名義の古い監督所に変えさせました。完全な孤立にはなりません」


「ありがとう」


「ですが、おそらく追撃は来ます」


「だろうね」


「だから――」


そこで彼女は言葉を切った。

誰か来る気配がしたのだろう。

すぐ外に足音が止まる。


リゼリアは一瞬だけ目を閉じ、いつもの王女の顔に戻った。


「時間です」


外縁へ向かう馬車は、夕刻前に出た。

見送りは最低限。

形式だけ整えられた静かな出立。


王城の門をくぐる直前、湊は振り返った。

高い塔、石壁、結界の光。

来たばかりの頃は全部異世界だった。

でも今は、直しかけた場所や守りたい人の顔ばかりが浮かぶ。


その中で、門上の回廊に立つリゼリアの姿だけが見えた。

遠くて表情までは分からない。

それでも、最後までこちらを見ていた。


王都から離れていく馬車の中で、湊はようやく認める。


自分は今、ちゃんと負けたのだと。


正論でも技術でも、その場ではひっくり返せない構造に。


毎日21時更新予定。お気に入り登録ぜひよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ